「大手=安定」は最大の罠:“非”終身雇用時代の『生存戦略』(河本英之)

安定していれば、仕事のやりがいは求めない若者たち

リクルートマネジメントソリューションズの就活生に向けた仕事に対する価値観の調査によると、「安定志向」が過去10年で最高水準に達した。(参考:「2026年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ2025/12/02)。

また、マイナビの26卒への就職観の調査によれば、「収入さえあればよい」の回答が5年連続で増加しており、10年前と比べると3倍以上の数値となっている(参考:「2026年卒大学生就職意識調査」 株式会社マイナビ 2025/04/23)。昨今の学生は、安定が得られれば、やりがいまでは求めない傾向にある。

では、学生が求める安定とは具体的に何を指すのか。それは「充実した福利厚生」や「働きやすい環境」「高い給与」である。だからこそ企業はこぞって学生に「働きやすさ」をアピールし、初任給の引き上げを行う。

しかし制度改革や賃上げには人と資金の投入が必要であり、世間の流れに乗りたくても乗れない企業も少なくない。そのため、人もお金も投資できる大企業に人気が集まりやすいのである。

しかし、「大手=安定」は本当だろうか。私は必ずしも大手に入ることが安定につながるとは考えない。むしろ、かつて「保険」だったはずの大手の看板が、今や「リスク」に変わっているとすら感じている。

人材コンサルタントの立場から、大手=安定とは言えない理由と、真の「安定」とは何かについて考えてみたい。

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「大手の肩書があれば転職に有利」は本当か?

「大手企業に入れば安泰だ」という価値観は、日本の就職観に深く根付いている。

また、人手不足や売り手市場、内定辞退した人を改めて採用する辞退者採用の拡大も相まって、就活生の中には、新卒入社した会社が合わなければいつでも転職すればいい。その時「大手の肩書があれば転職しやすい」と考える若者は多い。

しかし、「大手企業に入れば安泰だ」「大手の肩書があれば転職しやすい」という言葉を鵜呑みにするのは盲信と言わざるを得ない。

大企業の看板を失った時、何が残るのか

パナソニックホールディングスや三菱電機が「黒字リストラ」を断行したことは記憶に新しいだろう。

これまでリストラというと、業績悪化時に組織を再建するために行われるイメージが強かったが、最近は経営状態が良好なうちに企業構造を変革し、将来に向けた人員削減(希望・早期退職)を行うケースが増えている。

かつては最終手段として行われていた人員削減が、成長戦略の1つとして行われるようになっているのである。

この変化が示すのは、「大手=安定」という根拠が薄れてきたという時代の変化である。企業は事業の見直しやデジタル化の推進に伴い、必要な事業・人材を選ぶ時代に入った。このような状況下で、早期退職を前向きに捉える人も増えている。

一方、40代~50代で企業から放出され、その瞬間に大手の「看板」を失い再就職の壁にぶち当たる人材も少なくない。

  • 大手に勤めていた自身への「自己評価」と実際の「市場価値」に乖離がある
  • 業務が細分化していることによる限定的な経験・実績しかない
  • 市場価値に応じた年収の大幅ダウン

このように壁にぶち当たる理由は様々だ。

しかし、中途採用市場は、新卒のポテンシャル重視の採用から、即戦力・専門性重視の採用にシフトするからこそ、再就職に失敗しないためには肩書が無くても評価される「専門性」が必要なのである。つまり、中途採用市場で求められているのは「どこにいたか」ではなく「何ができるか」だ。

だからこそ、大手特有の「社内調整スキル」や、異動や細分化された業務内容による「広く浅い業務経験」が、時に市場価値の欠如を招く可能性があり、必ずしも大手=安定とは言えないのである。

本当の安定とは会社の「規模」ではなく、「専門性を身に着けること」だ。

「専門性」こそ、現代の「安定」の正体

ここで、「それでも大手の教育制度や人脈は有利ではないか?」という人もいるだろう。

確かに体系化された研修や、充実したOJT制度、社内外に広がるネットワークなど、大手は中小企業やベンチャーと比較すると個人のスキルアップを支援する環境が整っていることが多い。

しかし、その「環境」に依存した時点で「真の安定」からは遠ざかることを忘れてはいけない。それらはあくまで個人の成長を支援する“機会”であり、“価値そのもの”ではない。採用市場で直接評価されるのは、個人がどのような価値を生み出せるかだ。

いわゆる「1万時間の法則」が示す通り、専門性は一つの分野において長時間の主体的な学習、意図的な実践を繰り返すことによって身に付けられるものである。

だからこそ、専門性を身に着けるためには、環境に依存するのではなく、自ら課題を設定し、経験を積み上げ、それを言語化していく、そして実績に落とし込んでいく主体的な取り組みが不可欠である。

それを踏まえ、私はこの1万時間を主体的にやりきるためには、仕事における「やりがい」の存在が必要不可欠だと考えている。それは興味関心や納得感を感じない仕事において、長期にわたり試行錯誤を重ね続けることが容易ではないからだ。

だからこそ安定性だけで仕事を選ぶのではなく、「自分の志向性に合っているか」「価値観を見いだせる領域かどうか」という視点も同時に持つ必要がある。

「大手=安定」という価値観に安住することは、個人にとって最大のリスクとなり得る時代になった。だからこそ、真の安定を手にするために、自身の価値観や想いが惹かれる「やりがい」も大切にして欲しい。

真の安定とは、所属する組織の規模の大きさではなく、組織を離れても通用する「専門性」という武器を個人の手に取り戻すことである。

河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役
1981年広島県生まれ。高校中退後、大検を取得し2001年に上智大学経済学部に入学、2005年に卒業。新卒で株式会社リンクアンドモチベーションに入社し、採用戦略や組織人事領域に従事。企業規模を問わず500社以上の採用・育成コンサルティングを担当し、社内MVPも獲得。
2010年7月、シーズアンドグロース株式会社を設立し、代表取締役に就任。自身の「人の可能性の大きさ」を実感した経験に基づき、これまで16業界600社以上の企業の採用・育成を支援を行い、マイナビEXPOでは講師として登壇。著書に『新卒採用の常識を変える カレッジ型イベント』(金風舎)など多数。

公式サイト:https://seeds-and-growth.co.jp/
Tiktok:https://www.tiktok.com/@kawamoto_saiyo @kawamoto_saiyo

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2026年4月8日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。

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