「書評」と「PR」は別物!格式が全く異なります

Bulat Silvia/iStock

最近、SNSを中心に「有償書評サービス」を提供する業者が増えている。著者や出版社から数万円の対価を受け取り、自身のSNSやnoteで本を紹介する仕組みだ。

一見、出版不況のなかで本の認知拡大を担う新しい仕事に見える。しかしこの業態には、致命的な構造的矛盾が潜んでいる。

「書評」と「有償PR」は別物である

そもそも書評とは、第三者の立場から本を評価する言論ジャンルだ。読者は書評家に「この本は読む価値があるか」を判断してもらうために、その言葉に耳を傾ける。書評の本質は評価の独立性にある。

ところが評価対象から対価を受け取った瞬間、評価者は依頼者のクライアントとなる。新聞書評委員が新聞社から原稿料を受け取っても独立性が保たれるのは、原稿料の出所と評価対象が分離されているからである。

一方、有償書評は評価対象そのものから対価を受け取る。クライアントが望まない評価を書く書評家は、ビジネスとして成立しない。結果、有償書評は構造的に「肯定的な紹介」しか生み出さない。これはもはや書評ではなく、広告原稿である。

ここで対比すべきは、朝日・毎日・読売といった全国紙の書評欄である。新聞書評が著者にとって最高の名誉とされ、出版業界で別格の格式を誇るのには、明確な構造的理由がある。

第一に、厳格な選書プロセスである。日本では1日に200冊以上の新刊が発行される。新聞書評欄に掲載されるのは、そのなかのコンマ数パーセントに過ぎない。専門の書評委員が膨大な新刊から徹底的に吟味し、選び抜く。

この圧倒的な倍率を突破したという事実そのものが、作品の質に対する社会的証明となる。しかも広告枠とは異なり、出版社が金銭を払って載せることはできない。編集権の独立性が守られているからこそ、純粋に内容の価値だけが判断基準となる。

第二に、書評委員の権威性である。大学教授、作家、科学者、ジャーナリストなど、各界第一線の識者が自らの専門性と名誉をかけて執筆する。単なる紹介ではなく、その本が現代社会においてどのような意義を持つかを深い洞察とともに提示する。書評それ自体が独立した論考として価値を持つ。

第三に、社会的リーチとアーカイブ効果である。新聞の読者層には政治家、官僚、経営者、教育者といった意思決定層が多く含まれる。全国紙の書評に載れば、全国の図書館の購入リストに入り、とりわけ人文・文芸領域では教科書や入試問題に採用される確率も飛躍的に高まる。さらに新聞は縮刷版やデータベースとして永久に保存される。そこに名前が刻まれることは、日本の出版文化史の一頁に加わることを意味する。

新聞書評の格式は、選別の厳しさ・評者の独立した権威・公共的アーカイブという三層構造によって成立している。そして、その全てに共通するのは「金銭で買えない」という一点である。

有償書評は、この構造のすべてを欠いている

新聞書評と比較すれば、有償書評の構造的脆弱性は一目瞭然である。

選別はない。対価を払えば誰の本でも紹介される。倍率コンマ数パーセントの社会的証明は存在しない。評者の権威も担保されていない。書評委員のように専門性と名誉をかけているわけではなく、フォロワー数や継続日数といったSNS的指標が看板となっているに過ぎない。アーカイブ性もない。SNS投稿は数日で流れ、図書館の購入リストにも入らず、入試問題にも採用されない。

何より決定的なのは、評価対象からの金銭の介在である。新聞書評は出版社が金を出しても載せられない。だからこそ権威がある。有償書評は出版社が金を払えば載る。だから権威がない。両者は「書評」という同じ言葉を使っているが、社会的機能はまったく別のものだ。

私はオピニオンサイト「アゴラ」を中心に、2010年から1万冊を超える書籍を紹介してきた。すべて無償である。著者からも出版社からも、掲載対価は一切受け取っていない。書評ではなく「ブックルポ」と称しているのは、書評との違いを明示するためであり、必要に応じて著者や編集者に直接ヒアリングを行い、裏を取って書いているからだ。

なぜ無償を貫くのか。読者との信頼関係を守るためである。

新聞書評が金で買えないことに権威を置いているように、独立した書籍紹介もまた、金銭的利害からの独立によってのみ価値を持つ。これは原則の問題であり、技術や工夫で代替できるものではない。

もし依頼者の顔色をうかがい、すべての本を「素晴らしい」と紹介すれば、読者はすぐに見抜く。「この人の紹介は当てにならない」と。そうなれば書籍紹介という言論ジャンルそのものが死ぬ。

──しかし、有償書評事業者の多くは「【PR】表記をしているのだからステマには当たらない」と主張するだろう。果たしてその主張は成立するのか。次回はこの論点を掘り下げる。

(後半に続く)

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

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3時間で身につくClaude活用術』(WAVE出版)

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コメント

  1. 岡本マヤ より:

    読む?✕無償?✕有料?

    ブクログやブックメーターなど無償の読書アプリに投稿するのと少額でも有料読書レビュー記事を書くのは基本的に変えている。

    前者は自分の内側からくる熱い想いを書く。
    後者は所々パンチのある言葉を並べて
    どんな読者層にもアプローチできる面白さを書くようにした。読ませる、読みたい!と思わせる工夫
    それがすべてだった。