中東をユーラシア大陸の文脈で読む『中東ユーラシアから世界を見る』

7月に入って、アメリカとイラン双方による軍事攻撃が再開され、死者を伴う応酬が続いた。現時点では、軍事攻撃は再び小休止の状態に入っているように見えるが、いつ再開されてもおかしくはない。断続的な武力行使を伴う泥沼の戦争の構図は、今後も続いていくと思われる。

ホルムズ海峡の交通が再び阻害されたところに、イエメンのフーシー派とサウジアラビアの対立が顕在化し、紅海の交通も阻害されるような状況となってきた。ペルシャ湾の危機が紅海に飛び火するのではないかと懸念されてきた事態が、現実のものとなりつつある。

イランでは、前最高指導者ハメネイ師がアメリカとイスラエルの攻撃によって暗殺された後、革命防衛隊の強硬派が勢力を強めたようだ。革命防衛隊は、ホルムズ海峡の管理において中心的な役割を担っている。海峡管理から経済的利益を引き出し、イラン国内における革命防衛隊の権力基盤の強化につなげたいという思惑もうかがえる。

アメリカは7月中旬、イランの港湾に出入りする船舶を対象とする海上封鎖の再開を宣言した。封鎖活動はオマーン湾だけでなく、アラビア海、ホルムズ海峡、ペルシャ湾を含む広域で実施されている。ただし、実際にどれほどの船舶がイランへの寄港を断念しているのかは、必ずしも明らかではない。

注目されるのは、イランとの貿易量が多い中国の動きである。中国籍船を公然とイランの港湾に出入りさせ、そのまま米軍の封鎖海域を堂々と通過させるような動きは、少なくとも公開情報からは確認できない。

しかし、そもそも中国とイランとの取引は、イランを制裁対象としているアメリカの監視を可能な限りかいくぐりながら行われてきた。2026年4月、パキスタン政府は、第三国から到着したイラン向け貨物を、グワダル、カラチ、カシムの各港で荷揚げし、陸路でイランへ運ぶことを認める制度を導入した。その後、中国製品を含むコンテナ貨物の陸送が始まったと報じられている。

グワダル港からイラン国境までは、おおむね100キロ程度にすぎない。この経路は原油の大量輸送には適していないが、工業製品、機械部品、医薬品などの輸送には利用できる。現時点では、アメリカが海上封鎖と並行して、パキスタンに対し、イラン向け貿易の中継地となることを全面的に停止するよう強く迫っている形跡は目立たない。

中国とイランの間には、中央アジアを経由する鉄道輸送路も存在する。これも海上輸送を完全に代替できるものではないが、一定の意味は持ちうる。中国からイランに向かう貨物列車の運行頻度は、4月にアメリカが海上封鎖を開始して以降、週1本程度から、3~4日に1本、すなわちおおむね週2本へと増加したとも報じられている。

これと関連して注目されるのが、カスピ海を経由するロシアとイランとの貿易関係である。イランとロシアの貿易は、ホルムズ海峡の混乱後、カスピ海航路と陸上の国際南北輸送回廊(INSTC)へと急速に振り替えられていると指摘されている。

カスピ海を通航するイラン籍商船の正確な隻数は公表されていないが、おおむね50~60隻規模のイラン船隊が存在し、その一部が恒常的にロシア航路へ投入されているとみられる。イランとロシアの貿易関係は近年、拡大を続けてきた。2025年5月に発効したイランとユーラシア経済連合との自由貿易協定も、その流れをさらに後押ししている。

今年に入ってホルムズ海峡が混乱するなか、カスピ海経由の輸送量はさらに増えているようだ。たとえば、2026年3月単月のカスピ海経由によるロシアからイラン向けの穀物輸出は約30万トンに達した。前年同月にはほとんど輸送実績がなかったことを考えれば、急激な増加である。

こうした動向を警戒しているのは、アメリカとイスラエルだけではない。ロシアと交戦状態にあるウクライナも、ロシアとイランの間の物流を警戒してきた。7月25日には、イラン所有・イラン船籍の一般貨物船が、ロシアのアストラハンを出港した後、ヴォルガ川河口付近でウクライナの攻撃を受け、船員1人が死亡し、複数の負傷者が出る事件が起こった。ロシアとイランは民間貨物を運ぶ商船だったと主張する一方、ウクライナは、イランに関連する軍事貨物の輸送に使われていた船舶を攻撃対象にしたと説明している。

鉄道や道路による陸上輸送も、カスピ海を通じた輸送も、ホルムズ海峡を通過するタンカーによる海上輸送を完全に代替することはできない。カスピ海の水位低下やヴォルガ=カスピ運河の浅水化などの事情もあり、輸送能力には限界があるからだ。端的に言えば、これらの経路は大量の原油輸送には適していない。しかし、だからといって、その意味を無視してよいわけでもないだろう。
特にわれわれ日本人は、日本が島国であるため、国際貿易といえば海上輸送が大前提になると思い込みがちである。しかし、地理的条件に十分な配慮を払い、大陸に位置する諸国の多様な動きを分析するためには、大陸でこそ起こりうる事象に意識的な注意を向けることが大切である。

buradaki/iStock

昨年12月に公刊された、青木健太・笠井亮平・中東調査会(編)『中東ユーラシアから世界を読む――連結する地域と秩序再編』(岩波書店、2025年)は、こうした問題意識を持ちながら、状況を概観するうえで有益な書物である。


中東ユーラシアから世界を読む──連結する地域と秩序再編

まず序章で、「中東ユーラシアにおける『地殻変動』の見取り図」を提示することの意味を説明する編者の青木氏は、「大国主導の連結性戦略」に着目する必要性を特に強調している(9頁)。中国の「一帯一路」はあまりにも有名だが、青木氏が自ら執筆した第6章で解説する、ロシアとイランを接合する「国際南北輸送回廊(INSTC)」なども、重要な意味を持っている。

本書のその他の章でも、中東調査会の地域研究者たちを中心として、アメリカ、イスラエル、中国、ロシア、イラン、サウジアラビア、トルコ、インドなどの動きに目配りがなされている。そして、「中東ユーラシア」という広域地域において、新たな交通回廊の形成を含む多様な動きが進行していることが紹介される。「中東ユーラシア」をめぐる複合的な動きを、要領よく概観するために、本書は非常に有益だ。

日本では、アメリカの動向を追うことに終始するか、せいぜい東アジアと欧州の情勢に注意を向けるだけで、国際情勢の分析を終えてしまう傾向がある。しかし、そもそも日本にとってなじみ深い地域の諸国もまた、中東ユーラシアへと入り込み、自国に有利な国際環境を形成する努力を重ねている。まして、ユーラシア大陸に位置する諸国は、大陸内部でさまざまな動きを進め、新たな連携を模索している。

少なくとも、こうした動向に注意を払いながら情勢を把握しておかなければ、われわれの国際情勢認識は、時代の流れから取り残された「ガラパゴス」的なものになっていってしまうだろう。

日本語で読める『中東ユーラシアから世界を読む――連結する地域と秩序再編』のような良書を活用し、意識的に大陸側の動きも把握するよう心がけることは、現在の中東情勢を理解するためにも、今後の世界全体の変化を見守り続けるためにも、大切なことであるはずだ。


中東ユーラシアから世界を読む──連結する地域と秩序再編

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