AIブームは、かつての通信バブルによく似ている。1990年代末、ジョージ・ギルダーは光ファイバーによって帯域が事実上「自由財」になると予言した。計算能力がムーアの法則で安くなったように、通信容量も爆発的に増え、社会は「テレコズム」の楽園に向かうというわけだ。
稀少な資源を節約し、過剰な資源を浪費する
ギルダーは「稀少な資源を節約し、過剰な資源を浪費するのが経済の法則だ」と主張し、10年で100倍になる計算資源を浪費する光ファイバーなどのブロードバンドが爆発的に成長すると予言した。
この予言を信じて、通信会社は光ファイバー網に巨額投資を行った。ワールドコム、グローバル・クロッシング、クウェストなどのインフラ業者、ノーテル、ルーセント、JDSユニフェーズなどのベンダーの株価は天文学的に上昇した。
しかしバブルは崩壊した。中継網にいくら光ファイバーを敷いても、家庭や企業に入る最後の1マイルが古い銅線のままでは、需要は伸びない。過剰になった計算資源ではなく、最後に残った稀少資源が全体の速度を決めるのだ。
AIでも、最後の1マイルはユーザーの端末である。チャットGPTのような無料モデルでは、何も収益は上がらない。グーグルには検索広告という武器があったが、AIでは広告が出せない。月20ドルのサブスクさえ5%しかいない。法人契約(B2B)は検索でも売り上げの20%程度であり、今の膨大なAI設備投資を正当化するのは不可能である。
株主は顧客ではない
もう一つ、通信バブルの生んだ名言がある。株主は顧客ではないということだ。現在の熱狂は、GPU、データセンター、電力、モデル開発への巨額投資に支えられているが、これはすべて設備投資である。株主はリターンを要求する債権者であり、企業に金を払う顧客ではないのだ。
ゴールドマン・サックスは、AI関連投資が2026年に年7650億ドル規模となり、2031年には年1.6兆ドル規模に拡大する可能性を示している。マッキンゼーも、AI需要を満たすために2030年までにデータセンター関連で5.2兆ドルの投資が必要になると試算している。
この巨額投資がそのまま利益に変わるわけではない。通信バブルのときに帯域が余ったように、AIバブルでは計算能力(compute)が余る。問題はGPUをどれだけ並べるかではない。AIが企業や個人の現場に入り、実際の生産性向上や売上増加につながるかどうかである。ここにAI時代の最後の1マイルがある。
AIサービス料金は電力料金に近づく
物理的なボトルネックも深刻だ。AIデータセンターは膨大な電力を必要とする。ゴールドマン・サックスは、世界のデータセンター電力需要が2027年までに50%、2030年までに最大165%増えると予測している。IEAも、AIとデータセンターの拡大が電力システムに大きな負荷を与えると分析している。
実際、電力会社やインフラ企業はAI向け電源の確保に動き始めている。英国のナショナル・グリッドは、米国のデータセンター向け電力インフラ企業に17.5億ドルを投資すると発表した。テキサスでは、マイクロソフト向けデータセンターに電力を供給するため、2.67GW級のガス火力発電プロジェクトも進められている。
AIのB2B利用はトークン課金になり、その料金が激増して、ユーザーがAIの利用を制限している。こういう現象も通信バブルの初期に起こり、光ファイバーの料金が上がって、その投資を正当化するように見えた。
しかし世界中で光ファイバーやDSLに投資するコモンキャリアが増えると、その料金は劇的に下がり、CLEC(競争的通信事業者)はほぼ全滅した。
AIでも、中国のDeepSeekなどのオープンソース業者が、ほぼ無料でサービスを提供している。参入障壁は低いので、これは経済学の完全競争に近く、料金はその限界費用つまり電気料金に近づき、AIプラットフォームの利益はゼロに近づく。
稀少な資源はユーザーの「関心」
だが電力も本当の意味での最後の1マイルではない。電気を引き、GPUを並べ、モデルを巨大化させても、それを使う人間の時間、関心、業務フロー、意思決定権限は簡単には増えないからだ。AIが無限に文章を書き、画像を作り、コードを生成しても、人間がそれを読み、判断し、採用し、責任を負う時間は有限である。
ハーバート・サイモンが指摘したように、情報が豊かになればなるほど、人間の関心は稀少になる。検索エンジンの時代には、グーグルが情報の海から必要な情報を探す時間を節約した。SNSの時代には、プラットフォームが人々の関心を配分する市場になった。
AIの時代には、さらに問題が大きくなる。AIは情報を整理するだけでなく、情報そのものを無限に生産するからだ。AIが増やすのは知能だけではない。ノイズも増やす。営業メール、広告文、動画、資料、ニュース風コンテンツ、プログラム、企画書が無限に生成される。すると稀少になるのは人間の関心である。
B2Bでも利益を生み出すのは人間
B2Bでも同じだ。コーディングをAIにやらせるのは簡単だが、そのコードが利益を生むには、社内データとの接続、権限管理、セキュリティ、業務プロセスの変更、法的責任、品質管理、人事評価の見直しまで必要になる。
AIが答を出しても、その答をビジネスに実装できなければ意味がない。最後の1マイルは、モデルからユーザーまでの距離ではなく、ユーザーの業務と意思決定にAIが入り込む距離なのだ。
ここで通信バブルの教訓が生きる。光ファイバー網そのものは無駄ではなかった。バブル崩壊後、その過剰投資はインターネット、動画配信、クラウド、スマートフォンの基盤になった。しかし投資家は一度大きな損失を出した。インフラは正しかったが、タイミングと収益化の見通しが間違っていたのだ。
レイオフできる経営者が稀少資源になる
「AIでホワイトカラーが失業する」といわれる。皮肉なことに、その最初の犠牲者は、コーディングをおこなうプログラマだった。GAFAMなどの「ハイパースケーラー」は大量にレイオフしている。
しかしレイオフする経営者は残る。どのAIに経営資源をどれだけ投入するかという意思決定は今より重要になる。AIで代替できる余剰人員をすみやかに切れる企業が生き残り、正社員の雇用を守る日本企業は競争から取り残され、淘汰されるだろう。
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