前編では、Xで話題になった「Claude Codeで補助金申請を半日で一発OK」という投稿を検証し、Claude Codeである必要がないこと、補助金の採択率、そして「一発OK」が採択ではなく様式4の発行に過ぎないことを指摘した。
後編では、なぜこうした物語が広まるのか、そしてAIの正しい使い方を考える。

なぜ人は「AI一発採択」を信じたがるのか
人は「努力せずに成果が出る話」に極端に弱い。特に補助金のように本来手間がかかるものほど、「AIで半日、一発OK」という物語は魅力的に映る。
しかし冷静に考えれば、この投稿の成功要因はClaude Codeではない。事業内容が補助金の趣旨に合致していたこと、申請者自身が実数字を把握していたこと、そして採択率50%超の補助金を選んだこと。これらの条件が揃っていたからこそ書類がスムーズに通ったのであって、ツールの手柄ではない。成功要因の誤帰属、つまり「たまたまうまくいった結果を特定のツールの功績と錯覚する」現象が、ここでも起きている。
補助金の審査で問われるのは、自社の経営状況を適切に把握しているか、自社の強みを踏まえた経営方針になっているか、対象市場の特性を理解しているか、そして補助事業の実現可能性が高いかどうかだ。
投稿者自身が認めている通り、「実数字で壁打ち」が最も時間がかかった工程だった。Claude Codeの下書きに対して「この数字は現実的じゃない」「ここをこうして」と人間が修正を重ねたという。これこそが申請書作成の核心であり、AIが自動的に解決できる領域ではない。
事業の実態を知り、数字の妥当性を判断できるのは事業者本人だけだ。AIはその思考を整理し、文章化する補助ツールにはなるが、事業計画の中身そのものを生成することはできない。
専門家の仕事は「テキスト生成」ではない
投稿者は「補助金申請補助で費用を取っている税理士さんもいると思う。Claude Codeを使えば、その業務の大半が数時間で巻き取れる時代になった気がする」とも書いている。
これは二重に誤っている。第一に、繰り返すがClaude Codeである必要はない。第二に、補助金申請の支援業務は書類のテキスト生成だけではない。事業計画の妥当性を検証し、経費の積算根拠を整え、審査基準に照らした戦略的な計画書を構築する。さらに採択後の実績報告や事務局とのやり取りまで含めた一連の伴走支援が、専門家の仕事だ。
なお、補助金支援の主な担い手は税理士だけではなく、中小企業診断士や認定経営革新等支援機関も大きな役割を果たしている。採択率80%超を謳う認定支援機関が存在するのは、制度理解と実務経験に基づく専門知識に価値があるからだ。テキスト生成の効率化と、専門家の仕事の代替はまったく別の話である。
では、AIをどう使うべきか
誤解のないように言っておくと、AIを補助金申請の作業効率化に活用すること自体は合理的だ。むしろ積極的に使うべきだと考えている。
正しい使い方はシンプルだ。claude.aiのProプラン(月額約20ドル)で十分である。Projects機能に過去の決算書や事業概要をアップロードし、経営計画の下書き生成、必要項目の洗い出し、実数字での壁打ち、文章の推敲を対話的に進めればいい。これだけで、半日どころか数時間で高品質な申請書の原案ができる。
問題は、それを「Claude Code」という開発者向けツールの手柄として語り、あたかもターミナル上の環境でなければ実現できないかのような印象を与えることだ。非エンジニアのビジネスユーザーが、APIの従量課金や開発環境の構築といった余計なハードルを越える必要はまったくない。
Claude Codeは優れた開発ツールだ。だが、それはソフトウェア開発という本来の用途においての話である。補助金の申請書を書くのに、ターミナルは要らない。AIは強力な補助輪だが、事業のハンドルを握るのは人間だ。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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