
Arkadiusz Warguła/iStock
「温暖化対策をしないと、大変なことになる!」というシミュレーションで、政府は随分と国民を怖がらそうとしてきた。
例えば、環境省にこんなコラムがある:
環境省では、現状を上回る温暖化対策を取らなかった場合の予測に基づき、「2100年未来の天気予報」という動画を作成しています。
さて、これはシミュレーション計算に基づいたものだ。文末の拙著に書いたように、このシミュレーション自体が、そもそも過去をろくに再現できいないようなものなのだが、それ以前に、この「温暖化対策を取らなかった場合」の計算の前提となる「SSP5-8.5シナリオ(以下単に8.5シナリオと書く)」のCO2排出量予測が多すぎる、という指摘は以前からあった。
そして今回、それをIPCCが認めたという大ニュースが流れた。
以下、ロジャー・ピールキー・ジュニアのsubstack(有料)から許可を得て紹介しよう:
今月初めに発表された論文において、Van Vuurenら(VVetal26)は、7つの新たなシナリオセットを提示している。著者らは、時代遅れとなった高排出シナリオについて次のように述べている(強調は筆者による):
「21世紀において、この範囲は以前の評価よりも狭くなるだろう。その範囲の上限において、再生可能エネルギーのコスト動向、気候政策の台頭、および最近の排出傾向に基づき、CMIP6の高排出レベル(SSP5-8.5で定量化)は不合理なものとなっている。」
つまり8.5シナリオが不合理だとはっきり認めたのだ!
図1は、化石燃料起源の排出量を比較したものだ。IPCCの新しいシナリオセットはCMIP7と書いてある実線のもので、2100年において最大でも80 GtCO2/yrに排出量はとどまっている。対照的に、これまでのシナリオは点線で書いてあるものだが、8.5シナリオはそれより遥かに多い130 GtCO2/yr にもなっている。

これだけ「あり得ない」ぐらい排出量の多い8.5シナリオだったのだが、あらゆる国の政策の根拠に使われてきた。表はその例だ。日本の「気候変動適応計画」や大型研究プロジェクトである「S-18」も登場している。
これまで量産されてきた論文、それの報道記事、そして政府の政策の根拠が崩壊した。

なお8.5シナリオの非現実性が、再生可能エネルギーのコスト低下や気候政策の台頭によるものだというVan Vuurenらの見解には筆者は同意しない。詳しくは別の所で書いたが本当の理由は以下だ:
8.5はリーマンショック前に作られたシナリオであったことが影響して、世界の経済成長率をかなり高めに設定していた。加えて、石油・ガスが枯渇し、極端な石炭依存が進行すると予測していたが、シェール革命でこれが完全に外れた。
さて、重要なことは、IPCCの気候シナリオ策定に公式な責任を負うグループが、IPCC評価において過去10年以上にわたって最も多く環境影響評価に用いてきた8.5シナリオが非現実的であったことを今や認めたという点だ。
つまり、冒頭のコラムを含めて、「このままだと大変だ」どころではなく、「あり得ない未来」がせっせと描き続けられてきたのである。
「あり得ないシナリオ」を用いて、これまでに数万本もの研究論文が発表され、メディアの見出しがそれを広め、政府や国際機関が政策を策定してきた。
これらはすべて砂上の楼閣であった。
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