「FIRE」した人はインフレで「フリーター」と同じ運命を辿る

内藤 忍

「FIRE(Financial Independence, Retire Early、経済的自立と早期リタイア)」を目指している若者は相変わらず多いようです。

自分が働くことから解放され、経済的な自由を獲得する。資産運用の利益だけで自由な時間を手に入れるのは、理想的な人生のように映るのかもしれません。

私は、4年前の「若者よ!やっぱり「FIRE」はやめなさい!」というブログでFIREに対して否定的な意見を書いたことがあります。

この時にも書きましたが、FIREと同じように若者の自由なライフスタイルとして1990年代に一世を風靡したものに「フリーター」があります。

フリーターとはあえて正社員として仕事をせず組織に縛られない「自由」を享受する仕事のやり方です。時間に縛られることなく、自分の自由が確保できるかっこいい生き方として選択する若者は少なくありませんでした。

確かに若いうちはフリーターで問題はありませんでした。体力もあり、最低限の生活費さえ稼げれば、時間を自分の好きなように使えることに価値を感じられたからです。

しかし、10年、20年という月日が流れる中でスキルアップの機会を逸し、社会的な信用を得られず収入も増えない厳しい現実が待っていました。

私はFIREブームにフリーターと同じ落とし穴が待ち構えているのではないかとかねてから懸念していました。

その懸念はデフレからインフレという経済環境の変動とともにより強くなっています。

これまでの日本は、デフレが長く続いたために、現金を持っているだけでも資産価値が増えていく環境にありました。

また債券のような固定の金利収入を当てにすることができました。

例えば資産1億円を年利4%で運用する計画でFIREした場合、年間400万円の金利収入です。しかしインフレになると額面は同じ収入でも実質的に手取り額は目減りしていきます。

物価上昇がデフレ時に立てたFIREのプランを破壊していくのです。

もし資産運用による収益が変わらず生活コストだけがインフレで膨らんでいけば、生活水準を切り下げるしかありません。

それを避けるためにやっぱりFIREをやめて働こうとしても一度労働市場から退出した人が以前と同じ条件で社会に復帰することは極めて困難です。

真の経済的自由とは、働かなくて済む状態ではありません。いつでもどこでも自分の力で価値を生み出し社会とつながっていられる選択肢がある状態です。

そのためには自分が稼ぐために必要な長期的なキャリア設計とお金に稼いでもらう資産形成のバランスを取ることが必要です。

FIREした結果、自分の将来の経済状態が「火の車(ファイヤー)」になってしまう。FIREでファイヤーになってはシャレにもなりません。

metamorworks/iStock


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2026年5月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。

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