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熊本地震から10年が経過しました。先日私は、[熊本地震震災ミュージアム]を訪れて、保存された地震断層の露頭を見学してきました。

この露頭では、【右横ずれ断層 dextral strike-slip fault】の【せん断帯 shear zone】に特徴的な「彡(さんづくり)」状に【雁行 echron】する【開口亀裂 open crack】が連続して一つのマクロな断層を形成している状況を非常によく観察することができました。
思い起こせば、熊本地震の一連の地震活動においては、まず、2016年4月14日21時24分にマグニチュード6.5の地震が発生しました。この地震発生の翌日にあたる2016年4月15日、私は米国地質調査所(USGS)の観測記録から地震のメカニズムを分析し、ブログ記事としてアップしました。
米国のデータを基に平成28年熊本地震の発生メカニズムを分析する

当初この地震は「本震」とみられていましたが、2016年4月16日1時25分にマグニチュード7.3の大地震が発生すると、「本震のトリガーとなった前震」と修正されました。
この現象を受けて、当時の私は一つの仮説を立てました。それは、リバウンド型の大地震の発生を事前予測するのは容易ではないものの、群発地震の発生を伴う内陸型の大規模地震活動は、小規模地震の時空間統計によって比較的精度よく事前予測が可能ではないかというものです。
地震学の古典的法則として【グーテンベルグ・リヒター則 Gutenberg Richter law】があります。これは様々な地震のマグニチュードとその累積発生頻度の常用対数のプロットが直線状に乗る(一次関数で表すことができる)というものです。
この直線の傾きの絶対値は【b値 b-value】と呼ばれています。このb値が小さいほど、相対的に大きな破壊が生じていることを示し、b値が大きいほど、相対的に小さな破壊が生じていることになります。
一般に小規模地震の発生過程(岩盤の破壊過程)とb値の時間挙動の関係は次のようなメカニズムで説明できます。
- 岩盤に応力が集中すると、亀裂が発生・進展・結合することによって徐々に規模の大きい破壊が生じ、破壊に伴う地震の規模も大きくなる(b値は減少する)。
- これらの破壊の集合体として最終的に大規模な亀裂が形成されて大きな地震が発生する(b値は最小となる)。
- 大規模な亀裂が形成されると、ひずみエネルギーの解放と応力の再配分により、破壊の規模が小さくなり、破壊に伴う地震の規模も小さくなる(b値は増加=リバウンドする)。
このグーテンベルグ・リヒター則は、基本的に長期間の観測データに適用されて、大地震の発生予測に利用されていますが、大地震発生の再現期間は極めて長期にわたるため、必ずしも期待された精度が得られているかが検証できない状況にあります。そんな中、この法則を群発地震や大地震発生後の余震など、再現期間が極めて短い事象に利用できるのではというのが私のアイデアでした。
早速、国立研究開発法人防災科学技術研究所からネット上に提供されている「気象庁一元化処理震源要素」「Hi-net自動処理震源リスト」を基にb値の時間変動を算出した結果を、本震から2日後の2016年4月18日にブログ記事としてアップしました。
熊本地震の本震は本当に予測できなかったのか? 私には方法論があります
その結論は、「b値を使えば、今回の本震の発生を事前に定量的に予測できる可能性がある」とするものでした。実際にb値は、本震で最小値をとり、リバウンドしています。

その後、私は、twitter上でb値の値を示すとともにリアルタイムで大規模余震発生の予測を続けました。その予測結果を整理したものが、2016年4月27日にアップしたブログ記事です。
実際、b値の時間挙動は、その後に発生した大規模余震の発生とよく対応しました。大規模な地震の前にb値は大きく減少し、地震発生とともにリバウンドしたのです。

当時は、b値に着目して熊本地震を評価した例は全くありませんでしたが(地震調査研究推進本部地震調査委員会)、その後、地震学の分野に一定の動きがありました。大学や公的機関の研究者の皆さんが、熊本地震の観測記録を基に次々b値の時間挙動を分析し、b値が内陸地震発生予測への有効性を検証し始めたのです。
東北大学大学院理学研究科・大槻憲四郎名誉教授
静岡県立大学グローバル地域センター・楠城一嘉特任教授
九州大学大学院理学研究院地震火山観測研究センター・松本聡教授
気象庁
特に気象庁という行政機関が、b値の時空間変動の観測に積極的に取り組んでいることは、国民にとって朗報です。日本全国におけるb値の時空間変動をリアルタイムに得る自動化システムを構築すれば、余震はもとより、本震の発生予測(時間と場所)にも寄与するものと考えられます。
かつて「地震予測はできない」と力強く宣言した大学教授がいましたが、それは再現期間の長いプレート境界で発生するリバウンド型の大地震であり、少なくとも群発地震を伴う内陸型の大地震については、その発生予測は不可能ではないと考えます。
研究のさらなる発展を強く期待する次第です。







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