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合衆国最高裁は3月25日、コックス・コミュニケーションズ(以下、「コックス」)の著作権侵害に10憶ドル(1600億円)の損害賠償を命じた下級審判決を覆す判決を下した。
地裁の陪審は10憶ドルの損害賠償を認める
コックスは6百万人にインターネット・サービスを提供する米国最大の電気通信会社。コックスの利用者による音楽の違法ダウンロードに対し、ソニーミュージック・エンターテインメント(以下、「ソニーミュージック」)は、コックスの著作権侵害の寄与侵害責任および代位侵害責任を問う訴訟をバージニア東連邦地裁に提起した。
寄与侵害責任は著作権侵害に寄与した責任、代位侵害責任は直接の侵害者ではないが、侵害行為を「監督・管理する権限と能力」を持ち、その行為から「直接の経済的利益」を得ている者が負う責任。
地裁の陪審はいずれの責任も認め、10憶ドル(1600億円)の法定損害賠償を命じる評決を下した。上訴を受けた第4巡回区控訴裁判所は、寄与侵害責任は認めたが、代位侵害責任については否認する判決を下した。最高裁は代位侵害責任については、上訴を受理せず、寄与侵害責任についてのみ上訴を受理した。
最高裁、寄与侵害責任を否認
最高裁はインターネット・サービスプロバイダーが、
① サービスが侵害に利用されるのを意図している場合にのみ、寄与侵害責任を問える
② 寄与侵害の意図は侵害を誘因したり(induced)、サービスが侵害に合わせて作られていたり(tailored)した場合にのみ証明できる
とした上で、コックスの行為がこれらの基準を満たすと陪審が判断するには証拠不十分であると判定した。
むしろ、
① コックスのサービスは侵害しない利用がかなり可能である
② コックスが侵害を防止する措置を取っていた
ことなどから寄与侵害責任を問えないとした。
| 裁判所 | 寄与侵害責任 | 代位侵害責任 |
| バージニア東連邦地裁 | 〇 | 〇 |
| 第4巡回区控訴裁判所 | 〇 | × |
| 合衆国最高裁 | × | ― |
(〇:容認、×:否認、―:上訴不受理で判断せず)
ソニーベータマックス判決などを参考にした最高裁
最高裁は過去の二つの最高裁判決を参考にした。1984年のソニー判決では、ビデオテープレコーダー、ベータマックスは、著作権を侵害するテレビ番組複製に使われると同時に非侵害利用がかなり可能なので、寄与侵害責任は問えないとした。その後のハイテク業界にとってマグナカルタとも呼ばれる画期的な判決である。
2005年のメトロ・ゴールドウィンメイヤー対グロックスター判決では、最高裁は寄与侵害責任を認めた。誰かが他人に侵害行為を唆したり説得したりした場合、またはサービスが侵害行為以外に何の役にも立たなかった場合には、寄与侵害責任を問えるとした。
最高裁はコックスがこうした行為をしていないことから、ユーザーによるソニーミュージックの著作権侵害には寄与していないとして、第4巡回区控訴裁判所の判決を覆した。9人の判事のうち2人が補足意見を書いたが、トーマス判事の書いた多数意見には全員が賛同した。
ソニー判決と対照的な日本の最高裁クラブキャッツアイ判決
ソニー判決4年後の1988年、日本の最高裁は対照的な判決を下した。拙著『国破れて著作権法あり~誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか』「6-6 対照的な日米の最高裁判決」でソニー判決とともに紹介したクラブキャッツアイ判決である。
楽曲を歌う「客」だけでなく、歌う場を提供した「カラオケ店主」も著作権の侵害者であると拡大解釈できるカラオケ法理を生み出した。その後も下表のとおり、様々なシーンでカラオケ法理は適用され、ネット関連の新技術・新サービスの開発にブレーキをかけた。
その結果、日本市場まで米IT企業の草刈り場にされ、デジタル赤字が拡大し続ける日本のデジタル敗戦を招くことになった。
カラオケ法理が適用されたインターネット関連サービス判決
| ファイルローグ事件(2005年3月、東京高裁) |
| 利用者のファイルリストを中央サーバーで管理し、利用者が音楽ファイルを交換できるようにするサービス |
| 録画ネット事件(2005年11月、東京高裁) |
| テレビ番組を録画して、インターネットを通じて利用者の所有する端末に転送するサービス |
| MYUTA事件(2007年5月、東京地裁) |
| 利用者がインターネットを通じて楽曲の音源を事業者のサーバーにアップロードし、必要に応じて利用者の所有する端末に楽曲をダウンロードするサービス |
| まねきTV事件(2011年1月、最高裁) |
| 利用者が預けた機器を通じてテレビ番組をインターネット経由で転送するサービス |
| ロクラクII事件(2011年1月、最高裁) |
| テレビ番組を事業者の機器で受信・録画し、インターネットを通じて利用者の所有する端末に転送するサービス |
注:( )内は判決の確定した時点と裁判所。
出典:『国破れて著作権法あり~誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか』(みらいパブリッシング)185頁。
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