日本の一人あたりGDPが、アメリカの半分以下になったと話題になっている。その原因は円安だけではない。日本の実質賃金は、この20年ほぼ変わらず、OECDでも最低レベルになった。
日本の一人当たりGDPは低水準に沈む。米国平均8.16万ドルの半分以下で、米国の低所得州ミシシッピ州やイタリアも下回る。カナダ、ドイツ、英国、フランスとの差も拡大。円安だけではなく、長年の低成長、生産性停滞、賃金低迷が背景にあり、かつて世界2位だった日本の相対的地位低下は深刻である。 pic.twitter.com/OIpeMjN5EL
— 朝倉智也(Tomoya Asakura) (@tomoyaasakura) May 8, 2026
ボトルネックは労働市場
この30年間、日本政府がやってこなかったことは何だろうか。財政バラマキや金融緩和は激しくやったが、成長率は下がった。株主重視のガバナンス改革で株価は上がったが、賃金は上がらなかった。
政府がまったく手をつけなかった問題が一つだけある。雇用改革である。これがボトルネックになり、低い労働生産性の原因になっている。特にこの30年は中国との国際競争が激しくなり、賃金を下げる圧力が高まったので非正規労働者を増やし、正社員の採用を抑制したため、就職氷河期などの雇用のゆがみが生まれたのだ。
これが自民党総裁選で河野太郎氏や小泉進次郎氏が問題提起した金銭解雇である。それに対して高市早苗氏は「解雇の自由を認めるのは非人道的だ」と雇用改革に反対した。
日本では労使ともに解雇という言葉がタブーなので、法律で解雇の条件を明文化せず、裁判所がアドホックに「不当解雇」についての判例を積み重ねてきた。その定義も整理解雇の4要件という1979年の判例で決まったままだ。これは
- 人員整理の必要性
- 解雇回避努力義務の履行
- 被解雇者選定の合理性
- 解雇手続きの妥当性
という要件で、中小企業の場合は解雇しないと倒産する場合、大企業の場合は事業部門を閉鎖する場合しか解雇できない。このため中小企業は経営が悪化すると金銭なしで解雇して労働者は泣き寝入りし、大企業は訴訟を恐れてまったく解雇しなくなった。
日本には「解雇規制」がほとんどない
高市氏は知らないようだが、日本では解雇は自由である。民法627条では「雇用期間が定められていない場合は、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができる」と定め、申入れから2週間たつと契約は終了する。これが契約自由の原則である。
日本でも外資系企業は解雇を金銭解決している。訴訟を起こさないという誓約書をとり、退職金を加算するのだ。ところが日本企業では(厚労省の行政指導で)裁判所が不当解雇だと認めないと金銭解決できない。
「解雇規制を緩和しろ」という議論がよくあるが、これは逆である。解雇がほぼ無条件に自由なのはアメリカだけで、ヨーロッパではどういう場合に解雇できるかという条件や退職金の額などを具体的に書くのが普通だ。ところが日本の法的な解雇規制は、労働契約法16条の
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
という規定しかない。これは最高裁判決を立法化したもので、「客観的に合理的な理由」の定義はどこにも書いてない。上の整理解雇の4要件がそれに当たると理解されているが、具体的な解雇ルールがないため、企業はどういう条件で解雇していいかわからないのだ。
金銭解決を認める「解雇ルール」が必要だ
これについては2003年から労政審議会で労働基準法の改正が議論されているが、解雇規制については連合が強硬に反対して労使が合意できない。堂々めぐりの議論が続いているため50年前の判例がいまだに適用され、解雇が事実上禁止されている。
他方、中小企業では「解雇自由」で、退職金を払わないで解雇することが多く、従業員は裁判を起こす金もないので泣き寝入りだ。中小企業の団体である日本商工会議所も、金銭解雇ルールの法制化に反対している。
現実には裁判の和解で4~7ヶ月分の和解金が支払われることが多く、金銭解決の相場ができている。これを立法化して金銭解雇ルールを決め、基準となる退職金の加算額を法律に明記すればよい。これについては経済学者の提案もあり、ここではケースに応じて最高38ヶ月分の補償額を法律で決め、それ以上については労使の交渉で決める。
必要なのは合理的な解雇規制で雇用を流動化し、個人を会社から解放することだ。今は正社員の雇用リスクが大きすぎ、社内失業者を養うために賃金が上げられないが、解雇ルールで雇用の自由度が上がれば、外資のように中途採用が増え、賃金も上がる。労働市場の改革が、日本経済の立ち直る必要条件である。







コメント
ChatGPTに聞くと、賃金が低いのは生産性が低いから。
生産性が低いのは以下の理由だということです。参考までに。
## 1. サービス産業の低生産性:
サービス産業はGDPと雇用の約7割を占めるため、この分野の低生産性は日本経済全体の足かせとなっています。宿泊、飲食、小売、介護、物流などでは、きめ細やかな接客や品質が当然視される一方、その付加価値を価格に転嫁できていません。「サービスは無料」という意識が根強く、過剰品質が利益を圧迫しています。また予約、会計、在庫管理といったバックオフィス業務のデジタル化も遅れており、現場は多忙でも収益が伸びない構造です。サービスは在庫化できず人の時間がそのままコストとなるため、労働時間を減らしつつ単価を上げる改革が不可欠です。観光や介護の需要が拡大しても、単価と効率を改善しなければ国民の豊かさにはつながりません。
## 2. 中小・零細企業の低生産性と規模拡大不足:
日本企業の99%以上を占める中小・零細企業では、規模の小ささに起因する非効率性が深刻です。設備投資、IT化、人材育成、研究開発に十分な資源を割けず、規模の経済も働きにくいため、事務や経理も人手頼みになりがちです。低価格の下請け取引に依存すれば利益が残らず、改善投資も困難となります。問題は小規模企業の存在自体ではなく、成長・統合・事業承継・M&Aによる新陳代謝が進まない点にあります。倒産や廃業を過度に避ける風潮が、優良企業への資本・労働力の集中を妨げています。優良企業が規模を拡大し、低収益事業が円滑に引き継がれる仕組みが弱く、地域金融や税制も延命ではなく再編を後押しする方向への転換が急務です。
## 3. DX・AI・ソフトウェア投資の遅れ:
日本のIT投資は既存システムの維持管理(守りのIT)に偏り、ビジネスモデルを変革する「攻めのDX」が著しく遅れています。紙、FAX、属人的なExcel管理、老朽化した基幹システムが残る現場では、人手不足の中で付加価値を伸ばすことは困難です。生成AI、クラウド、RPA、データ分析を活用すれば、事務処理、需要予測、営業支援などを大幅に効率化できますが、導入が単なる「デジタル置換」にとどまり、業務プロセスの再設計(リエンジニアリング)と結びつかない例が目立ちます。米国ではソフトウェア投資が資本蓄積の柱ですが、日本は依然ハードウェア偏重です。経営者がITを外注任せにせず、事業戦略の中核として位置づけなければ、意思決定の速度と精度で世界から取り残されます。
## 4. 無形資産投資の不足:
無形資産とは、研究開発、ソフトウェア、データ、ブランド、知的財産、組織ノウハウ、顧客基盤など、目に見えない資産を指します。現代の知識集約型経済では、企業の競争力の源泉は物理的な工場よりも、これら模倣されにくい資産にシフトしています。しかし日本の会計制度や金融機関の融資慣行は依然として有形固定資産(土地・設備)を重視しており、無形資産への投資が過小評価されています。日本企業は品質改善や現場力には強い一方、データ活用、ブランド化、知財戦略、組織改革への投資が弱く、価格決定力で見劣りします。有形設備だけ増やしても価格競争に巻き込まれるだけで、独自ノウハウの形式知化や顧客基盤のデータ化を怠れば、長期的なイノベーション創出力と収益性は確実に失われていきます。
## 5. 人的資本投資・リスキリング不足:
「失われた30年」の中で、日本企業は教育研修費を削減し続け、従業員のスキルアップを個人任せにしてきました。終身雇用を前提としたOJTだけではAIやデジタル技術の急激な進化に対応できず、非正規労働者や中高年が学び直しの機会から外れると、労働力全体のスキル更新が滞ります。リスキリングへの公的・民間投資は諸外国に比べ圧倒的に少なく、これが労働移動の硬直化と賃金低迷を招いています。賃上げの根拠は生産性向上であり、その土台は人への投資です。人間を「コスト」ではなく、価値を生む「資本」と捉え、AI、データ分析、専門技術などを継続的に学べる仕組みを整えること、個人の能力を最大限に引き出す投資戦略への転換こそが、日本の国力回復を左右する決定的な鍵となります。