トランプ大統領の「イラン覚書」で窮地のネタニヤフ首相

トランプ米大統領とイランのぺゼシュキアン大統領は17日夜、戦争終結に向けた枠組み合意に署名したことが明らかになった。仲介役を務めたパキスタンによれば、この合意は「即時」発効する。

米イラン間の覚書に署名したイランのぺゼシュキアン大統領、2026年6月18日早朝、IRNA通信

米イラン間で署名された基本合意書(覚書=MoU)の内容は、4月8日の米イラン間の停戦合意を受けてイラン側が米国側に提示した14項目のそれと酷似している。イランのモハンマド・バケル・ガリバフ国会議長側の「イランは米国との合意を通じて最終勝利に向けた大きな一歩を踏み出した」(IRNA通信15日付)という言葉は決して大袈裟なプロパガンダではなかった。在ドイツのイラン人ジャーナリスト、バムダッド・エスマイリ氏はドイツ民間放送ニュース専門局NTVとのインタビュ-で、サッカーのワールドカップ(W杯)試合に倣い、「イラン―米国戦は1対0でイランの勝利だ」と評していたほどだ。

イラン専門家の政治学者で国際危機グループ(ICG)のイラン・プロジェクト・ディレクターのアリ・バエズ(Ali Vaez)氏は「この戦争は何の成果も上げていない。むしろ正反対で、状況を悪化させただけだ。より危険なイランを生み出した」と主張していた。同氏によると、「イランは停戦(あるいは合意)を望んでいるが、政治的・戦略的にそれをより差し迫って必要としていたのは米国側だ」と分析していた。

ところで、アラビア語放送局アルジャジーラによると、イスラエルのダニー・ダノン国連大使は、米イラン合意はイスラエル、米国、そして湾岸諸国にとって「非常に悪いものだ」と述べた。イスラエルのチャンネル14に出演したダノン大使は、「トランプ米大統領が交渉の早期決着を強く求めたことが、イランの立場強化につながった」と説明した。

イスラエル国内ではネタニヤフ首相への批判が高まっている。反対派は、戦争開始時に掲げた目標、すなわちイランの核・ミサイル脅威の排除とテヘラン指導部の持続的な弱体化を達成できなかったと非難している。同時に、紛争への対応をめぐる緊張関係が報じられる中、トランプ米大統領との関係も悪化している、と受け取られている。

覚書(MoU)の第8項目をみると、「イラン・イスラム共和国は、核兵器を取得または開発しないことを改めて表明する。アメリカ合衆国とイラン・イスラム共和国は、第7項に記載された期限内に合意されるメカニズムに基づき、備蓄されている高濃縮物質の処分を規制することに合意した。IAEAの監督下での現地希釈は、最低限の方法である。両当事者は、ウラン濃縮問題およびイラン・イスラム共和国の核開発ニーズに関連するその他の相互に合意された事項について、最終合意において満足のいく枠組みの中で協議することに合意した」と明記され、第9項目では「 最終合意の締結まで、アメリカ合衆国およびイラン・イスラム共和国は現状維持に合意する。イラン・イスラム共和国は核開発計画の現状を維持し、アメリカ合衆国は新たな制裁措置を課したり、地域に新たな部隊を派遣したりしない」というのだ。

米イスラエル軍は2月28日、イランの核開発を壊滅するという目的でイラン戦争を開始したが、その目的は実現されず、近い将来始まる最終合意に向けた交渉に委ねることになったわけだ。ちなみに、トランプ大統領は2018年、オバマ元政権がイランとの間で実現した2015年の核合意から離脱し、イランに経済制裁を科したが、今回の合意内容は2015年のそれより後退した、と指摘する声もある。

フランス東部エビアンで開催された先進諸国7カ国首脳会談(G7サミット)は、米国とイランの戦闘終結合意を歓迎、事実上封鎖された原油輸送の要衝ホルムズ海峡の安全な通航再開に向け、連携していくことで一致して閉幕したが、イランの核問題への対応についてはどのG7首脳もほとんど言及していない。

一方、イスラエル側が覚書の内容に不満を感じるのは当然かもしれない。エルサレム・ポスト紙は15日、「イスラエル国防軍(IDF)とモサド(イスラエル諜報機関)の大多数は、イラン核合意は当事者間の力関係、そしてイスラエルが直面する脅威を考慮すると不十分として反対している」という。

覚書でもう一つの深刻な問題がある。ネタニヤフ首相はイスラエル国境地帯の住民を保護するため、レバノン南部に部隊を駐留させ続けることを望んでいるからだ。

覚書の第1項目には「アメリカ合衆国とイラン・イスラム共和国及び現在の戦争における同盟国は、本覚書に署名することにより、レバノンを含むすべての戦線における軍事活動の即時かつ恒久的な停止を宣言し、今後、相互に戦争又は軍事行動を開始しないこと、相互の威嚇又は武力行使を控えること、及びレバノンの領土保全及び主権を擁護することを約束する」となっているからだ。

ネタニヤフ首相は、国民に対しイランに対する完全な勝利を約束した。開戦当初に掲げた最大の目標は、イランの核・ミサイル脅威の排除、そしてイラン指導部の恒久的な弱体化、ひいては政権転覆であった。しかし、約4か月後、結果は厳しいものとなった。「イスラエル側が得たものは、米国との危機、イランに開放されたホルムズ海峡、革命防衛隊への資金提供、そしてイスラエルに向けられた弾道ミサイルだ」という厳しい声すら聞かれるのだ。

なお、トランプ大統領は今月初め、電話会談でヒズボラとの戦闘を継続するネタニヤフ氏に対し、「君は完全に狂っている」と発言したと報じられている。報道によると、トランプ大統領はイスラエルがイランとの外交努力を危うくしていると非難したというのだ。

ただし、ダノン国連大使が語っていたように、「(覚書は)今後の協議のための枠組みに過ぎない。最終決定はまだ下されていない」から、ネタニヤフ氏の巻き返しのチャンスはまだある。中東では考えられないことが常に起きているのだ。

ネタニヤフ首相とトランプ大統領 同首相インスタグラムより


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年6月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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