保険業の成長戦略は保険をやめることだ

保険業において、医療保険は重要な成長分野である。医療の高度化は、医療費の自己負担の高額化を意味するからである。しかし、医療費の補償よりも治療を確実に受けられることのほうが重要であり、更には、治療よりも病気にならないことのほうが重要なのであって、ここに、保険一般に通じる保険の矛盾的本質が露呈する。つまり、保険の金銭補償だけでは問題解決にならず、事故防止が徹底されれば保険の必要性が低下していくということである。

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損害保険は、もはや金融ではなく、保険ですらないであろう。例えば、自動車保険の宣伝をみれば明らかなように、保険料の安さを競っていては、理論的には極限において利益がなくなるわけだから、事故処理能力の優位を競うほかないわけである。また、企業に対する総合的なリスクマネジメントの提供は、純然たる経営コンサルティングである。

生命保険業界においては、非金融化以前の問題として、金融の領域のなかで非保険化が徹底されなくてはならない。特に、保険にする必要のない金融商品を保険化する現在の異常な事態は、直ちに是正されるべきである。そして、従来は保険の対象とされてきたものについても、保険以外の金融機能による代替可能性が再検討され、更には非金融の課題解決方法が模索されるべきである。

政府の推進する国民の安定的な資産形成とは、国営保険である公的年金の機能を最低生活保障に限定することで、豊かな生活の原資形成については、就労期間中の投資信託による超長期積み立てを推奨し、そのうえで、老後の定義を変え、就労期間を長くするという非金融の方法によって、長く生きる危険に対抗することを意味している。

医療については、社会的には治療よりも予防のほうに意義があるわけだから、治療費の金銭補償である医療保険よりも、予防にかかわる非金融の取り組みのほうが重要なのであり、配偶者が扶養家族であるという通念が崩壊し、保険による死亡保障の必要性が激減するなかでは、女性の就労機会の拡大、育児のあり方の改革という非金融の課題の解決が急務であるわけである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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