自動車は人気不人気が明白に出る産業であります。先般、時々見に行く当地のトヨタ系のディーラーに行ったところ、ショールームの中に飾っている半数は中古車。もちろん、1-2年落ちの比較的新しい車ばかりですが、あれっと思い、販売員に聞くと「そうなんだよね。ないんだ。クルマが」と。そりゃそうです。人気車種は1年から1年半待ちですからショールームに飾る余裕などあるわけありません。特にトヨタが苦しんでいるのはアメリカで製造するトヨタ車で、税金問題の着地点もよくわからない中、アメリカから車が入ってこないわけです。
こんなうらやましい話と真逆なのがドイツのフォルクスワーゲン(VW)。報道によると全従業員の15%にもなる10万人のリストラ案。更にドイツ国内の4つの工場の閉鎖が検討されていると報じらています。同社のドイツ国内の工場稼働率は5割を切っており、当面、それが回復する見込みもありません。

フォルクスワーゲンHPより
理由の一つは以前にも書いたとおり、ドイツの自動車業界の労働組合の異様な強さとそれによる高労賃体質であります。車1台の製造にかかる人件費はドイツが3307㌦、日本が769㌦、中国が597㌦です。ドイツの突出ぶりは尋常ではなく、また合理化に対する組合の抵抗も大きく、経営陣は八方ふさがりとも言えます。その結果、VWの営業利益率は25年に2.8%にまで落ち込みました。
またドイツ車、特にVWは中国市場を席巻していたのですが、中国車に負けて今や、シェアが目も当てられない勢いで急落しています。26年1-5月で11.1%となり、ドイツ車トップを走るVWも25年通年の販売数が前年比8%減の270万台です。またアジア諸国が効率的に品質の高い車を安く作る能力が急速に高まったことで職人気質のドイツが追い付けなくなったと言ってよいでしょう。
ところでVWにはグループ会社に様々な自動車会社がぶら下がっていますが、各社のの状況はまちまちであります。最も親孝行なのがチェコのシュコダで、VWのプラットフォームを使って同国の安い労賃で作るので利益が出ており、営業利益率は8.3%をたたき出します。また高級車路線ではポルシェが以前ほどの勢いはないものの引き続き15%程度の高利益体質を維持しています。ただし、同社の総売上高及び販売台数はVWに比べ、少ないのです。一方、足を引っ張っているのがアウディとスペインのセアトで利益率はそれぞれ3%台、1%台と低迷しています。
地球儀レベルで経済を俯瞰すると製造業が近年の技術革新と効率化、更に市場の変化で明らかに昔の名前が流行らなくなっていると言えます。ただ、自動車を含め、世界各地で製造できる汎用性のある物は各国、自国産業育成や雇用面から保護しやすくなっています。よって製造業に強みがある国も国内市場においては自国製品を浸透させられるものの海外市場はなかなか勝てなくなってきたとも言えます。
先進国における製造業の難しさは人件費上昇と労働者の保護であり、それに伴う雇用者側のコストが極めて高くなり、価格競争力を失うという極めてシンプルなシナリオです。余剰労働力を他の産業に振り替えるのも簡単ではない時代であり、ドイツが欧州の優等生として君臨できるとはもはや誰も思えなくなっているのでしょう。では欧州で成績優秀な国はあるのか、と言われるとなかなか思いつかなくなってきたと思います。
気をつけたいのは国内で経済不振が深刻になると政治の不安定化が進み、保護主義が台頭、更に労働者保護の観点からAIを含めた先端技術の使用の制限などが出かねない状況にあります。負のサイクルでありますが、そうなると最終的に他国のことを広い心で見ることができず、戦争などが起こりやすい状況が生まれます。
ドイツの苦境を見ていると日本の将来を見ているような気もするのです。学ぶべきは身代わりの早さなのかもしれません。今や10年前の経済、経営的な常識が役に立たなくなった中で3年先5年先を読んだ国家運営、企業経営を立てなくてはならず、激しい生き残り戦争に突入してきたとも言えるのでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年7月2日の記事より転載させていただきました。







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