高市早苗首相の陣営が、自民党総裁選でライバル候補を中傷する動画の作成・拡散に関与したのではないかという疑惑が、国会で再び火を噴いている。問題の核心は、単に動画が作られたかどうかではない。首相自身の説明が、報道や音声データの公開を受けて、少しずつ変わっていことだ。

朝日新聞
あらためて整理すると…
発端は、週刊文春が報じた「高市陣営による中傷動画」疑惑である。同誌は、2025年の自民党総裁選をめぐり、小泉進次郎氏や林芳正氏を批判・中傷する動画が作成、拡散されたと報じてきた。さらに、動画作成者とされるIT会社代表・松井健氏と、高市首相の公設第一秘書・木下剛志氏とのやり取りや、Zoom会議の音声が存在するとしている。(文春オンライン)
これに対し、高市首相は当初、松井氏について「私自身も地元の秘書も面識のない方」という趣旨の説明をしていたとされる。つまり、首相本人も秘書も、動画作成者とは関係がないという立場だった。
ところが、週刊文春が音声を公開すると、説明は揺らぎ始めた。報道によれば、音声には木下秘書と松井氏がオンライン会議でやり取りする様子が含まれているという。文春は「うまく、一緒にやれたらいい」といった発言を含む音声を公開したとしており、首相側の「面識がない」という説明との整合性が問われた。(文春オンライン)
国会で追及されると、高市首相の答弁はさらに分かりにくくなった。6月4日の衆院予算委員会では、音声について「有料会員制のため確認できなかった」「会員になることを拒否する」として、確認を避けたと報じられている。ところが翌5日の参院予算委員会では一転して、音声を聞いたことを認めた。そのうえで「秘書本人か判断することは難しい」「記録がない」という趣旨の説明をした。(公明党)
説明がたびたび変遷する
最初は「面識がない」。次に「音声は確認できない」。その翌日には「音声は聞いたが、秘書本人か判断できない」。これでは、疑惑を晴らす説明というより、報道の追加に合わせて答弁を後退させているように見えてしまう。
もちろん、現時点で首相本人が中傷動画の作成を指示したと断定することはできない。高市首相は「他の候補者を誹謗中傷することは決してやっていない」と関与を否定している。事務所が第三者に中傷動画の作成を依頼することもないと説明している。(日本共産党)
しかし、疑惑の中心はすでに「首相本人が直接指示したか」だけではなくなっている。首相の秘書が動画作成者と接触していたのか。接触していたなら、何を話し合っていたのか。さらに、首相はその事実をいつ、どこまで把握していたのか。ここが問われている。
政治家本人が「知らなかった」と言えばすべて済む時代ではない。とりわけ総裁選や衆院選に絡むネット工作、AI動画、誹謗中傷の問題であれば、民主主義の土台に関わる。候補者を持ち上げる動画と、対立候補をおとしめる動画では意味がまったく違う。しかも、AIを使えば、短時間で大量の動画を作り、SNSで拡散することができる。
この問題が深刻なのは、内容が「選挙の裏側」そのものだからである。仮に陣営関係者が対立候補へのネガティブ動画を組織的に作成・拡散していたなら、それは単なる広報活動ではなく、世論操作に近い。しかも首相秘書が関与していた疑いがあるなら、首相の政治責任は免れない。
いまだに事実が確認できない
高市首相が本当に関与していないのであれば、やるべきことは単純だ。関係者に事実確認し、松井氏との接触の有無、会議の有無、動画作成依頼の有無、資金の流れ、メールやチャットの記録の有無を整理して、明確に説明すればよい。
ところが、現状では「知らない」「確認できない」「聞いたが判断できない」という説明が続いている。これでは、国民の疑念はむしろ深まる。
今回の問題は、政局的には高市政権の足元を揺さぶる材料になっているが、生成AI時代の選挙運動をどう透明化するかという問題でもある。AIで作られた中傷動画が選挙に影響を与え、それを誰が作ったのか、誰が依頼したのか、誰が拡散したのか分からないままなら、選挙の公正性は大きく傷つく。
高市首相の答弁が二転三転しているのは、疑惑そのものよりも、説明の仕方が後手に回っているからである。首相が「関与していない」と言うだけでは足りない。秘書、陣営、外部業者の関係を含めて、事実関係を具体的に示す必要がある。







コメント