GMO出身・識学コンサルタントが語る、組織を変える数値化とルール化の極意

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「部下が育たない」「いくら指示を出しても動いてくれない」「自分が動かないと組織が回らない」——そんな悩みを抱えるリーダーは少なくありません。しかしその原因は、部下の能力や意欲ではなく、マネジメントの「仕組み」にあるかもしれません。

今回は、GMOインターネットグループで取締役として営業部門を統括し、MBA取得後に識学へ転身した上席コンサルタント・本田務氏をお迎えしました。

現在は100社以上のコンサルティングを手がける本田氏ですが、「トップセールスでありながら、マネジメントのやり方がまったくわからなかった」と率直に語ります。自身の失敗体験から導き出された「数値化」と「ルール化」による組織マネジメントの本質とは何か。識学の理論を交えながら、その核心に迫ります。

本田 務(ほんだ つとむ)氏
株式会社識学上席コンサルタント。GMOインターネットグループのグループ会社にて取締役として営業部門を統括。MBA取得後、識学理論と出会い7年前に入社。現在は100社以上のコンサルティングを手がけ、営業組織の変革を中心に、数値化とルール化による再現性のある組織マネジメントを実践している。

玉村 嘉隆(聞き手) フリーランスSEOコンサルタント
Webマーケティング支援会社にてCTOを担当。現在独立してフリーランスのWebマーケティングコンサルタントとして活動中。

本田務氏のキャリア ── 営業トップから識学コンサルタントへ

玉村:本田さんはGMOインターネットグループでご活躍されたのち、MBAを取得後、実務と理論の両面を極めたプロフェッショナルです。まず、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。

本田氏(以下、敬称略):今年で52歳になります。20数年間、営業畑を歩んできました。以前の会社は、前半がオーナー企業、後半はGMOインターネットグループに買収されてグループ会社となりました。キャリアの前半は営業会社として営業のトップを務め、後半は事業会社にシフトする中で、取締役として自社のスマートフォンアプリの国内・海外の販売責任者を務め、営業部門を統括していました。

転機になったのは40歳のときです。人生100年時代を考える中で、今までの経験をもとに誰かのお手伝いをしようと思っている中で、識学という理論に出会いました。これまでの失敗経験と識学の理論を掛け合わせて、同じような経験をされている経営者やマネージャーの方をお手伝いしたいと考え、7年前に識学に入社しました。現在は上席コンサルタントとして100社以上のコンサルティング業務を担当しています。

玉村:MBAも取得されていますよね。その経緯についてもお伺いさせてください。

本田:きっかけは挫折ですね。40歳を過ぎた頃、「このままではダメだ」と感じて取得を決意しました。優秀な方は2年ほどで取得されますが、私は4年間、仕事をしながら必死に勉強しました。学んだというよりも、根性がついたというのが正直なところです。MBAではファイナンスやマーケティングといったビジネスのソフト面を学ぶのですが、ソフト面を実際の組織で動かすには、しっかりとした土台やOSが必要だと感じていました。

MBAではケーススタディが中心で、事例としては「なるほど」とわかるのですが、「なぜそうなるのか」「どうすれば改善できるのか」を再現性をもって言語化し、実際に組織を変えていくところまでは到達できませんでした。わかるけど「とはいえ…」で止まってしまう。そのもどかしさを解消してくれたのが識学の理論でした。

GMOインターネットグループの成長を支えたマネジメントの本質

玉村:GMOの熊谷代表は、社員一人ひとりの動かし方に常に心を砕いていたと伺ったことがあります。その辺りで何かご存知のことはありますか?

本田:熊谷代表は、GMOにジョインする前から尊敬・崇拝していた経営者です。実は結婚式で熊谷代表の言葉を引用してスピーチをしたほど、強く影響を受けていました。実際にGMO内部に入ってみると、熊谷代表のマネジメントには大きく2つのポイントがありました。

1つ目は「スピリッツの共有」です。ベンチャースピリッツ宣言のような会社の理念を言語化して、社員全員と共有することに非常に時間をかけていました。

2つ目は「数値管理の徹底」です。週に一回KPIをしっかり確認して、目標との差分を埋めていくコミュニケーションを徹底されていました。

玉村:お話を伺うと、識学のメソッドに非常に近いように感じますが、いかがでしょうか。

本田:おっしゃる通りです。理念のような抽象度の高いものを組織で動かそうとすると、どうしても個人の解釈が入って認識がずれてしまいます。理念をミッション・ビジョン・バリューやクレド、行動規範に落とし込み、さらにKGI・KPIという数値に紐づけ、その数字を動かすためのルールを設定する。まさに識学の考え方と共通する部分が多いです。

玉村:私もGMOという会社はインターキューという社名の頃からよく存じていましたが、まさかGMOがあれほど大きくなるとは思っていませんでした。当時、インターネット関連サービスの会社が雨後の竹の子のように現れて、ほとんどが消えていった中で、GMOだけが成長し続けました。その原動力はどこにあったとお考えですか?

本田:「スピリッツの共有」が大きかったと思います。加えて、「熊谷代表のカリスマ性」ですね。熊谷代表の魅力に引っ張られてついていこうという方がたくさんいました。GMOに集まる社員の能力が高く、自律自走型の方が多い。優秀な人材が引き付けられて集まり、パフォーマンスが上がっていく好循環が生まれていたと感じています。

トップセールスがマネジメントで挫折した理由

玉村:営業のトップとして部下を率いる中で、マネジメントには悩んだことしかなかったとお聞きしました。あれだけの急成長企業で実績を出しながらも、どんなことに悩んでいたのでしょうか。

本田:マネジメントのやり方がわからなかった、というのがもう結論です。営業では常に実績があったので、トップセールスとしての能力はありました。でも、その営業実績で昇格したマネジメントの場面では、何をどうしていいかまったくわからなかった。過去に自分がされて嬉しかったマネジメントを真似てみたり、本屋で気になった本を買って試してみたり。正解がわからないまま実験を繰り返した結果、多くのメンバーが離職していきました。非常に苦しかったですね。

玉村:私も小さい会社ですが役員をやっていたので、よくわかります。マネジメントの本はたくさん出ていますが、書いてあることが全部違う。自分に合うものを探すしかないのか、そもそも普遍的な正解はないのかと、当時は本当に思いましたね。

部下がどんどん辞めていくし、社内の雰囲気も悪くなっていく。試してみてもうまくいかない日々が続きました。GMOという大きな会社で営業トップをやられていた方でも同じ悩みを抱えていたと聞いて、正直ほっとしました。

具体的にはどのような失敗をされていたのでしょうか。

本田:良かれと思ってやっていたことが、すべて裏目にでていたんです。 例えば、部下に「これお願いします」と言われたら、「わかった、やってやるぞ」と業務を巻き取っていました。本当の優しさだと思っていたんです。ところが、識学のマネジメント理論で整理すると、これは3つのNGを犯していました。

1つ目は、部下の責任感を奪う行為です。本来やるべき業務を上司が巻き取ることで、その瞬間は業務が進むように見えますが、部下の大事な経験や責任感を奪い、上司に依存しやすくなってしまいます。

2つ目は、権限の領域に答えを出しに行ってしまったことです。責任を与えたら、権限をセットで渡さなければなりません。権限とは、責任を果たすために自分で考える領域のこと。そこに「Bでやれ」と答えを言ってしまうと、部下は思考を停止し、ただの指示待ちになってしまいます。

3つ目は、上司に言われた通りにやった結果が出なかったとき、部下は「自分の責任ではない」と考えるようになることです。不足を自責で捉えることがなくなり、成長も止まります。

結局、上が疲弊し、下はぶら下がる構造になってしまいました。当時の私の売上はイコール自分の労働時間でした。組織がまったく大きくならず、それがプチうつになるほどの苦しさにもつながりましたね。

識学が教える正しいマネジメント ── 「数値化」と「ルール化」の基準

玉村:私もダメな管理職でしたので、全部自分に当てはまります。今の識学の知見をもって当時に戻れるとしたら、どうすればよかったと思いますか?

本田:やはり「基準」をしっかり作るべきでした。当時の私は基準がないまま、後から部下を呼び出して「普通はさ…」と詰めていました。部下からすれば、後で呼び出されて説教されるとわかっているから、前日から営業の手を止めて言い訳の資料を作り込む。言い訳の温床になってしまっていたんです。

「基準」には2つの要素があります。

1つ目は数値です。KGI(売上などの大きな結果)やKPI(訪問数、客数、単価など)を数値化して、明確な基準を設ける。基準より足りなければ「いつまでに何をして差分を埋めようか」というコミュニケーションが取れます。本来すべきなのは、今週どういう結果を出すかという会話です。部下が主体的に相談する「未来の会話」を8割にすべきなんです。1人あたり5分から10分程度で終わるのが目安です。

ところが当時は数値基準が曖昧だったために、なぜ、どうしてと原因分析ばかりになって気づくと詰めている。過去の話が8割、上司が8割しゃべって部下は思考停止、最後は「わかったか、今週必ずやりきれよ」と気合を入れるだけ。これでは結果が出るわけがないと、今になって振り返ります。

玉村:そうなんですよね。部下たちは聞き流して、とりあえずこの場をやり過ごすことだけ考えている。その時間がもったいなかったと、私も過去の自分に説教してあげたい気持ちです。

本田:2つ目の基準は、数値に紐づいたルールです。例えば、アポイントを月40件取る、そのうち50%が提案に進み、そこからさらに半分が案件化し、最終的に1件が成約する、といった数値の基準を作ったとしても、その数値を達成するためのルールがセットになっていないと機能しません。数値に紐づくルールとは、例えばヒアリングができて、提案ができて、クロージングができる、だからこの数値をキープできる、というような行動のルールです。

具体的に言うと、月に40件のアポイントを回す必要がある場合、半分はウェブで完結するというルールを設けます。訪問だと片道1時間、往復2時間、商談1時間で、3分の2が移動時間になってしまいます。見込み客をABCで分類して、Aは訪問、Bは初回ウェブ、確率が低ければウェブ完結とすれば、行動量が担保できて月40件が現実的になります。できている社員の行動を可視化すると、自然とルールが見えてきます。そのルールを再現性のある形で言語化して、数値とセットでルール化しておく。これが2つ目の基準のポイントです。

クロージングの極意 ── 営業を可視化・仕組み化する

玉村:KPIを達成するための行動を明文化・可視化するということですね。営業で一番難しいのはクロージングだと思うのですが、経験上、これはやるべきだと言えることはありますか?

本田:少しテクニック的な話になりますが、営業で「断られてからが勝負」とよく言います。ここで大事なのは、主語を「お客様のために」にできるかどうかです。主語が「私が」に変わってしまうと、しつこい営業になります。でも「お客様のために必要だから伝える」という主語であれば、その粘りは一生懸命さとして受け取られます。ただし、テクニックとしてではなく、本当にお客様のためだと思っていないと見抜かれてしまいます。本質的な解決策を提案するという姿勢が前提です。

玉村:識学的な考え方から、クロージングで気をつけるべきポイントを可視化することはできますか?

本田:はい。営業担当者の頭の中に入っているクロージングのノウハウを引っ張り出して、言語化・数値化するだけなんです。

チェックリスト10項目くらいにまとまります。テストクロージングをかけてお客様の反応を得る、必要性・タイミング・コストを要素分解して一つずつテストクロージングをかける、その前にニーズ喚起として「この商品を導入することでどんな変化が生まれるか」をお客様と確認しておく。こういった流れが全部チェックリストやフローにまとめられます。今はChatGPTやGeminiに話し続ければ文字に起こしてくれますし、「チェックリスト10項目にまとめて」と言えばやってくれます。

玉村:今日からすぐ使えるテクニックですね。昔であれば、トップ営業マンと成績が上がらない人を見比べて、どこが違うのかを分析するしかなかったところですよね。

本田:そうですね。私がよくやってしまったのは「現場同行して背中を見なさい」というやつです。でも「背中って何ですか?」となりますよね。チェックリスト10項目のうち、今日はヒアリングを見てほしい、関係構築のポイントを見てほしい、と見るべきポイントを先に提示しておかないと意味がない。

5項目のうちどこを見たか聞いてあげれば、3つはわかった、2つはわからなかった、じゃあその2つをロープレ(ロールプレイング)で確認しようか、という具体的な指導ができます。見るべきポイントを先に提示してあげることが、部下の育成においてとても重要なポイントです。

玉村:ロープレも漫然とやるのでは意味が半減しますよね。なぜこのトークをするのか、原理原則が頭に入っていないと、商談を見ても何を注意して聞けばいいかわからない。ただその場にいるだけで終わってしまいます。

本田:そうですね。営業のフレームをしっかり作ってあげることが極めて重要になります。

玉村:原理原則を理解した営業担当者は最初から成績が上がる一方、場当たり的に対応している人はいつまでもうまくいかないと思います。

本田:やはりできるマネージャーは数値とルールという事実で物事を見て、目標との差分が出たら原因を特定し、いつまでに何をして差分を埋めるかを考えます。常に事実をマネジメントしているんです。

トップセールスマン個人に依存して部下が育たない組織は、感情や感覚で動いている組織です。その人は売れるけれど、部下は育たない。メンバーは疲弊して辞めていく。これは多くのマネージャーや経営者が経験していることではないでしょうか。

玉村:すごくイメージがつきますね。部下が育たない、成績が上がらない、上司から詰められる、やる気がなくなる、辞める。これはもう一直線のコースですよね。

本田:だから、人の気持ちや感情をマネジメントするのではなく、数値や行動という事実をマネジメントしていく。数値がずれているならここを戻そう、行動量が足りないならここを増やそう、という発想です。人の感情をマネジメントしようとすると、上司側の感情も出てしまう。事実をどうマネジメントするかという思考に切り替えることが重要です。

玉村:つまり、成績が上がらないということは、成績が上がっている状態と比べたときにどこかに差分があるということ。その差分を見つけて指摘してあげるのが上司の仕事ということですね。

本田:その通りです。上司がやるべきことは、不足している部分を特定して原因を一緒に探り、解決策を部下自身から引き出すということ。いわばコーチングの役割です。

玉村:識学の考え方でいくと、「ここが不足しているからこうしなさい」と上司が答えを出してしまうのは良くないんですよね。

本田:これは2つに分けて考える必要があります。

目標に対して、やり方は自分で考えさせるというのが大前提です。そのため週次会議を推奨しています。5日後というごく近いゴールに向けてであれば、部下自身がやり方を考えられるはずです。

ただし、それすらも考えられない人もいます。初めての業務で、考えるための知識量がそもそもない場合です。そこはまず教育をしてあげるアプローチが必要です。必要な知識を入れて、「これならやり方を自分で考えられます」という状態にしてから、あとは自分で考えようねという管理に移行していく。

この「教育」と「管理」の2つを混同してしまうと、部下が自分で考える領域にまで口を出してしまう経過介入になってしまいます。そのため2つを分けて考える必要があります。

玉村:前提知識を持っている人であれば自分で考えさせる、経験の浅い人であれば先に教育をしてあげる。この2つを明確に切り分けることが重要ということですね。

本田:おっしゃる通りです。

「あの人はダメ」と諦められていた社員が表彰されるまで

玉村:本田さんがコンサルタントとして関わった自動車販売店で、売上がダブルスコアという驚異的な成果を出された事例があったとお聞きしました。ぜひ詳しくお聞かせいただけますか。

本田:この事例で最初に取り組んだのは、成果を出すための施策を加えることではなく、むしろやめることでした。

最初にやめさせたのは「他責にすること」です。当時の店長は、ある社員について「あの人はダメだ」と完全に諦めていました。その社員も「最低賃金でいい」という意識になっていて、実家暮らしだし結婚もしていないしと、店長は諦め、社員本人もやらないという関係性になっていました。

そこで「部下を他責にして諦めるのをやめてください」というところからスタートしました。まず店長にこう問いかけました。「自分の子どもの成長を諦めることはできますか?」と。すると「それは諦めることはしない」という答えが返ってきます。「では、なぜ諦められないのでしょうか」と聞くと、「親として子供の成長に責任があるから」という話になる。「それと同じで、上司には部下の成長に対して育成責任があります。だからこそ、きちんと向き合いましょう」と。そこから店長の意識が変わり始めました。

玉村:そこから具体的にどう変えていったのですか?

本田:まず数値化を徹底しました。数値化を嫌がる方は多いのですが、病院でお医者さんがデータなしに患者を診断したらどうなるかという話と同じです。基準があって、おかしな数値の項目を特定し、仮説を立てて手を打ち、1週間後に経過観察する。数字がないままマネジメントをしていては、どこに問題があるのか、手を打って改善したのかどうかさえわかりません。むしろ数字なしでマネジメントする方が、よほどリスクが高いと思います。

数値管理とルール管理を徹底した結果、その社員は劇的に変わりました。最初はやらされ感がありましたが、やっていくうちに結果が出てきて、お客様に喜ばれたり周囲から承認されたりして嬉しくなっていった。最終的には社内で表彰されて、天狗になるほどの変化でした。店長が冗談で「天狗になるな」と指摘するほどです(笑)。

やらされ感でも、やっているうちに楽しくなる。達成感や成長実感、承認欲求が満たされることがモチベーションの源泉です。だからこそ、そういう経験が生まれる環境をしっかり作ることがマネジメントの本質だと思っています。

玉村:「もうこの人はダメだ」と諦められていた人が、文字通り生まれ変わった。これはすごいですよね。そういう方でさえ変わることができたということは、組織全体も明らかに変わります。数字としてKPIを示して「これだけやるんだ」と決めることで、誰もが同じ基準で動ける。本当にわかりやすいアプローチだと思います。

本田:ここで大切なのは、人を意志や気合で動かそうとしないことです。「頑張ろう」という気持ちに頼るのではなく、やらざるを得ない環境を作ることが大切です。人は環境の生き物です。その環境の中で動いて、経験して、結果が出て、達成感や成長実感が生まれる。それがモチベーションの源泉です。だからやらざるを得ない環境を作ることこそが、トップやマネージャーの仕事なんです。

「そんな環境を作ったら辞めてしまうのでは」とよく言われます。でも考えてみてください。やらざるを得ない環境の中で実際に動いてみたら「楽しい、できた、嬉しい」という感情が生まれませんか?

一番シンプルな例でいうと、学校の勉強がそうです。通信簿だけではなかなか勉強しないから、先生が小テストや宿題を出す。8点未満は追試という環境を作る。嫌だなと思いながらも勉強して、9点取れたら「よっしゃ!」と嬉しくなる。以前30点だったのが塾に行かされて60点になったとき、先生に褒められて嬉しかった経験は誰にでもあるはずです。

小さな成功体験を積み重ねることで、人はどんどん変わっていきます。やらざるを得ない環境を作り、小さな成功体験を積ませるという感覚でぜひマネジメント環境を作っていただければと思います。

玉村:そのためには、やらざるを得ない環境の中でやったことによって成長や成果が見えるような基準、つまりKPIを置いてあげる必要があります。これは上司の責任ということですね。

本田:売上や利益、成約数だけを見ている方が多いのですが、その手前にも「進んでいる」と感じられる基準があります。例えば、今月は成約ゼロだったとしても、社内のロープレテストに合格した。そこに成長の評価をしてあげることができます。来月は1人で契約1件取ろうね、と目標を少しずつ上げていく。成約ゼロイコール何もないわけではないんです。

玉村:できる限り客観的にわかる基準をいかにして設定するかが、上司の腕の見せどころですね。

本田:KGIという大きな結果、売上や利益をどんどん手前に分解していくと、ハードルがほぼゼロの行動ルールになります。例えば、今週メールを10件送る、そのお客様に電話を10件する、そこから見込みを1件取る。メールを10件送るのにハードルはありますか?ほぼゼロですよね。

仮に見込みが1件も取れなかったとしても、メールを送って電話をかけて、2件は「検討します」というところまで行けた。見込みには至らなかったけれど、その1つ手前のプロセスまで進めた。それは立派な成果として受け止めてあげてください。

そのように手前の基準をしっかり作りながら、「次はいつまでに何をして、もう一歩進もう」というコミュニケーションを上司がきちんと取ってあげる。小さな達成感と成長実感を積み重ねていくことが、人を育てる上で極めて重要なんです。

玉村:成約がゼロだったとしても、KPIのどの段階が足りていないかを特定して、そこを改善していけばいいということですね。

本田:そうです。次に量と質の話ができます。10件では足りないなら30件送る、さらに電話のトークスクリプトも変える、この2つの行動変化を来週試して見込みを1件作ろうと握っていく。来週どういう結果を出すために何をするのか、なぜそれをするのかがセットで約束できる状態になっていくわけです。

玉村:今回のお話に挙がった自動車販売店の社内の雰囲気はどう変わりましたか?

本田:健全な競争関係が自然に生まれてきました。全然ダメだと思われていた社員が数字を出し始めると、周囲がざわつく。「あの人がやっているのに、自分も負けられない」という意識が芽生え、切磋琢磨する文化ができていきました。

ルールを守らない部下への向き合い方

玉村:目標を与えても「やりたくない」「なぜやらなきゃいけないのか」と反発する社員も一定数いると思います。そういった場合はどうするのですか?

本田:意欲はあるけれど未熟な社員と、ルール自体を守らない社員とでは、別の対処が必要です。意欲はあるけれど未熟な方には、小さなゴールを刻んで亀の歩みで成長させていけばいい。一方、「やりたくない」「ルールを守らない」「指示を聞かない」という社員には、段階的なアプローチが必要です。

交通ルールで例えると、赤信号で止まらないドライバーに警察官はどう対応しますか?という話と同じです。まずは指摘する。約束したことができていない理由があれば面談で聞いてあげる。物理的に無理な事情があれば手当てをする。

できるはずのことをやらないのであれば、対応のレベルを上げていく。

具体的には、まず上司から直接指摘します。それでも変わらなければ、一つ上の上席が同席してより強く言及する。昇級・昇格の対象から外れる可能性も伝える。

それでも改善しなければ顛末書・始末書といった形で段階的に対応を強めていきます。会社のルールを守らない、上司の指示に従わない状態は、お客様に対して何をしてしまうかわからない。さらにはコンプライアンス上のリスクにもつながります。一緒に頑張ろうという姿勢で向き合いながら、それでも守らないのであれば別のコミュニティに行くしかないよね、という白黒をしっかりつけに行くことも、上司としての大切な役割です。

玉村:同感です。

本田:結局、ルールを守らない社員を会社が許してしまっていることが、問題の本質です。 スポーツのマネジメントは成熟していますが、ビジネスのマネジメントはまだ未熟です。サッカーでボールを手で触ってハットトリックしても、手を使った得点は認められないし退場になる。でも会社では、ルール違反をしていても数字さえ上げれば評価してしまう。ルールを守った上で役割を果たす、これがビジネスにも必要な原則です。ルール違反を容認してしまう会社や上司のもとでは、ルールを守らない社員がどんどん増えていきます。

玉村:よくあるのが、部下が上司の指示を自分が納得したものだけ聞くというケースです。上司の言うことを聞かなくなってしまっている会社は、まず何をすべきだと思いますか?

本田:ルールを守る意味や目的、背景をきちんと伝えることが大前提です。「このルールを守らないとこういう問題が起きる」「このルールを守るとこういう成果につながる」という意味と目的がわからないままルールだけを設定すると、部下は自分でそのルールが必要かどうかを判断して守らなくなります。目的に対する手段がルールである以上、おかしなルールは変えるべきだし、足りなければマイルールを設定して動きを変えていく。ルールの意味と目的を丁寧に説明してあげることが、まず一つの大切なステップです。

玉村:上司の指示は業務や状況によって変わることがあると思います。どうしても上司の言うことを聞かない人や「そんなことをしてもうまくいくとは思わない」と言う人もいると思います。そのような社員にはどう接していけばいいですか。

本田:上司の指示がうまくいくかどうかは誰にもわかりません。上司は責任を取る立場として指示を出し、部下は実動者としてお給料をもらっている。これがシンプルな関係です。プランAでやろうと言ったらまず動いてみる、それが部下の立場です。

過去の経験からプランBの方がいいと思うのであれば、その意見を上司に伝えてください。上司がプランBの方がいいと判断すれば指示が変わりプランBで動く。それでもプランAでやってくれと言うなら、上司側に何か事情がある。まず動いてみて、さらに別のプランCの方がいいと思えば、動いた結果をもとに改めて意見を上げ直せばいい。動きながらPDCAをどんどん回していくことで、早く成果に近づけます。停滞している時間の方が会社の成長機会を遅らせてしまう。まず動いてみることが基本的な考え方です。

玉村:マネジメントのスパンとしては、週次くらいがおすすめということですか?

本田:そうですね。5日後というごく近いゴールであれば、新人社員で何をしていいかわからない方以外は、「どうすれば達成できそうか」を自分で考えられるはずです。考えられなければ教育・研修が必要ですが、ある程度経験を積んだ業務であれば、1週間というスパンで自分なりの方法を考えられる。週次でゴールを設定して動かしていくというのが基本的なリズムになります。

識学は「冷たい組織」をつくるのか ── プラチナ組織の本質

玉村:識学はルールで縛るもので、導入すると冷たい組織になるのではないかという声を聞くことがあります。知人の中にも、「ロボットのように動かされるんじゃないか」と言っている方がいまして、私自身はそれは違うと思っているのですが、その点についていかがでしょうか。

本田:よくある誤解ですね。ぜひプラチナ組織という観点からお話しさせてください。プラチナ組織とは、働きやすさと働きがいの両方がある組織のことです。働きやすさと働きがいをどうやって作るかというお話をさせていただきたいと思います。

まず「働きやすさ」には3つのポイントがあります。

1つ目はルールです。ルールと聞くと窮屈だと感じる方もいますが、交通ルールがなかったら車がどこから飛び出してくるかわからなくて怖いですよね。さらに、警察官が主観で後出しで「普通はさ」と逮捕するような環境だったら、車を運転しますか?会社にルールがないということは、だいたい上司が部下を後から呼び出して「普通はさ」と説教するのと同じです。先にルールを示してくださいよ、という気持ちになりませんか。

ルールがないと2つのパターンが生まれます。1つは心理的安全性が担保できない組織になること。もう1つは、上司の顔色をうかがいながら動く組織になること。目の前の仕事に集中するのではなく、この行動をしていいか悪いかと上司のマイルールを覗き込みながら動く状態です。

ルールとは、安心して自由に動ける範囲を確定するためのものです。交通ルールの中で自由にショートカットしたり止まったりできるように、ルールがあるからこそ自由に動けるんです。

働きやすさの2つ目のポイントは、役割責任の明確化です。責任とは「何をいつまでにどのような状態にするか」を明確にしたものです。責任をしっかり持たせて、権限をセットで渡す。社員が自分で決めて動いて、足りなければ上司に取りに来る。これが自律自走型の風通しのいい組織です。「うちの社員は主体性がない」と嘆く会社がありますが、それは社員の問題ではなく、責任を明確に持たせられていない上司側の問題です。責任が明確になっていない組織では、社員は自分がその会社にいる必要性も認識できず、所属意識も低くなってしまいます。

3つ目は公平な評価制度です。責任をしっかり果たしたならば、それに見合う公平なお給料を与える。責任を果たせたら報酬が上がり、果たせなければ報酬もダウンされる。これが健全な状態です。働きやすい組織とは、「ルールを守って、責任を果たして、お給料をもらう」という構造がきちんと機能している組織のことです。どこかが歪んでいると、働きにくい会社になってしまいます。

次に「働きがい」についてです。ポイントはたった一つ、社員に責任をしっかり持たせることです。3ヶ月程度の期間で、背伸びすれば届く目標を設定する。予算100万円、部下2人、仕入れ先も自分で見つけていい、という権限もセットで渡す。そうすると「これならできそうだ」という達成イメージが湧いてきます。そこからKPIに落とし込んで週に一回チェックとフィードバックをしてあげる。予定通り進んでいるという進行感、1人でできたという成長実感、目標を達成したという達成感。これが仕事の楽しさであり、働きがいの源泉です。

さらに、責任を果たすことで公平な昇級・昇格という評価が得られる。責任を果たすプロセスでモチベーションが上がり、エンゲージメントが高い組織になれば、会社はどんどん成長していきます。会社が成長すれば地域になくてはならない存在になり、社員はその会社にいることへの誇りや愛着が生まれ、もっとこの会社とともに成長したいという思いにつながる。これが好循環です。

空回りしているリーダーへ ── 組織改革の3つのステップ

玉村:最後に、かつての本田さんのように、責任感があって部下思いだからこそ空回りしてしまっているリーダーに向けて、今かけるべき言葉はありますか?

本田:社長をリーダーとするならば、ぜひ仕組み作りに時間とお金をかけていただきたいと思います。車で言うと、事故や渋滞が多い道路はドライバーの問題よりも、交通ルールや道路整備の問題である可能性が高い。組織も同じです。メンバーが動かないのは、メンバーの問題ではなく仕組みの問題であることがほとんどです。

ステップ1は「交通ルールを整える」こと。組織図、役割、責任権限、評価制度といった組織運営のOSをしっかり整備する。組織運営のOSが整っていないと、どんな施策もすべてが歪んでしまいます。

ステップ2は「自動車教習所」、つまりマネジメント教育です。交通ルールだけ整えて「あとはよろしく」では、事故は減りません。マネージャーの多くは、マネジメントとは何かを教わったことがないまま苦しんでいます。

上から数字の責任を背負い、下からは突き上げられるリスクを持つのがマネージャーです。マネジメントとは何かをきちんと教えてあげる必要があります。

プレイヤーへの教育も同様です。「風通しのいい組織」という言葉が独り歩きして、上司の指示に「やりたくない」と言うことが風通しのよさだと勘違いしているケースもあります。しかし、それはわがままであって風通しのよさではありません。プレイヤーにも組織の中でどう考え動くかをきちんと研修してあげることが必要です。

ステップ3は「警察官」、つまり実行とチェックです。教習所を出た後、警察官がしっかり取り締まるからこそ道路の秩序が保たれます。マネージャーがプレイヤーを正しくマネジメントし、チェックとフィードバックを繰り返すことで、正しい行動が当たり前の状態として癖づけされていきます。トップは環境を作り、教育をし、癖づけまで行う。仕組み作りにきちんと時間とお金を投資していただきたいと思います。

玉村:交通ルールというインフラを整え、教習所で全員にルールを教え、警察官がきちんとチェックする。会社の組織運営もこれとまったく同じですね。

感情ではなくルールで組織を動かすという、一見ドライに聞こえる識学の理論。しかしその本質は、働く一人ひとりが迷わずに成果を出せる「真の優しさ」にあるのだと、本田さんのお話から強く感じました。

SEOコンサルティングの業務を通じて数値やロジックの重要性を日々お伝えしている私自身も、SEO施策を実行する組織そのものが機能していなければどんな施策もうまくいかないという、経営における仕組みの重要性を改めて認識する機会となりました。本日はありがとうございました。

まとめ

「マネジメントのやり方がわからなかった」──そう率直に語る本田氏の言葉には、多くのリーダーが抱える本質的な悩みが凝縮されています。トップセールスとして結果を出し続けた人間でさえ、マネジメントの場面では正解がわからず、良かれと思ってやったことがすべて逆行していた。その失敗体験こそが、識学の理論と出会ったときの「これだ」という確信につながったのでしょう。

数値化とルール化は、人を縛るためのものではありません。「何をいつまでにどのような状態にするか」を明確にすることで、社員が迷わず動ける環境を作るためのものです。やらざるを得ない環境の中で動き、結果が出て、達成感や成長実感が生まれる。その経験の積み重ねこそが、人を変え、組織を変える原動力になります。

感情ではなく事実をマネジメントする。ルールを守って責任を果たす環境を整える。一見ドライに聞こえる識学の理論の本質は、働く一人ひとりが本来持っている可能性を最大化するための「真の優しさ」にあるのではないでしょうか。

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