本はアマゾン、書店は大手チェーンへ:出版社の現実(中編)

(前回:取次が「撤退」を口にした:日本は欧米型へ移行する(前編)

前編では、取次の赤字と物流コストの高騰を背景に、日本の出版流通が再販・委託販売という商習慣を手放し、欧米型の流通モデルへ移行せざるを得ない局面に来ていることを論じた。

取次が「撤退」を口にした:日本は欧米型へ移行する(前編)
2026年5月、出版取次最大手の日販グループホールディングスの富樫建社長が、決算会見でこう述べた。取次事業の撤退も検討しなければならない環境が迫っているという危機感を持っている。国内に二社しか残っていない取次の、大きいほうのトップの発言であ...

だが、移行は出口ではない。値付けが自由になった世界には、勝者と敗者がはっきりと現れる。仕入力、在庫力、物流網、そして値付けの自由度で勝る者が、すべてを持っていくからだ。

オンラインでは、最も有力なのはアマゾンである。値引きは自由、配送網は世界最強、電子書籍の基盤も握っている。再販という縛りが外れて価格競争が始まれば、消費者は最も安く、最も早く届くチャネルへ流れる。本を「買う」という行為は、アマゾンへとさらに集約されていく可能性が高い。

そして、ここに見落とされがちな第二の刃がある。アマゾンは、書店よりも多くのマージンを取る。書店ルートでは、出版社の手取りは定価の約7割で、残りを取次と書店が分け合う。ところがアマゾンの直接取引で公表されている卸値は60%、つまりアマゾンの取り分は4割に達する。

1冊1500円の本なら、書店経由で出版社に残るのは約1,000円だが、アマゾンの直取引では900円。1冊あたり100円以上、出版社の取り分が削られる計算だ。アマゾンは取次を外し、その取次が取っていた以上の利幅を、自らの取り分として確保する。

問題は、出版社がこの条件を断りにくくなっていくことだ。アマゾンはすでに、取次からの調達を絞り込み、在庫切れ表示を増やすことで、出版社に直接取引を促してきた。読者が「本はアマゾンで買う」のが当たり前になればなるほど、アマゾンで在庫を切らさないことが、出版社にとって死活問題になる。

販路をアマゾンに握られた出版社は、4割という高いマージンを呑んででも、直接取引に応じざるを得なくなる。依存が深まるほど、交渉力は低下し、利幅は痩せていくだろう。

さらに、再販制度が外れた買い切りの世界では、アマゾンは価格を自由に下げられる。書店の店頭価格より一円でも安ければ、読者はアマゾンを選ぶ。価格でアマゾンに勝てる事業者は、ほとんど存在しない。こうして「本はアマゾンで買う」が「本はアマゾンでしか買われない」へと近づき、出版社は販路も利益率も、その一社に握られていきかねない。

リアル書店で生き残るのは、大手のナショナルチェーンだ。紀伊國屋書店、丸善ジュンク堂、未来屋書店、TSUTAYA。仕入交渉力と店舗運営力で、町の本屋を圧倒する。売れ残った本は値引きで在庫を回転させる余力がある。少ない棚で売れる本だけを見極めなければならない小書店とは、体力が違う。

そして、その動きはすでに始まっている。紀伊國屋書店などが出資するブックセラーズ&カンパニーは、取次を介さない直接取引を年間500億円規模へと拡大しようとしている。大手が取次を飛ばして出版社と直接つながる──買い切り時代の勝ち筋は、もう描かれているのだ。

淘汰されやすいのは、町の本屋である。もちろん、選書力で根強い支持を集める独立系書店もある。だが、パターン配本に依存してきた書店ほど、何を仕入れるかを取次に委ね、自分で売れる本を見極める筋肉を育てられなかった。自由競争に放り込まれれば、その差は残酷に出る。

買い切りでは返品ができないから、生き残った書店も売れる本しか置かなくなる。学術書も、専門書も、刷り部数の少ないニッチな本も、棚から静かに消えていく。代わりに並ぶのは、ランキング上位の話題書と、フォロワーの多いインフルエンサーの本ばかりになるだろう。本の多様性は、確実に痩せる。

それでも、移行は避けられない。ただし、その先で出版社を待つのは、バラ色の自由ではない。販売はアマゾンに集約され、そのアマゾンには書店以上のマージンを払い、価格決定権も手放す。書店は大手チェーンだけが生き残り、町の本屋は減っていく。本はアマゾンで買い、書店は大手チェーンで選ぶ──それが、日本の出版が向かおうとしている現実だ。

寂しい風景かもしれないが、これは未来の予測ではない。すでに、始まっている現実である。だからこそ、出版社がいま考えるべきは「移行するかどうか」ではない。電子であれ直販であれ、移行したあとに一社へ握られきらないための足場を、どこに残しておくかである。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

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