
NHKより
顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久
米国のドナルド・トランプ大統領への暗殺未遂事件がまた全世界を揺るがせた。
たびたびの自分自身の暗殺の試みに同大統領は今回はどう対処したのか。その言動を追うと、自身の政策や理念を危機に面しても崩さず、冷静に対応し、しかも暴力を排除して、党派間の対立はあくまで平和的な方法で解決しようと主張した。その軌跡からは反トランプのメディアがこれまで描いてきたのとは異なる傑出したリーダーシップが浮かび上がる。トランプ大統領のこのテロへの沈着な対応はトランプ嫌悪の陣営も認めざるをえないだろう。
4月25日の土曜日夕方、ワシントン市内の中心部にあるワシントン・ヒルトン・ホテルで起きた1人のテロ容疑者による発砲事件は全米に衝撃を与えた。トランプ大統領とホワイトハウス記者会とのディナーパーティーだった。同ホテルの大ホールで2600人もの政府高官や記者たちが集まった舞台だった。1人の男が突然、大ホールの入り口の検問所を疾走して、突破した。男は散弾銃、ピストルナイフなどの武器を持ち、銃を数発、発射した。だがすぐに警備要員に逮捕された。
この男はカリフォルニア州在住のコール・トーマス・アレンという31歳の人物だと判明した。アレン容疑者は家族にあてた「犯行声明」でトランプ大統領らを「小児性愛者、強姦魔、国家反逆者」と断じ、政権の上位、つまり大統領から順番に殺していくと宣言していた。その結果、アレン容疑者は暗殺未遂の罪などで起訴された。
さてトランプ大統領の危機に対応した際の言動を追ってみよう。
大統領は銃声が響くとすぐに警護のシークレット・サービスの要員数人に体を重ねられるように守られ、会場を退出した。だがその後、すぐに単独の暗殺容疑者が逮捕されると、トランプ大統領はまず第1に大ホールに戻ってパーティーを続けることを提案した。しかし会場の混乱や危険性の不明により、この案が無理となると、トランプ大統領はこの記者会での集いを今後1ヵ月以内に再び開くことを提案し、認められた。
第2にトランプ大統領がとった冷静な措置は緊急に記者会見を開くことだった。ホテルから2.5キロほど離れたホワイトハウスに戻り、プレス用のブリーフィング・ルームの壇上に立って、暴力を非難し、さらに「党派間の対立はあくまで平和的に解決しよう」と語った。
当然のことではあるが、つい直前に自分の命を狙われた人物の言葉としての意味は重かった。トランプ氏はパーティーに出た際のタクシードにブラックタイという正装のままでの緊急の記者会見だった。
第3にトランプ大統領はこの記者会見で記者側からの多様な質問に丁寧に答えたことだった。質問のなかには「なぜあなたはこれほど頻繁に命を狙われると思うか」という辛辣な問いつめもあった。だがトランプ氏は「私が大統領としてきわめて多くの政策を実行しているからだろう」と淡々と答えた。
大統領はさらに「こういう危機の際は保守もリベラルも中道派もみな団結して、アメリカ合衆国の民主主義を守っていこうではないか」とも述べたのだった。
トランプ大統領の独特のリーダーシップを示した第4の特徴は、同大統領がそもそもこのホワイトハウス記者会主催のパーティーに出席したことだった。トランプ氏はこれまで毎年のこのパーティーへの招待はすべて拒んできたのである。
2017年1月に初めて大統領に就任してからの第一期の4年間も、2025年1月からの第二期の1年半近くも、ホワイトハウス記者団には厳しく冷淡な態度で接してきた。その理由はトランプ氏が初就任以来、主要なメディアの報道を不正確、不当だとして、「フェイク・メディア」と断じてきたことだった。
確かにトランプ陣営がロシア政府と共謀して、2016年の大統領選挙を不正に操ったとする「ロシア疑惑」も根拠のないトランプ叩きだと証明された。だがトランプ氏はその後、メディアへの対策の改革を進め、メディア側も軟化した形で今回、初のトランプ大統領が出席してのホワイトハウス記者会の夕食会となったのだった。
今回の事件でのトランプ大統領の対応には以上のような特徴があった。いずれも冷静で沈着と呼べる反応だろう。トランプ大統領の政策や言動にはもちろん反対しても、賛成であっても、判断する側の自由である。だが今回の暗殺未遂事件でトランプ大統領がみせた対応のポジティブな側面は素直に認めるべきだろう。
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古森 義久(Komori Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2026年4月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。







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