フランス東部エビアンで開催された先進7カ国首脳会談(G7サミット)をフォローしていると、ヘルシンキから重大なニュースが入ってきた。フィンランド議会は17日、1980年代から続いてきた「核兵器の持ち込み、所持、輸送の全面禁止」という国内法を撤廃し、有事の際に核兵器の自国領土内への持ち込みや輸送を可能にする原子力法および刑法の改正案を賛成125票、反対61票で可決したというのだ。時間が少し経過したが、整理しておく。

フィンランド議会全体会議場、フィンランド議会公式サイトから
フィンランドといえば、2023年4月、長年続けてきた軍事的非同盟政策を転換させ、北大西洋条約機構(NATO)に隣国スウェ―デンと共に加盟したばかりだ。理由は明確だ。ロシア軍が2022年2月末、ウクライナに軍侵攻したことから、ロシアからの軍事脅威が増大したきたことへの対応だ。
NATOは「核抑止」を安全保障の柱としている。フィンランドの従来の国内法(核の完全禁止)では、有事の際にNATO同盟国(米英仏など)の核兵器を領内に一時的に移動させたり、防衛作戦を展開したりする上で法的な足かせになっていた。そのため、NATOの集団防衛にフルで参加・協調できるよう国内制度を是正することが今回の法改正の目的だ。ちなみに、フィンランド政府は、あくまで有事の抑止力を最大化するための法改正であり、「自国で核兵器を独自に開発・取得・保有する意図は一切ない」と明確に強調している。
フィンランドのアンティ・ハッカネン国防相はSNSで「この歴史的な改革は、わが国とNATO全体の安全を強化するものだ」と強い支持を表明した。
一方、法改正に反対する議員の主要な意見はロシアとの緊張が激化するという恐れだ。隣国ロシアを過度に刺激し、北欧地域一帯の安全保障環境をさらに不安定化させるという点だ。自国領内に核兵器の持ち込みや通過を認めれば、ロシアから直接的な核の脅威とみなされ、有事の際に最優先の先制攻撃対象になると警戒する声もある。
フィインランド議会(エドゥスクンタ)の今回の決定に対し、メディアや有識者を中心に驚きと強い関心が沸いている。保守派や防衛関係の有識者の間では、ウクライナ侵攻後に中立政策を捨ててNATOに加盟したフィンランドが、さらに一歩進めて「核の傘」を実効化しようとする姿勢を「徹底した現実主義」と受け取っている。ただし、フィンランドのようなリベラルで平和的なイメージの強い先進国が核の持ち込みを容認したことに対し、「世界の核軍縮の流れに逆行する」「偶発的な核戦争のリスクを高める」といった批判的な見方も事実だ。
参考までに、ドイツで今年に入り、「わが国は独自の戦略核兵器が必要だ」という声が報じられて注目された。ドイツ軍准将のフランク・ピーパー氏は雑誌「シュテルン」(1月29日)のインタビュー(見出し「ドイツの原子爆弾への道筋はどうなるか」)で述べた。戦術核兵器とは、射程距離が短く爆発力が低い核弾頭で、戦場で敵軍に直接使用することを目的としたものだ。同氏の主張の背景には、米国との緊張関係がある。現在、北大西洋条約機構(NATO)の抑止力の一環として、米国の核兵器がドイツ領土に配備されているが、トランプ政権は核兵器を撤退させる可能性を何度か示唆していることがある。
ちなみに、ドイツ国内で米国の核兵器(戦術核)が保管されている場所は、ビュッヘル空軍基地内の地下シェルター(WS3システム)だ。保有数は約15~20発のB61核爆弾(重力爆弾)と推定されている。NATOの「ニュークリア・シェアリング(核共有)」枠組みに基づき、この基地でB61核爆弾が管理・運用されている。 ドイツの他にイタリア、オランダ、ベルギー、トルコの基地にも米国の核兵器が保管されている。
最後に、フィンランドの決定は「平時から核兵器を常駐させる」ものではなく、あくまで「有事(危機的状況)の際に、NATOや同盟国の核兵器を国内に受け入れたり、国内を通過させたりする法的な障壁を取り除く」ためだ。そこで有事の際の核兵器の輸送ルートを考えてみた。
ドイツ西部のビューヒェル空軍基地には、米国が所有・管理するB61重力核爆弾が保管されている。ドイツの米軍基地等から運ばれる米国の核爆弾を、フィンランドのF-35で運用する。F-35はB61核爆弾を搭載できる能力(デュアル・ケイパブル・エアクラフト:DCA)を持っている。
もう一つの選択肢としては、フランスには空軍・宇宙軍が管轄する航空機搭載型の核ミサイル(ASMP-A)がある。フランスの核兵器を搭載可能なフランス空軍の戦闘機(ラファール)を、有事や演習時に同盟国へ一時的に配備する。すなわち、フィンランドでは二段構えの安全保障戦略が想定できるわけだ。
なお、英国の核兵器のフィンランド輸送シナリオは非現実的だ。なぜならば。 英国の核戦力は、海軍の原子力潜水艦から発射される弾道ミサイル(トライデントD5)に完全に一元化されており、航空機から投下するような「戦術核爆弾」を保有していないからだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年6月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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