毎日1万機が飛び交うドローン戦争:周辺国に広がる「流れ込みリスク」の現実

5月29日未明、ウクライナ国境から数キロのルーマニア東部の都市ガラツィで、集合住宅に火災が発生した。原因はロシアのドローンだった。墜落した機体が住宅の屋上部分に衝突し、炎上。住民2人が負傷した。

そのわずか9日前の5月20日には、バルト海に面するリトアニアの首都ビリニュスで市民の携帯電話に緊急警報が一斉配信されていた。「空襲警報!直ちにシェルターへ移動してください」。大統領や首相、閣僚らも避難。空港は閉鎖され、鉄道も停止した。こちらに侵入したのは、ウクライナのものとみられるドローンだった。

片方はロシアのドローン、もう片方はウクライナのものとみられるドローン。被害を受けたのは、いずれもウクライナ戦争の当事国ではないルーマニアとリトアニアの市民だった。

ルーマニアはウクライナの南西に隣接し、リトアニアはロシアとベラルーシに挟まれた東欧の国だ。どちらもロシアとウクライナの間で飛び交うドローンの「通り道」であり、「流れ込み先」となっている。

ロシアとウクライナの間で毎日大量のドローンが飛び交う現在、周辺国への流れ込みそのものが構造的なリスクになりつつある。

ロシア製のドローン Wikipediaより

月1万機が飛ぶ空

まず、ウクライナ戦争でどれほどの数のドローンが使われているのかを見てみたい。

米国のシンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)の月次分析によれば、ロシアは昨年1年間で合計5万4538機の無人航空機をウクライナに発射している。単純計算すれば、1日あたり約150機の規模になる。

一方、ウクライナ側の長距離ドローン攻撃も急拡大している。フランスのオープンソース研究者クレメン・モランによれば、2024年夏には月1000機程度だった発射数は、今年3月には7000機を超えた。この時、初めてウクライナの発射数がロシアを上回った月となった。

両国を合わせれば、毎月1万機以上が空を飛んでいる計算になる。ウクライナのアンドリー・シビハ外相は今年、「過去1年半で攻撃がなかった日はわずか2日だった」と述べた。

これだけの数が飛んでいれば、一部が予定ルートを外れる可能性は避けられない。むしろ一機も逸脱しないと考える方が不自然かもしれない。

ロシアのドローン

ロシアが現在主力として使用しているのは「ゲラン2」と呼ばれる長距離攻撃ドローンだ。

元々はイランが開発した「シャヘド136」をロシアが国内で生産するようにしたもので、2023年からロシア中部の工業地帯タタルスタン共和国の工場で量産が始まった。ソ連時代から軍需産業の集積地として知られる地域だ。

飛行速度は時速180キロと比較的遅いが、航続距離は最大2000キロに達し、50キロの爆発物を搭載できる。巡航ミサイル1発が数百万ドル規模であるのに対し、ゲラン2は数万ユーロ程度で生産できるとされる。量産と消耗を前提とした兵器体系だ。

5月にはさらに強力な「ゲラン5」が公開された。ジェット推進で時速450〜600キロ、弾頭は90キロ。戦闘機からの発射も可能とされ、性質はもはや小型ミサイルに近い。

一方で、この大量運用を支える部品供給には抜け道も指摘されている。EU制裁によって直接輸出は禁止されているにもかかわらず、組織犯罪・腐敗報告プロジェクト(OCCRP)の調査では、欧州企業製を含む100以上の部品がロシアのドローンに使用されていた。2024年1月から2025年3月の間に、制裁対象の欧州製部品672件がロシアに届いていた。出荷元は中国・香港を中心とする178社だったとされる。

ロシアのドローンが周辺国に流れ込む

ロシアのドローンやミサイルが周辺国の領空に侵入する事態は、2022年の全面侵攻直後から発生していた。

米フォーチュン誌とカンバセーション誌の共同分析によれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国への領空侵犯は2022年の4件から、2023年5件、2024年6件と増加し、2025年には18件へと急増した。前年比200%増である。

侵入した国も広がっており、2022年の3カ国から、2025年には6カ国(ルーマニア、ポーランド、エストニア、リトアニア、トルコ、フランス)に拡大した。

専門家はこうした現象を三つの側面から説明している。防空体制の試験、情報収集、そして政治的メッセージだ。領空侵犯は偶発的事故であると同時に、戦略的行為でもあり得る。その境界は年々曖昧になっている。

今回のガラツィの件では、ルーマニア国防相はドローンのシリアルナンバーから「疑いなくロシア製」と断定した。一方、ロシアのプーチン大統領は、「該当機体の調査が行われるまでは出自について誰も断定できない」と反論し、客観的な調査を求めている。

なぜ友好国へ迷い込むのか

ウクライナはロシア西部やバルト海沿岸のエネルギー施設を標的に、長距離ドローン攻撃を行っている。これらの機体は数百〜1000キロを飛行するため、第三国の空域に近接せざるを得ない。

そこで影響を与えるのが電子戦だ。

ロシア軍はGPSジャミングやスプーフィングといった電子妨害能力を持つとされる。ジャミングは通信やGPS信号を妨害し、スプーフィングは偽の位置情報を送り込む。これによって、ドローンは正常飛行しているように見えながら、徐々に軌道を逸脱していく。わずかな誤差でも、長距離飛行では最終的に数十キロから数百キロのズレになる。

結果として、本来ロシア国内の標的を狙っていた機体が、ラトビアやリトアニア方面へ流れ込む可能性がある。

ただし原因は一つではない。機体の故障、航法エラー、品質問題、あるいは戦場環境そのものも影響を及ぼす。

意図的誘導の可能性を指摘する声もあるが、現時点で確定的証拠はない。

いずれの理由であっても「第三国が巻き込まれる構造」が存在している。

ルーマニアへの攻撃、止められず

ルーマニアへのドローン侵犯・墜落は、ガラツィの件以前にも繰り返されてきた。

2023年12月にはロシアのドローンがウクライナ攻撃の際に逸脱し、ルーマニア領内に墜落した。2024年9月、ルーマニアは領空を侵犯したドローンを戦闘機F-16で追跡し、無人地帯に落下させた。

昨年9月にはドローンが約1時間にわたり領空に留まったが、撃墜できずに終わっている。

今回のガラツィの件まで、落ちる場所は野原や湿地など人のいない場所ばかりだった。しかし今回初めて住宅に命中し、人的被害が出た。政府はF-16を出動させたが、撃墜できなかった。

ルーマニアのマクシム准将は「撃墜するのに十分な時間がなく、法的・技術的制約もあった」と説明した。ドローンは低空飛行のためレーダーでの追跡が困難で、追跡できた約4分間はずっと人口密集地の上空を飛んでいた。

ダン大統領も「民間人の安全を著しく危険にさらすリスクなしに破壊する条件が存在しなかった」と述べた。高性能のF-16を持っていても、低空飛行する小型ドローンへの対処は容易ではないことが改めて示された。

合法か、違法か

国際法上、領空主権は明確であり、他国の許可なく領空を飛行することは主権侵害にあたる。

ウクライナのドローン使用は、自衛権行使として国際法上は合法とされる。

一方ロシアについては、国連総会が侵攻を「国連憲章違反の侵略行為」と非難している。さらに国連の人権監視団は、ロシアのドローンによるウクライナ民間人への攻撃について「戦争犯罪に相当する可能性がある」と指摘している。

ただし、いずれの場合も「意図せず第三国に侵入した場合の責任」は明確ではない。さらにAIや自律飛行技術の導入は、この曖昧さを一層深めている。

国連ウクライナ人権監視団によれば、ロシアの短距離ドローンによるウクライナの民間人被害は2025年に急増し、577人が死亡、3288人が負傷した。国連監視団は国際人道法違反の可能性を指摘し、一部は意図的攻撃とみられるとしている。

ロシア国内におけるウクライナ側の被害については独立した統計は存在しない。

「世界最強」と「流れ込み」

ウクライナのドローン技術は、今や世界が注目する存在となっている。

AIを搭載した最新型ドローンは前線から100キロ以上離れた場所で動く補給トラックを自動識別して攻撃できる段階に達しており、BBCはその映像を確認している。

ゼレンスキー大統領は「余剰分はすべて輸出できる」と述べ、欧州各国との共同生産も進む。英国や日本でも導入・協力の動きが進んでいる。

しかし、技術の優秀さをもってしても、流れ込みは避けられない。

英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は5月28日に「ウクライナのドローンがロシアを追い詰めている」という詳細なルポを掲載した(有料購読制)。翌29日には「ロシアのドローンがルーマニアの民間住宅に命中、2人負傷」と報じた。同じ新聞の、1日違いの記事だ。

「世界最強のドローン技術」と「その戦争の流れ込みで民間人が被害を受ける」。この2つは同じコインの表裏だ。

参考資料


編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2026年6月4日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。

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