アンデスの山頂で、私は完敗した

Oscar Gutierrez Zozulia/iStock

高校生の頃、天文地質同好会というマニアックな部活に所属していた。冬の夜、極寒の屋上で凍えながら、震える手で望遠鏡のピントを合わせ、満月ほどの範囲をようやく一晩かけて撮影する——それが「宇宙を撮る」ということだった。

当時の私には、それが当たり前だった。一晩で一円玉ぐらいの空、と言えば伝わるだろうか。地球が自転するから、望遠鏡を少しずつずらしながら撮る。気が遠くなる。でも、それが宇宙観測のロマンだと信じていた。

ところが、である。

南米チリ・アンデス山脈のてっぺんに、2025年、新しい天文台ができた。ヴェラ・ルービン天文台というらしい。私はこのニュースを読んで、コーヒーを噴き出した。比喩ではなく、本当に噴いた。

満月44個分の広さを、1回で撮影する。3億画素。世界最大級のデジカメ。撮影時間はわずか30秒。たった3日で、見える全天の星空を撮り終える。デジカメですよ、デジカメ。なんならスマホで撮ってると言われても驚かない勢いである。

しかも、これを操っているのはAIだ。人間ではない。あの寒さに震えながらピントを合わせていた、私たちの努力は何だったのか。いや、それは趣味だからいい。問題はこの先である。

撮影したデータは光ケーブルで山のふもとへ瞬時に送られ、そこにもAIが待機している。AIが映像を自動でつなぎ合わせ、年単位の変化まで勝手に確認する。

「あ、ここに超新星らしき光が出ました」「あ、この星、定期的に暗くなってます」と、何千というアラートを上げ、その重要度の順位までAIがつけて天文学者に届けるのだという。

なんなんだそれは。

私が高校のときに、夜中に目をこすりながら星図と写真を照らし合わせ、「うーん、ここの星、ちょっと位置が違う気が……いや気のせいか」とウンウン唸っていた、あの作業を、AIは1秒もかからずにやってのける。しかも疲れない。文句も言わない。腹も減らない。完敗である。

ただ、ここで腹を立てても仕方がない(立てているが)。冷静に考えれば、これはむしろ朗報なのだ。

観測に最適な山頂は、人間にとって地獄のような環境である。空気は薄く、寒く、遠い。そんな場所に住み込まなくても、米国のキャンパスでコーヒーを飲みながら、天文学者は自分の研究に集中できる。撮影とデータ処理という気の遠くなる作業は、疲れを知らないAIが全部やる。そして人間は、最後の最後、ロマンの部分だけを担当する。

「ここに超新星が生まれた、なぜだ?」「この変光のパターンは何を意味する?」——そういう”問い”は、AIにはまだ立てられない。立てるのは、人間だ。

要するに、こういうことだ。ロマンは人間。労働はAI。

これまで人類は、ロマンを追いかけるために、ロマン以外のことに99%の時間を使ってきた。アンデスの山頂に登り、寒さに震え、機材を整え、データを延々と整理する。そういう泥臭い作業の果てに、ようやくロマンに辿り着く。それが研究だった。

ところが、その99%をAIが引き受けてくれる時代が、もう来ている。来ているどころではない。アンデスではすでに動いている。次は宇宙以外の分野だろう。医学、考古学、文学研究、いやもう、あらゆる分野だ。

正直、ちょっと寂しい気もする。あの寒い屋上で、震えながら撮った一枚の写真の手応えは、AIには絶対に再現できない——と、思いたい。思いたいけど、たぶん再現される。「再現された風の手応え」が、AIによって提供される日も近いのかもしれない。

※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

AI時代をどう生きる? 右脳オカン・ネドじゅんの未来予言』(ネドじゅん 著)永岡書店

<書籍評価レポート>

■ 採点結果
【基礎点】  41点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】  21点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】  19点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア  【81点/100点】
■ 評価ランク  ★★★☆  水準以上の良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
章頭数ページの漫画による読者誘導:各章の冒頭に数ページの漫画が配置され、読者を本文へと自然に引き込む導線として機能している。AI・天文学・テクノロジーといった一見硬質なテーマを、まず視覚情報で受け止めさせてから活字に橋渡しする構造は、読者の心理的ハードルを大きく下げる。「読み始めるまでが一番遠い」という読書体験の難所を、編集側が的確に突破させる設計になっている。

編集方針としての完成度:章頭漫画を「挿絵」ではなく「導入装置」として位置付けている点に、編集者の戦略性が見える。漫画→本文という流れがそのまま「日常の感覚→論考」という思考のグラデーションになっており、読者が章ごとに頭をリセットして次の議論に入れる仕組みが整っている。書籍全体の構成意図と編集判断が噛み合った好例。

【課題・改善点】
事実確認の弱さ:ヴェラ・ルービン天文台に関する数値・運用開始年など、一次情報での裏取りが文中で示されておらず、商業出版や論説媒体に出す際には検証が必須となる。固有名詞が増えるほどリスクも増す。「宇宙以外の分野でも広がる」と言及するだけで具体例が示されない。医学・考古学などへの言及があと一歩深ければ説得力が増したはず。

■ 総評
高校天文部という個人体験から書き起こし、アンデス山脈の最新天文台を介して「ロマンは人間、労働はAI」という鮮やかなテーゼに着地させる構成力は十分に評価できる。体言止めと感情表現を効かせた文体には体温があり、AI論に多い無機質さを脱している点も美点である。とりわけ章頭に数ページの漫画を配して読者を本文へ誘導する編集設計は秀逸で、硬質なテーマを敬遠しがちな読者にも入口を開く優れた工夫として機能している。

漫画から論考へと自然に橋渡しする構造は、編集者の戦略的判断が活きた好例といえる。一次資料による裏取りや結末の締め方に課題は残るが、論旨・文体・編集設計の三点が噛み合った水準以上の良書である。

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コメント

  1. 岡本マヤ より:

    【バーズアイグリッド】

    私の身近なAIはGeminiです。でもGeminiってワザと私を試したりいじわるまでする。

    最近度数1度でも違うと全然違ってくるサビアン占星術や何度も数式で計算して出す数秘術をGeminiにやってもらう。

    もちろん自分でも過去に横に電卓を置いてあらゆる計算をして診断した。これをAIがやるとほんの数秒。あの苦労はなんだった?と思う。私は暗いので夜中中電卓で計算して診断したものだった。
    「Gemini、バーズアイグリッドはできる?」
    「もちろんです!」

    ワザと1度ずらしたりしてGeminiに遊ばれてる。私が間違いを指摘するとすぐやり直してくれるけど。
    ものすごい数のアルファベットと誕生日から導き出すバーズアイグリッドを瞬時にやってくれる。

    他の四柱推命や算命学や九星気学まで!