脅迫・撤回の常習犯トランプ大統領の拡声器にメディアはなってはならない

中村 仁

爆撃予告が停戦交渉へ、停戦交渉が爆撃へなど、トランプ米大統領の外交・関税政策の基本方針が連日、くるくると変わります。TACO(トランプはいつも尻込みするの頭文字)と言われます。一体、大統領就任(25年1月)以来、こうした方針転換が何回、あったか数えてみました。一年ちょっとの任期中、大中小合わせて100回程度のようです。

米国発のニュースを私は全部把握しているわけではないので、ChatGTPに質問してみました。「大(関税の大幅引き上げ、イラン戦争など国家政策の根幹を変える)が10-15回。中(重要政策の条件変更、先送り)20-30回。小(発言修正、トーンダウン)が50回以上」などとの答えです。

イラン戦争に限れば、「大(大規模な軍事攻撃示唆の撤回、徹底攻撃から停戦交渉へなど)が2-3回、中(停戦成立から再爆撃、停戦合意示唆という嘘)が3-4回、小(完全勝利と言った後、様子見に転換など)が4-6回」がChatさんの回答です。

トランプ大統領 ホワイトハウスHPより

ChatGTPも米メディアも100件

もちろんTACOの定義やその範囲、大中小の区分の妥当性によって、数字は変わってきます。Chatさんに「米メディアがどう数えているか」を聞きましたら「NBCは大(major reversal)は12回。フィナンシャル・タイムズ(英)は市場関係者の見方では60-70件(大きな変更、条件修正)」。WSJは紙は「数えられず、恒常化している」(つまり数えることにあまり意味がない)との立場とのことです。そうでしょうね。

連日どころか朝と晩で方針が変わる「朝令暮改」ですから、数にこだわるべきではないし、市場はトランプ大統領の言動を織り込んで反応(撤回すると織り込む、変更、修正を予想、あっまたか)するようになってきました。

数よりトランプ氏の修正が問題

問題はトランプ氏の意識構造、習性です。Chatさんは「全部が思い付きではない」と指摘し、以下のように分類しています。
①戦略的、戦術的に本人なりの狙いがある=3、4割。
②思い付き、衝動型=2、3割。
③勘違い、理解不足型=1-2割。
④意図的なうそ、誇張型=1-2割。
⑤その場しのぎ型=2割。

全てがTACO(おじけづく、弱腰)ではなく、本人なりの計算はしてある。もっとも整然、体系的、合理的な計算というより、「強く出て相手の譲歩を勝ち取る」、「実力行使を予告して合意を迫る」という不動産業界的なディールの手法が「本人なりの計算」というわけです。

政治家の発言の重みが様変わり

ここで最も懸念すべきことは、「メディアがトランプ氏の拡声器になっているのではないか」、「トランプ氏を批判する一方で、トランプ氏の脈絡のない大言壮語を垂れ流していないか」とうことです。

これはトランプ氏の場合に限らず、現代の政治権力者の報道ぶりにも共通する問題です。政治家の発言、言葉の持つ重みが変質してしまったような時代に入っているからです。

多くの国の政治指導者は、政治的パーフォーマンス、政治ショー、政治的演出に力点を置いて発言しています。強い言葉を先に発し、外交・経済・社会にとって筋の通った政策に結びつくかどうかは後まわしにます。高市首相の「飲食料品の消費税ゼロ」公約も、野党に対する選挙対策として発言してしまい、現在は「富裕層に有利で、実務的な困難(会計処理、準備期間など)も多い」として疑問符がつけられています。

ネット情報化社会にますます進み、メディア及びその検証プロセスを通さず、政治権力者が直接、社会に発信し、既存メディアは速報競争に巻き込まれてしまっています。

本来なら、政治権力者による情報発信の真実性、実現可能性、虚構性をなどが必要なのです。それらを検証しようとしても、トランプ氏の場合、次の情報(攻撃宣言→その撤回、延期など)をしますので、メディアはそれを垂れ流さざるを得なくなっています。

本来なら、政治権力者の情報発信に対し「今回もまた不確実だ」、「実施できるかどうかは不透明だ」、「政府による決定どうかは未定」などを付随した報道にすべきなのに、それが難しくなっているのです。

高市首相にも共通する政治ショー化

「高市政権発足半年」の検証を新聞各紙は書いています。気になったのは読売新聞が「速決即断の高市政治」という主旨の連載です。経済学者の大半が反対している消費税減税、ガソリン価格高騰対策としての補助金などは熟慮して決定すべき政策課題です。正しい方向への即断即決ならいい。そうなってるのか疑問です。

高市政治には「独断速決」という批判が聞かれます。政治がショー化している現状が日本でも色濃くなっていることを危惧します。

「政治権力者の拡声器」、「検証、確認が追い付かない誤報装置」にメディがならないことを願っています。新聞、テレビなどのメディアはフェークニュース(偽情報)の点検や阻止、著作権侵の防止などに懸命です。同時に、政治権力者の誤報拡散装置になっていることへが必要です。政治ショー的な情報発信はそれを見ぬき、トップニュースで扱わない、一面トップ記事として掲載しないなどの判断がせめてあってほしい。


編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2026年4月25日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。

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