ウォーシュFRB議長の船出:世界が直面する「AIインフレ」

私が投資においてFRBを意識し始めた時の議長はアラン グリーンスパン氏。氏は87年から2006年まで異例の18.5年を務めあげます。氏の言葉は難解で呪文の様だとされました。「根拠なき熱狂」など様々な名言を生み出したことでも知られています。

ケビン・ウォーシュFRB議長 Federal Reserve Xより

次いでベン バーナンキ氏の時代となり、ヘリコプターマネーというマネーでじゃぶじゃぶ状態をつくる政策は日本のその後の金融政策に極めて大きな影響を与えました。ジャネット イエレン氏は個人的には好きだった議長でわかりやすく、その後、財務長官も歴任しました。その次がジェローム パウエル氏で今回のケビン ウォーシュ氏と続きます。この5人のうち、非ユダヤ系はパウエル氏だけであとは全員ユダヤ。マネーと政治のポイントを押えるユダヤの強さとも言えます。

さて、ウォーシュ氏にとって17日の金融政策決定会合後の記者会見がある意味、実務上のデビュー戦。私もライブで拝見しました。大きな印象としては彼はFRB改革を断行するつもりに見えます。つまり今までのやり方を踏襲せず、新たなことを各方面で取り入れていくように見えます。これが記者会見の時に発表された5つの改革です。

①情報発信の改革 ②バランスシートの適正化 ③採用データの見直し ④AI時代における雇用データの再評価 ⑤インフレデータに対する再検討

その中で⑤に関係する将来の金利水準をFOMC関係者が投票してきたドットプロットについてウォーシュ氏だけが今回、棄権、その上で氏は「それは意味がない」と切り捨てました。ただ、市場はウォーシュ氏の主張よりも他の全員が掲げたドットプロットが近い将来の利上げを見込んでいることから市場には若干の失望感が見られたのであります。

どんな場合でもそうですが、新任者が着任した場合、前任者のやり方を踏襲するタイプと前任者の否定から入るケースがあります。ウォーシュ氏は明らかに後者であり、改革推進派であります。ただいくら開拓精神が旺盛なアメリカ人と言えども誰もがもろ手を挙げて賛成とはならず、当面は疑心暗鬼の政策運営ということになりそうです。

それはFOMCのメンバーとの関係、記者会見で辛辣な質問を繰り出す記者達との呼吸感、そしてそれを受け売りする市場関係者と一般大衆という関係です。例えばパウエル氏とウマが合っていたウォールストリートジャーナルのニック ティミラオス記者は記者会見でウォーシュ氏のドット プロット不参加がFRBの政策透明性に矛盾があるのではないかと厳しい態度で切り込み、私も「あれっ?」と思うほどでした。

事実、ニックはWSJでウォーシュ氏の厳しい門出というニュアンスの記事を出しています。今後、この2人がどう関係性を修復していくか見ものですが、「ペンは剣より強し」ではありませんが、それこそ改革の1番目に掲げるコミュニケーションの欠如はウォーシュ氏がどれだけ優秀であってもいばらの道となる可能性もあり、ここはウォーシュ氏の修正力ないし、説得力がどうなるのか着目されることになりそうです。

ではアメリカは利上げするのか、という点についてはもちろんウォーシュ氏は何も言っていませんが、市場は既に年内1回の利上げはほぼ織り込み済みで2度ある確率も上昇しています。

今回のインフレの要因は複合的でイラン戦争による原油高が引き起こした部分については今回の停戦合意でいずれ下がってくるはずですが、私の見立てでは「AIインフレ」の方が顕著でこちらが引き起こす物価高の方が構造的、かつ長期的で厄介なものになるとみています。例えば半導体でも高性能で高額な製品の引き合いが強いため、廉価でよりシンプルなものが品薄になり、パソコンなどが値上がりするという事態が生じています。

AIが引き起こすであろうインフレは半導体絡みだけではなく、電力や局地的気象状況、水資源など数多くの分野で歪が起きやすく、またそれが当面止まる兆候は全くありません。またエルニーニョが見込まれる今年の夏は世界規模で農作物の作柄が懸念される状況にあり、それらが引き起こすかもしれない物価高にも要注意だとみています。

そういう意味ではドットプロットのように数か月から半年先を半ば感性的に捉えるのはリスクがあり、それこそ明日のことが読めない時代にあるともいえ、FRBの金融政策も臨機応変さとデータの新鮮さを追求せざるを得ない時代になったとも言えます。その意味ではウォーシュ氏がデータソースの検証を行うとしたことは意味があります。

ところで新議長就任後、1回目の記者会見では株価は下がるというのがこのところ、定着しています。ウォーシュ氏もそのアノマリーを見事に引き継いだわけですが、ここから長丁場ですのであまり飛ばし過ぎず、市場とうまく付き合っていくことも必要かもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年6月19日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。

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