日本の防衛産業国有化の隘路

防衛産業再編という話がやっと最近俎上に上がってきた感じです。ぼくが30年も訴えてきたことです。併せて民間では難しい事業は国営とすべきとも訴えてきました。以下の東京財団の政策提言を書いたのは四半世紀も前のことです。

東京財団委託政策提言
国営防衛装備調達株式会社を設立せよ

ですがそれをどう進めるのか。道を誤れば不効率なお荷物になりかねません。

防衛産業の再編「有効な手段」 財制審、野放図な国有化はけん制

防衛産業の再編「有効な手段」 財制審、野放図な国有化はけん制 - 日本経済新聞
財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会は23日、防衛装備品産業の統合などの事業再編が生産コスト抑制に「有効な手段」と提起した。政府・与党で浮上する製造設備の国有化には、国の関与がなければ安定供給が難しい分野を法令で明確にするよう求めた...

財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会は23日、防衛装備品産業の統合などの事業再編が生産コスト抑制に「有効な手段」と提起した。政府・与党で浮上する製造設備の国有化には、国の関与がなければ安定供給が難しい分野を法令で明確にするよう求めた。

コスト低減や研究開発投資、有事を見据えた生産力の確保には「事業連携や部門統合等は有効な手段となり得る」と訴えた。

政府・与党では工場の国有化が集約の手段として浮上する。「事業再編を通じた生産性向上や、さらなる国の関与がなければ安定供給の確保が困難」といった要件を法令で担保すべきだと促した。国有財産が野放図に広がれば、採算悪化などで財政負担が膨らむリスクをけん制した。

増田寛也会長代理は会議後の記者会見で、日本は関連企業が分散しており「防衛産業の強化やリスク分散の観点からも、企業体の力を増やすことが必要だ」と話した。

政府・与党内には現行の「2%目標」から引き上げるべきだとの見方がある。

日本の防衛力強化はかけ声先行の面もあり、予算計上しながら使わなかった不用額と繰越額が毎年1兆円規模で発生している。

毎度申し上げておりますが、防衛省、自衛隊、党の防衛産業にも防衛産業が「産業」であるとの意識がありません。そして防衛省にはビジネスのわかっている人材もいない。軍事を理解し、軍事産業、それもマーケットという視野をもって経営できる人材が殆どいません。そういう人材は商社にいますが、防衛省の防衛産業政策では商社は無視されています。

そもそも通信やドローンなどでもその周波数帯では無理だというのに全く完全しないでスペックダウンして屑を平気で調達してきました。もうすぐメーカーが調達中止するカールグスタフM3の輸入でも途中5年間は調達停止して、ぼくが記事を書かなければいまだにM4ではなくM3を調達していたでしょう。サーブもさすがに製造を途中で打ち切ってたでしょう。であればAH-64D同様に調達は尻切れトンボで終わっていたはずです。AH-64Dで犯した無様な失敗の教訓を陸幕も、装備庁も全く活かしていない。

つまり当事者能力がない、ということです。

それは18式防弾ベストの調達も然りで、他国より一桁高い防弾板を平気で採用して、何年で調達を終了するという調達計画すらなかった。これもぼくが記事にしてなければいまだに漫然と調達が進められて、部隊にいきわたることもなく、途中で調達が終わっていたでしょう。

そして今まで暁堺再編に防衛省は及び腰で、「民間の問題」だとしてきた。他国の何倍も高い調達コスト、7倍以上の維持費の航空機を平然と買い続けてきた。本来70年代ぐらいから主要航空機メーカーは再編すべきだったし、民間機の生産もすべきだった。

そうしないと産業としての事業規模が確保できないのに、防衛省の仕事だけでさもしい商売をしてきたのが日本の航空産業です。しかもできもしない輸送機や飛行艇の民間転用や輸出があたかもできるように官民で結託して納税者をだますための夢を語ってきた。これは経産省も同罪です。

統合再編は実は難しくない。防衛省が「来年からおたくの製品は買いません」と告げるだけでいい。防衛省から仕事がなければ生産設備は屑同然になるので、それを残った企業が買いたたけばいい。

輸出を目指すならば完成品よりコンポーネントと素材です。レッドオーシャンの軍事市場で政治的かつ外交的な商品である高額な航空機や軍艦を売っていくのは極めて困難です。それよりも外国製装備を導入し、その一定パーセンテージをオフセットで要求してサプラチェーンに入り込む方がいい。そうすれば有事に他国から同じ装備の調達も可能となる。

また日本企業はコンポーネントレベルでは優秀です。例えば日本製鋼所だって独自の大砲はアレですが、砲身の精度だけはいい。同社の戦車砲を買いたいメーカーはないでしょうが、砲身だけなら売れるでしょう。実際以前BAEシステムズが興味を示していました。

であれば輸出振興はコンポーネント、素材、更に申せば工作機械を中心に行うべきです。また商社を有効活用すべきです。中小企業やスタートアップ企業と資金と情報をもった商社が組めば輸出もやりやすいでしょう。決定まで時間がかかってまとまった契約がきまらずに、毎年入札しているような防衛省より海外の企業や軍を相手にした方がよほど利益になるでしょうし、事業計画も立てやすい。

どうしても民営化できない部分は国営化すべきですが、それも経営を透明化すべきです。政府が黄金株をもって、株式上場させて財務や事業内容を明らかにする。更に外部の監察組織を設けるべきです。

それから航空機の訓練機関も統合すべきです。3自衛隊及び海保、警察、自治体のヘリや固定翼機の初等訓練、整備員の育成を一つの機関で行うべきです。ドクターヘリも含めて。

別途にやっているような人的リソースは我が国にない。それに加えてパイロットや整備員を自衛隊から他の政府機関に割譲する。例えば40代で地方公務員に移動すれば65歳まで働けます。

陸自航空隊OBの将官の方が3自衛隊でそのような構想の教育機関を提案してかなり活発に活動されて、幕僚長レベルでも賛成の声が多かった。ところが利権と組織防衛の佐官クラスが潰してしまった。

それとは別に保税特区を作って、そこに外国の工場を誘致する。それに関しては日本政府や日本企業との合弁にするヨルダンがよく使っているスキームです。製造だけでなくメンテナンスもそこで行えばいい。保税であればコンポーネントを輸入しても税金がかからない。また外資による買収や資本参加も規制を減らしていく。今週ノースロップグラマンのメディアブリーフィングで質問したのですが、ベンダーとしてこの1年ぐらいで40社程度調査をして、5、6社ほど有望な会社を見つけたといっています。

日本の技術は優れている、日本製兵器は優れているというイリュージョンから早く目を覚ますべきです。そのうえで現実的かつ、機能する政策を選ぶべきです。

89式装甲戦闘車(89FV)防衛省HPより(編集部)

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防衛破綻 – 清谷 信一


専守防衛 – 清谷 信一


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2026年4月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。

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