米国を国賓訪問中の英国王チャールズ3世は28日、米連邦議会議事堂の上下院合同会議で演説したが、議会で傾聴していた民主党と共和党の両党議員から大喝采を呼んだ。チャールズ3世は演説の最初にアイルランド出身の作家オスカー・ワイルド(1854~1900年)の有名な言葉を引用した。
We have really everything in common with America nowadays, except, of course, language.”
(私たちは今日、アメリカと、言葉を除いて、本当にあらゆるものを共有している)
同言葉はワイルドの短編小説「カンタヴィルの幽霊」に登場する一節だ。イギリス人とアメリカ人が同じ「英語」を話しながらも、実際には表現や文化的なニュアンスが異なることを皮肉ったワイルド特有の冷笑的なユーモアとして良く知られている。

英国王チャールズ3世とカミラ王妃を歓迎するトランプ米大統領夫妻、ホワイトハウス公式サイトから、2026年4月27日
チャールズ3世のユーモアを理解するためには、米英両国の現状を理解する必要があるだろう。米英両国は価値観や歴史で同質性があり、文化的、社会的に類似面が少なくないが、米イスラエル軍のイラン攻撃を始めてから両国で様々な不協和音が生じている。トランプ米大統領はイラン戦争に批判的で、軍事的連帯を拒否するスターマー英首相を名指しで批判するなど、米首脳関係はここにきて少なくとも政治・外交レベルで急速に冷却してきている。
米国人と英国人は同じ「英語」を話す国民だが、現実の両国(首脳)は相互に不信感に陥っている、ということをワイルドの言葉を引用することでやんわりと語ったわけだ。チャールズ3世のユーモアは議会の雰囲気を一挙に和らげた。同3世のユーモアは文字通り、アイスブレークの役割を果たしたのだ。
チャールズ3世は米国建国250年への祝賀、民主主義の意義、北大西洋条約機構(NATO)の重要性、そして国際社会でのパートナーショップの役割などについてユーモアを含めて語った。特に会場を沸かせたのは、国王が自身の先祖と歴史に触れた自虐的なユーモアを発した時だ。
国王は、米英の複雑な歴史をチャールズ・ディケンズの名作『二都物語』にかけて、「この街(ワシントンD.C.)は、私たちの共有する歴史の一時期、あるいはチャールズ・ディケンズなら『2人のジョージの物語』(A Tale of Two Georges)と呼んだであろう時代を象徴している」と説明。ここでいう2人のジョージとは、アメリカ初代大統領のジョージ・ワシントンと、独立戦争時の英国王であり国王の5代前の祖先であるジョージ3世を指す。国王はかつて敵対した歴史を振り返りつつ、「ジョージ3世は一度もアメリカの地に足を踏み入れませんでした。どうぞご安心ください。私は今回、(独立を覆そうとするような)狡猾な後方支援(cunning rearguard action)のためにここへ来たわけではありません」と付け加え、会場の爆笑を誘った。
28日の国王の演説とそのユーモアの場面を再現したが、英国王のユーモア溢れるスピーチを聞きながら、戦争と紛争、批判と中傷に溢れる喧騒な世界で改めて私たちが口から出す「言葉」が如何に大きな影響を与えているかを考えさせられた次第だ。国益の違い、見解や立場の相違ゆえに、私たちは相手(国)を激しくののしったり、批判する。討論でも相手の欠点、失敗をこき落すことに躍起となる。
イエスは「人の口に入るものは人を汚さないが、人の口から出るものが人を汚す」(「マタイによる福音書」第15章)と述べた。「言葉」はナイフより鋭利であり、相手の心を傷つける場合がある。普通の怪我ならば数日で癒されるが、相手が発した「言葉」が心の中に深傷として残ることがある。「言葉」が憎悪、敵意、嫉妬から誘発されていた場合、その「言葉」は非常に危険な武器となる。
「言葉」は人を殺すこともあるが、人を鼓舞して再生させる力も有している。どちらを選択するかはその人の責任だ。新約聖書「ヨハネによる福音書」の最初の書き出しに、「初めに言(ことば)があった。言葉は神とともにあった。言葉は神であった」と記述されている。「言葉」、ロゴスは本来、新しいものを生み出す原動力だった。それがいつの間にか、人を傷つける武器となってきたわけだ。言葉の”非武装化”が求められる所以だ。
ユーモアは厳しい状況下でも聞き手に笑みを生み出す力を有している。米民主党と共和党の党派間では現在、様々なテーマで激しいやり取りが行われている。そのような中、チャールズ3世のユーモアは上下院合同会議の議事堂を駆け巡った。国王の演説が終わると、両党議員たちが立ち上がって拍手を送った。最近では珍しいシーンだった。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年5月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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