超ヒマ社会を待ち望む

中村 伊知哉

AI、IoT、そしてロボットを含む超スマート社会、第4次産業革命やSociety 5.0と呼ばれるものには不安がのしかかっています。

AIがHALのように暴走するのではないかという不安。既にbotがヘイトを吐く事例も世間を賑わせています。
http://gigazine.net/news/20160325-tay-microsoft-flaming-twitter/

ロボットが人にケガをさせる事件も、ロボットが殺人をはたらく事例も発生しています。
http://news.livedoor.com/article/detail/11763181/
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM10H0G_Q6A710C1FF8000/

何よりも不安を高じさせているのは、AI、IoT、ロボットの普及で半分の仕事が奪われる、という説です。いくつもの有力な研究がそう予測しており、信ぴょう性を帯びています。既に金融取引の7割をAIが担っており、その徴候は現実となりつつあります。

ただ、古い仕事が失われても新しい仕事が生まれるというのが経済学の教え。ブリニョルフソン=マカフィー「機械との競争」も、産業革命時のラッダイト運動を引き合いにして、長期的な楽観論を見せています。

産業革命の第一ステージ=蒸気機関も、第二ステージ=電気も、多くの労働者を生んだ。産業革命の第三ステージ=コンピュータとネットも長期にはそうだ。と説きます。
http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2013/05/blog-post_6639.html

どの仕事が近いうちになくなるか、を煽る本もあります。競争力を失う仕事を考えるのは簡単です。一方、新しく生まれる仕事を想像するのは大変。今ない仕事ですから。これを創造する力が人類に問われます。AIが創造してくれればいいんですが。

しかし、AIとロボットは、本当にわれわれの仕事を増やすのでしょうか。人に置き換わって働く頭脳=AIと身体=ロボットは、これまでの技術と違い、ホントに仕事を減らすだけ、ってことはないでしょうか。

鍬で耕作していた農民が、トラクターを得て農薬を得て、うんとラクに大量の農作物を作るようになった。AIとロボットが全てそれを肩代わりして、何もしなくても収入を得る。仕事が奪われるというより、仕事から開放される。その意味合いが濃いのではないでしょうか。

てゆーか、そっちに期待してるんですよ。

子どものワークショップでは、「AIとロボットで半分の仕事が減ったら、倍の仕事をさあ作ろう、未来の仕事は何だ?」なんてことをぼくは語っているのですが、実は、働かなくてもいい社会ってのはどんな風情だろうってのが気になるのです。

超ヒマ社会です。

マレー・シャナハン著「シンギュラリティ」。認知ロボット工学者が説くAIの展望。脳科学やロボティクスのアプローチでAI技術を丁寧に分析します。脳のエミュレーションやコピーなどの生理学・情報学的な分析をたっぷり踏まえてから、AIの及ぼすインパクトを論じます。

筆者はこう説きます。

有給労働の総量は今後、確実に減少していく。製品とサービスが経済的な底辺層にも行き渡る豊かな時代。教育が与えられる平等な時代。空前の文化表現の時代となる。

そう願います。

(来週につづく)


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年9月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。