
Alex Cristi/iStock
日本ではしばしば、「日本の製造業はもう限界だ」「町工場は人手不足で衰退するしかない」と語られる。
確かに、低利益率の下請け構造に依存し、人件費を削りながら延命しているだけの企業は少なくない。派遣社員や外国人技能実習生に依存し、それでも若手が定着せず、現場の高齢化だけが進んでいる企業も多い。
しかし、その一方で、全く逆方向に進化している地方企業も存在する。鹿児島県出水市に本社を置く「マルマエ」は、その代表例の一つだ。
同社は1965年に鉄工所として創業した。つまり、最初から大資本を持つ東証プライム上場企業だったわけではない。典型的な地方の町工場であった。
だが現在のマルマエは、単なる「加工屋」ではない。半導体製造装置向けの高精度部品を主力事業とし、真空部品やプラズマ環境下で使用される高付加価値部品を製造している。
同社の有価証券報告書には、次のような特徴が記載されている。
- 真空環境で使用される
- 高温高電圧プラズマに耐える
- 高精度が要求される
- 一度採用されると長期間継続受注となる
- 消耗品需要が存在する
つまり、「誰でも作れる部品」ではない。参入障壁が高く、技術力が必要で、しかも継続的な需要がある領域に集中しているのである。ここが極めて重要だ。
日本の多くの中小製造業は、「仕事を安く大量に取る」方向へ進んでしまった。しかしマルマエは逆だった。「他社が簡単に真似できない仕事」に集中したのである。
しかも、同社は単なる切削加工会社では終わっていない。
有報を見ると、アルミ素材、鋳造、表面処理、精密加工にまで事業領域を広げている。 さらに2025年には三井グループのKMアルミニウムを買収し、機能材料分野へ踏み込んだ。
これは単なる規模拡大ではない。「素材から加工までを握る」という戦略である。つまり、バリューチェーンの上流へ遡り、自ら価格決定権を持とうとしている。ここに、マルマエの本質がある。
私は前回、北海道の町村農場について、原料供給だけではなく、加工・ブランド・販売まで握ることで価格決定権を持っていることを紹介した。

マルマエも構造は似ている。
単なる「部品の下請け」ではなく、高付加価値化、技術蓄積、参入障壁、バリューチェーン拡張によって、自ら価格を決められるポジションへ移動しているのである。そして、その結果として、売上高経常利益率16.9%(2025年8月期・連結)という、製造業としては非常に高い利益率を達成している。そして、同社の平均年間給与は564万円であり、鹿児島県の企業としては比較的高い水準である。
さらに有報を見ると、エンジニア育成、多能工化、ESG、DX、再生可能エネルギー、ROIC経営まで明確に打ち出している。
これはもはや「昔ながらの町工場」ではない。地方に存在する、進化型製造業である。
しかも興味深いのは、マルマエは順風満帆だったわけではないことだ。2011年には事業再生ADR手続に入っている。つまり、一度は従来型の町工場モデルの限界に直面したのである。
だがそこから、高付加価値化、半導体分野集中、技術強化、バリューチェーン拡張へ舵を切った。これこそが重要だ。
日本の中小企業政策は、しばしば「企業数維持」を重視する。しかし本来必要なのは、企業の数ではない。
重要なのは、「価格決定権を持てる企業へ進化できるか」である。低利益率のまま、人件費削減と外国人労働力依存で延命する企業を増やしても、日本社会全体は貧しくなる一方で、豊かにならない。
一方で、マルマエのように、高付加価値、高利益率、技術蓄積、人材育成へ進む企業は、地方でも成長できる。
地方だから無理なのではない。経営の方向性の問題なのである。マルマエは、そのことを示している。







コメント