世界の市場関係者が注目した日銀とアメリカFRBの金融政策会議。わずか半日の間にそれぞれがその結果を発表するのみならず、9月という重要会議でありました。事前予想に対して発表内容が市場にどのように影響するのか、興味ある人には三度の飯より注目であったのではないでしょうか?
結論からすると両政策会議ともほぼ予想通りで発表当日の市場は波乱はなく消化されたといってよいでしょう。
まず日本からいきましょう。
私の9月10日付のブログで「今回、技術的誘導で超長期金利を高めにして短中期を低めにするオペレーションをすることで銀行からの圧力をかわす努力をするのだろうと思います」と述べさせていただきました。今回発表された二つの日銀の政策決定の一つは予想通り、ほぼビンゴであります。「ほぼ」と申し上げたのは超長期だけでなくて日銀が目指す金利誘導は10年物国債も含むという点が違っていました。
もう一つ、9月10日付で「日銀は何かしそうな気がしますが今までとパタンを変えたサプライズのような気がします」と申し上げました。サプライズというほどではなかったのですが、目標を「量から金利へ」という戦略変更がありました。それと2年2%というすでに失敗が確定しているインフレ率達成時期について「達成できるまで頑張る!」というど根性マンガに出てくるような政策となってしまっています。
海外では「なーんだ、2012年にドラギ欧州中央銀行総裁がやったコミットメントと同じではないか」と声が上がっています。
では今回の日銀の検証は何だったか、といえば私からみれば「突如決めたマイナス政策についてその功罪と反省」であって「銀行や生保など金融機関の業績に不確定で不明瞭なマイナスの影響を与えるような政策を修正し、銀行経営安定化に努め、保険業界の資金運用がしやすく、かつ、事業者の利益を日銀政策によって逸しないようにすること」だと総括できるのではないでしょうか?
肝心の2%のインフレ目標については黒田総裁が会議後の記者会見で述べた「政府には『成長力を高めるための構造改革をしっかりやってほしい』と注文を付けた」とあります。これは「日銀にもできること、出来ないことがある、政府も協力せよ」という言葉にできない真意があるのだろうと思います。
昨日の日経平均株価は300円以上上がりました。主導したのは金融機関の株式ですが全体の9割が何となく上がってしまいました。多分ですが、明日金曜日は同じぐらい下げるのではないでしょうか?個人的には株価が全体的に上がる要因はなく、リバランス政策であり、不動産株などにはマイナスのニュースだったと思っています。
次いでアメリカFOMC(連邦準備理事会)。利上げ見送り、現状維持となりました。これについてもこのブログで以前から何度も申し上げていました。アメリカ国内の各種経済指標は雇用統計以外はいま一つ、大統領選も控えている、今はドル高よりドル安政策が欲しいアメリカのボイスなどを考えれば見送りは至極当然の結果だったと思います。
一部の理事メンバーから8月から9月にかけて利上げ機運が高まったといったタカ派発言が複数出たことでよもや、という雰囲気が市場関係者に広がり、ドルが締まり、金(ゴールド)が下がるという展開となっていました。また、史上最高値圏にある株式市場もこれを受けてやや弱気になっていましたが、FOMCの発表を受けてすべてが巻き返しとなっています。
先日トロントの証券マン氏と話した時、「利上げの時期をどう予想するか?」と問われたので私は「9月はまずなくて12月だと思う」と述べています。専門家による12月の利上げの確率は現在54%程度となっていますが、大統領選挙をこなし、政治空白期間、かつクリスマスで外野の声が少ない12月に一旦利上げをしておき、新大統領の政策に合わせてフレキシビリティを持たせておくという戦略は大いにあり得るとみています。
12月の利上げは市場で少しずつ織り込みはじめていますので大きな影響はないとみています。
さて、二つの重要な金融政策のイベントを通過して直感したことは「以前ほど金融政策への期待度はなくなっている」ということであります。特に日本の場合、深堀している中でさらに効果を期待するために筋肉増強剤のような普通使わない「お薬」に頼っている節があります。つまり、市場が自助回復する能力をなくし、日銀がぶんぶん振り回す相場へと変質化したといえます。これは長期的に見れば体力を落とすことになり、好ましくありません。
アメリカはFRB理事というオオカミ少年があちらこちらで自分の意見を述べ、それに市場が振り回されてきました。挙句の果てにアメリカ以外のところから余計な問題が生まれ、何度か「さぁ、今度こそは」というときにつまづく事態に見舞われました。12月までに世界で何も起きなければいいと一番願っているのはイエレン議長ではないでしょうか?
今の時点で2017年を予想するつもりはあまりないのですが、感覚としてはアメリカは景気サイクルが明白に下向き、よってアメリカ株価は下落、ドルは下落(円上昇)のシナリオはあるかもしれません。その場合、日本は輸入物価が下がりますのでインフレには逆効果となりますが、この想定は大いにあり得る気がします。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月22日付より