黒坂岳央です。
昨今は「お金だけでいい。お金さえあれば幸福を買える」といった意見をよく見る。確かに部分的には正しい。お金があれば働くのをやめて時間を潤沢に得ることができるし、人間関係の構築や維持にもお金は必要だ。
人生において何が最も重要か。自分はその答えは年代によって変わると考える。
20代は時間さえあれば何者かになれる。40代はお金があれば大半の問題は解決する。しかし60代になって初めて、本当に重要だったものの正体に気づく人が多い。

Satoshi-K/iStock
若い頃はみんな「孤独最高」
SNSや動画には「一人が最高」「孤独を楽しめる人間こそ強い」という言説が溢れている。これは若い頃に限っては、ある意味で正しい。
若年期は感受性が高く、あらゆる体験がビビッドに感じられる。新しい音楽、初めての場所、初対面の人との会話。外部刺激に対してドーパミンが強く反応する設計になっているため、誰もが若い頃は一人で行動しても何をやっても楽しい。
学校やサークルが人間関係を自動的に提供し、時間も潤沢にある。人と時間がデフォルトで充足しているから、その価値に気づかない。
自分も若い頃そう思っていた。「出会いがほしい」と考えたことがあまりなく、むしろ「軽い絡みが鬱陶しいから一人にしてほしい」とすら思う事が多かった時期もあった。
一方でお金だけは全員に均等に与えられていない。「お金に余裕がある」という状態が未経験だからこそお金の力は過大評価されがちだ。
ところが年を取ると、この感覚は逆転する。穏やかで静かな時間を好み、刺激を避け、信頼のおける人間関係に安らぎを見出すようになる。
これは日本と日本人固有の話ではなく、国や文化を超えて起きる普遍的な変化だ。英語圏のSNSでも「年を取ったらどう変化した?」という問いに対し、「静寂を好むようになり、信頼できる人とのゆったりした時間を楽しむようになった」という投稿が大きくバズっていたのを先日見たばかりだ。
「孤独最高」は、若さゆえに人と時間を無意識に享受しているときにしか成立しない感覚だ。年を取るとこの感覚は変化する。
「孤独がいい」と言っている人も真に孤独を愛しているなら、SNSなど一切使わないはずだ。しかし、実際に彼らはSNSで集合する「孤独の解消」という行動をしている矛盾がある。
お金は手段であり、目的ではない
資産が増えるほど幸福になれるか?ある閾値までは確かにそうだ。しかしそれを超えると、お金は単独では機能しなくなる。
筆者自身の話をすると、東京出張の際にかつては気分が舞い上がり、高級ホテルを予約して泊まることがあった。ところが実際に過ごしてみると虚しいだけだった。
ロビーには家族連れやカップルばかりで、一人でいる居心地の悪さを感じた。今はビジネスホテルで十分だと思っている。これは年齢的な変化も大きいが、それ以上に「一人ではお金の使い道が根本的に限られる」という事実を実感した経験だった。
高級レストランも、高級宿も、一人で行けばただの消費で終わる。お金の価値を受け取るには、人と時間が必要だ。一人ではつまらない。高級体験もすぐ飽きる。
お金は人生を豊かにしてくれるが、その豊かさを享受する相手と時間がなければ能力を発揮できないという難しさがある。
年代で変わる「最重要資源」
人生において重要なものの優先順位は、年代によって変わる。正確に言えば、「人生の目的」は変わらないが、「その時期のボトルネック」が変わる。
20代は時間が最も重要な資源だ。若い時間には複利が効く。スキル習得も副業も、時間を原資とする。失敗コストも安く、身軽だ。20代の1年と60代の1年は、社会的・生物学的にまったく異なる価値を持つ。
40代は現実問題としてお金が優先される。住宅ローン、教育費、老後準備が同時に押し寄せる。現実の40代に必要なのは理想論ではなく、まずは目先のキャッシュフローだ。家族を守るにも経済力が必要だ。
だが60代以降は大きく変わる。何より、「人」が最優先になる。定年後に多くの人が直面する問題はお金以上に孤独だ。お金はその気になれば働けばいいだけだ。「年を取ってまで働くのは悲惨」というイメージを持つ人もいるが、個人的にはそんなことはないと思っている。
いざ退職をして孤独に打ちのめされ、ひたすらお金が減り続けて、何のために生きているのかわからず精神を病むよりは外に出て働く方が遥かにメンタルヘルスにプラスだ。
年を取って子供が独立し、体力は落ちてその後はずっと弱り続ける。この時期に信頼できる人間関係があるかどうかが、残りの人生の質をほぼ決定する。
老後資金の積立より人間関係の積立
日本人であれば老後資金の積立を意識しない人はほとんどいない。最近では20代の内から老後を意識した貯金も増えているという話だ。わざわざ老後資金の啓蒙など必要ない。誰もが過剰なほど意識しているからだ。
しかし、早くから老後の蓄えを意識する人は多いのに、人間関係の積立を意識する人はほとんどいない。お金以上に人間関係が人生の幸福度を決めるのに、「孤独でいい」と逆走する人が多い。そう、老後の人間関係についてはほとんど誰も積み立てを考えないのだ。
資産形成には教科書的な王道ルートがある。だが人間関係の構築は完全放置をしてしまっている。深い友人関係、趣味を共にする仲間、地域コミュニティとの繋がり。これらは60代になってから突然作ることはできない。早め早めに始めておかなければ、いざ本当に孤独に落ちるとそこから這い上がるのは極めて難しい。
資産形成の教科書は山ほどあるが、「人間関係の積立」を真剣に説く本はほとんど存在しないのが現状だ。
◇
人生において一人でいることは、苦痛の要素が減るだけでプラスの要素は少ない。人間はどこまでいっても社会的な動物であり、一部の例外を除き、ほぼすべての人は他者の存在という引力から逃れることが難しい。
もちろん、人間関係なら何でも良いわけではない。モラハラ的な関係、搾取的な関係は切り捨てるべき負債だ。重要なのは量ではなく、信頼できる関係の質である。
人生で最も重要なのは人だ。お金は手段であり、時間はその実現のための資源にすぎない。老後資金を積み立てるのと同じ真剣さで、今から人間関係に投資する必要があるだろう。
■
2025年10月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!
「なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)








コメント