現在、業績悪化で苦しんでいるホンダですが、二輪事業は好調です。
同社決算発表資料(2026.5.14)によると、二輪事業と四輪事業の2026年3月期の業績は下記の通りです。
二輪事業 売上 40.118億円 営業利益 7,319億円(営業利益率 18.2%)
四輪事業 売上 141,669億円 営業利益 -14,111億円(営業利益率 -10.0%)
二輪事業は4兆円規模の堂々たる好業績事業です。
二輪事業は全世界で年間2,000万台を超えるビジネスですが、その85%はアジアが支えています。
地域別の販売台数は、下記の通りです。
日本:21万台
北米:54万台
欧州:41万台
アジア:1,874万台
その他:2,21万台
合計:2,210万台
ホンダの二輪事業は、実質的にアジア事業とも言えます。
実はこの事業、2000年前後に絶体絶命の危機に直面したことがあります。
世界的な価格戦略の第一人者ハーマン・サイモンは、著書「価格のマネジメント」(2025年に邦訳版刊行)で、このホンダの戦略について述べています。
当時のホンダは、ベトナムでバイクを2,100ドルで販売し、シェアをほぼ独占していました。
しかし中国の競合他社が550〜700ドル、つまり1/4から1/3の激安コピーバイクを大量に販売し始めたのです。
中国メーカーはわずか2年で年間100万台以上のバイクを販売するまでに成長する一方で、ホンダの販売台数は100万台から17万台に減少しました。
こんな状況では、多くの企業は市場を撤退するか、プレミアム市場へのシフトを選ぶでしょう。しかし、この時のホンダは違いました。
まずは既存モデルを2100ドルから1300ドルに引き下げました。
しかし単なる値下げは続きません。
そこで2年の開発期間をかけて、よりシンプルで、非常に安い新モデル「ウェーブα」を開発し、732ドルで販売し始めたのです。
ホンダとして絶対に譲れない高いエンジン品質、安全性、信頼性は重視する一方で、その他の必要不可欠でない機能は割愛。さらに部品を現地メーカーから調達し、製造コストを徹底的に下げました。
中国の激安コピーバイクよりもやや高価格ですが、壊れないので長期間に渡って使えます。
一方の中国メーカーはホンダと比べて品質が見劣りし「安かろう悪かろう」でした。
ホンダがウェーブαを投入すると、激安コピーバイクを選ぶ理由はなくなります。
最終的に、中国のほとんどのメーカーを市場から追い出すことに成功しました。
マーケティング的に見ると、これは興味深いことが起こっています。
・ホンダは、ベトナムのバイク市場を開拓した。しかし当初価格は高かった
・中国メーカーの参入で、超低価格市場が急拡大した
・しかし超低価格市場では、品質問題が起きた
・そこでホンダが品質を維持した超低価格モデルを投入し、超低価格市場を奪還した
こうしてベトナムでのウェーブαの挑戦は、現在のホンダの二輪事業を支える大きな転機となったのです。
サイモンは著書で、この出来事からの教訓を述べています。
「Hondaのような先進国の中価格ポジションの企業であっても、新興国市場において超低価格の競合他社に対抗する事は可能である。しかし、従来の通常の商品では成功できないため、競合他社に対抗するためには、抜本的な方針の見直しと再設計、大幅な簡素化、現地生産、徹底したコスト意識が必要となる」
サイモンの洞察は、多くの日本企業にとって示唆に富んでいるのではないでしょうか。
【参考文献】
「価格のマネジメント」ハーマン・サイモン著 108-109
「ホンダ・ベトナム、高品質・低価格バイク「ホンダ Wave α」を投入」 ホンダ 2002.1.19
編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年6月30日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。







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