PayPayやYahoo! BBの大盤振る舞いの裏にある「スイッチングコスト問題」

ソフトバンクは、世間をあっといわせる大盤振る舞いのプロモーションで、新市場を制覇してきました。

古くは、2001年にYahoo! BBを立ち上げ、街頭でADSLモデムを無料配布。2005年に単年度黒字にしました。

最近では、2018年にPayPayを立上げ、QRコード決済サービスに最後発で参入。強力な営業部隊と100億円キャッシュバックキャンペーンでユーザーを大量に獲得しました。

ソフトバンク以外にも、新市場で大盤振る舞いで顧客を獲得した事例は数多くあります。

チョコザップは、入会者に体組成計やヘルスウォッチが付いているスターターキットを無償配布しています。

タクシー配車アプリGOも、友達紹介クーポンや総額5000円乗るたびクーポンなどのキャンペーンを行っています。

彼らは、なぜ気前よく大盤振る舞いをするのでしょうか?

ザックリ言うと、深い理由が3つあります。

①使ってもらうハードルを下げたい

これらのサービスは、いずれも新市場の成長期。ものすごい数の潜在顧客がいて、彼らはサービスを経験していません。まずは自社サービスを経験してもらうことが大事。そこで使ってもらうハードルを徹底的に下げるのです。

②使い続けると、定期的に売上がチャリンチャリンと入る商材である

これらの商材は、少額ですが売上が定期的に入ります。お客が1年、2年と継続すれば、比例して売上が増えます。お客の離脱を最小限に抑えて新規顧客を続けると、数年後には大きな売上になり、損益分岐点を超えると黒字化します。

③スイッチングコストが高い商材である

そして一番大事なことは、これらのサービスの共通点が、他社への切り替えが面倒なことです。ADSLサービスをNTTなどの他社に切り替えるには、現在のサービス解約、書類申請、工事などがほんとに面倒です。キャッシュレス決済を別サービスに切り替えるのも心理的に負担があります。これを「スイッチングコスト」(切り替えコスト)と呼びます。

つまり、

・既存ユーザーがほとんどいない新市場であり、
・スイッチングコストが高い商材であり、
・定期的に収入が入ってくる商材の場合は…

…ある程度の高い顧客獲得コストをかけてでも、ユーザーに使ってもらうハードルを徹底的に下げて、まずは使ってもらう施策が有効です。

経営学者の清水勝彦氏も、著書『戦略論の原点』でこう述べています。

「スイッチングコストが高い業界では、初めてのユーザを獲得することが非常に重要であるということです」※1)

スイッチングコストが高い商材の新市場で、顧客を獲得するベストタイミングは、まだユーザーが少ない新市場の成長期です。

成長期を逃して市場が成熟期に入ると、ユーザーに既存サービスを解約してもらう必要があります。ここでスイッチングコストが発生するので、とたんにユーザー獲得が難しくなるのです。

逆にスイッチングコストが低い商材では、こうした大盤振る舞いの施策は悪手になります。

例えば、清涼飲料水や食料品のような消費財、ガソリンスタンドやクリーニング店などです。

こうした商材は、消費者は選び放題。大盤振る舞いのキャンペーンをしてもバーゲンハンターしか集まらず、キャンペーンが終わると、スイッチングコストが低いので、彼らはさっさっとライバルに乗り換えます。

わざわざお金をかけてユーザーに新商品を体験させて、みすみすライバルに取られているようなものですね。こうした商材は大判振る舞いせずに、試供品の提供のような低コストな販促が適切です。

清水氏も前掲書でこう述べています。

「スイッチングコストが低い場合、基本的な競争は価格だけになります」※1)

市場のフェーズと商材のスイッチングコストを見極めて、適切なキャンペーンを打ちたいものです。

【参考文献】
※1)『戦略論の原点』清水勝彦著


編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年5月19日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。

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