
正直に言う。副業の話をすると、だいたい二つの反応に分かれる。「私もやりたい」か、「うちの会社、禁止なんですよね」か。後者の顔が、いつも暗い。
『今さら聞けない 副業の超基本:知識ゼロ 経験ゼロから始める(今さら聞けない超基本シリーズ)』(大村信夫 監修、樫村周磨 監修)朝日新聞出版
まあ、気持ちはわかる。つい数年前まで、副業なんて「会社への裏切り」みたいな空気があった。就業規則で禁止、発覚すれば懲戒処分。昭和どころか、令和に入ってもそんな会社はごろごろしていた。いや、今もある。
ところが、だ。労働政策研究・研修機構(JILPT)が2024年7月に出した調査を見て、少し驚いた。
副業をしている理由の1位は「収入を増やしたいから」で54.5%。まあ、これは想像通り。問題は2位だ。「1つの仕事だけでは生活できないから」が38.2%。
——ここで、ちょっと立ち止まってほしい。4割近い人が、本業だけでは生活が成り立たないと言っているのだ。これは副業を「やりたくてやってる」話ではない。やらないと食えない、という話である。
もちろん前向きな動機もある。「活躍できる場を広げたい」が18.7%、「副業のほうが本当に好きな仕事だから」が9.7%。こっちは純粋に応援したくなる。本業では味わえないやりがいを副業で見つけて、いきいきしている人を何人か知っている。
ある知人は平日、都内の企業で経理をやりながら、週末にオンラインで簿記の個別指導をしている。「教えてるときのほうが楽しいんですよ」と笑っていた。こういう話を聞くと、副業の本質は「お金」だけじゃないなと思う。
企業側はどうか。エン・ジャパンの調査(2024年)によれば、IT系企業の60%が副業をなんらかの形で認めている。一方で商社は23%。この差は何なのか。
要するに、人材の流動性に慣れている業界と、そうでない業界の温度差だろう。商社の69%が「禁止」と答えているのを見ると、「社員は会社のもの」という意識がまだまだ根強いのだなと感じる(まあ、商社には商社の論理があるのだろうが)。
ただ、ここで一つ釘を刺しておきたい。副業を始める前に、自社の就業規則だけは絶対に確認してほしい。
競業避止義務だの情報漏洩だの、面倒な話だが、ここを甘く見ると本当に痛い目を見る。本業で得た顧客データを副業に流用して懲戒免職になった事例は、実際にある。信頼を失うのは一瞬だ。面倒でも、ここだけは省略してはいけない。
副業をしている人の本業で最も多いのは「正社員」で38.1%。次が「パート・アルバイト」の28.4%。雇用形態に関係なく、人はもう一つの収入源を求めている。というか、求めざるを得ない時代になった。
副業は「小遣い稼ぎ」じゃない。生存戦略だ。——言い過ぎか。いや、38.2%の「生活できないから」を前にして、そうでもないだろうと思う。
【付記】
共著なので著者は二人いる。大村さんとは銀座のセミナー会場で名刺交換をしたことがある程度の面識だが、もう一人の樫村氏とは少しだけ縁が深い。30代の頃、同じ会社にいた。彼は部門の執行責任者で、私は新規事業部門の立ち上げメンバー。私のほうは事業がとん挫して部門が解体、2年で会社を去った。
彼は当時から役員を嘱望されていたから、てっきりそのまま上に収まったのだろうと思っていた。数年後、有楽町で久しぶりに会食する機会があったが、彼はその間のことを多くは語らなかった。
外に出て自ら事業を立ち上げ、軌道に乗せるまでには相当な苦労があったはずだ。共著とはいえ、これが初の著書になる。データを丹念に積み上げた構成は、あの頃と変わらない彼の朴訥な人柄そのものだと感じた。次回は単著で出されることを期待したい。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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