AIを入れても会社が変わらない、たった一つの理由 --- 山村 太祐

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先月、帝国データバンクが全国2万社あまりに行った調査で、生成AIを業務に使う企業がついに3社に1社を超えました。効果を実感している企業も、活用している企業の9割近くにのぼります。

数字だけ見れば、順調そのものに見えます。

ところが、使い道の中身を見ると景色が変わります。最も多い用途は「文章の作成・要約・校正」、次が情報収集です。帝国データバンク自身も、生成AIはいま「判断の手前にある業務の補助」として使われている、と分析しています。

つまり、多くの会社でAIは「文章を速く書く便利な道具」にはなりました。けれど、受注の取り方も、商品の決め方も、事業の形も、導入前と変わっていない。効果は出ているのに、会社は変わっていない。これが、いまの日本の現実です。

思い出してみてください。AIエージェントの導入を決めたとき、頭の中にあったのは「文章作成が少し速くなる会社」だったでしょうか。違うはずです。提案の質が上がり、受注率が変わり、社員一人あたりが見られる顧客が増える。経営として、もっと大きな「変わった後の会社の絵」を描いていたはずです。その絵は、どこへ消えたのでしょうか。

なぜ、AIは「ただの道具」で終わるのか

理由は、AIの性能ではありません。同じ製品を入れても、変わる会社と変わらない会社に分かれます。差は、AIの側ではなく、受け取る会社の側にあります。

新しい道具が現場に届くと、社員はまず「いまの仕事をどう楽にするか」で受け止めます。これは自然なことです。日々の業務に追われている現場ほど、新しいものを今のやり方に当てはめて使う。その結果、仕事のやり方そのものを変えられたはずのAIが、「議事録を速く作る窓口」や「メールの下書き係」に落ち着いてしまうのです。

この「新しいものを取り込んで、自社のやり方に作り変える力」を、組織の力(ケイパビリティ)と呼びます。この力が育っていない会社では、何を入れても、今のやり方に飲み込まれて終わります。

私のもとへ来る相談の多くも、この状態から始まります。「費用をかけてAIを入れたのに、現場が変わらない」と経営者がこぼす。のぞいてみると、AIは一部の社員が議事録の要約に使う便利ツールに収まり、会議の進め方も提案書の型も以前のままです。そこで最初に着手するのは、AIの設定でも追加のツールでもありません。誰がどの判断にAIを使い、その結果をどう仕事の型に組み込むかを、経営の側から決め直す。つまり、組織の力を立て直すことです。土台が変われば、同じAIが、今度は会社のやり方そのものを動かし始めます。

犯人は、現場ではない

ここで多くの経営者は「現場がAIを使いこなせないからだ」と考えます。しかし、それはおそらく逆です。

先ほどの調査では、AIを使いこなせる人とそうでない人の「格差の拡大」を挙げた企業が2割近くにのぼり、大企業ではさらに高くなっています。そして別の調査では、使いこなせていないのは現場の若手ではなく、むしろ課長や経営層だという結果も出ています。新しいやり方を会社の標準にできるかどうかは、現場の器用さではなく、経営がどこまで本気で関与するかで決まるのです。

AIを入れて変わらない会社は、AIをやめても変わりません。3年前のDXも、5年前の組織改革も、同じ轍をたどってきたはずです。AIの導入はいま、新しい施策の成否を映す「経営の通信簿」になっているのです。

問うべきは、AIを入れるかどうか、ではありません。入れたものを、自社の力に変えられる会社になっているか、です。そこに答えられないまま次のAIを入れても、次のDXを入れても、また一つ便利な道具が増えるだけで終わります。

経営として描いたあの絵が現実になるかどうかは、AIの性能ではなく、組織の地力で決まります。

山村 太祐(やまむら たいすけ)
株式会社フェルディナンド・キャピタル代表取締役社長 兼 Chief Growth & Capital Officer(CGCO)。事業再構築・再成長の成果にコミットし、資本と執行の両輪で組織の力(ケイパビリティ)を立て直す「共闘者(フラクショナル・エグゼクティブ)」。組織が自走したら去る。

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