イラン最高指導者 モジタバ・ハメネイ師は何処に

イラン全土で最高指導者アリ・ハメネイ師らへの追悼告別式が挙行されている。イラン国営通信IRNAによれば、数百万人の国民が今年2月28日、米イスラエル軍の空爆で殺害された最高指導者ハメネイ師に最後の別れを告げたという。ただし、ハメネイ家の喪主ともいうべきハメネイ師の息子モジタバ・ハメネイ師の姿は公式の式典には見られなかった。

イスラム革命の最高指導者アリ・ハメネイ師の遺体の前で祈りを捧げるイランの指導者たち、IRNA通信、2026年7月5日

欧州のメディアはテヘランに現地特派員を派遣し、ハメネイ師の告別式の様子を報道しているが、オーストリア国営放送(ORF)は5日、「ハメネイ師の葬儀、息子の姿はなし」という見出しを付けて大きく報じていた。モジタバ・ハメネイ師が3月、イラン専門家会議から第3代の最高指導者に選出されて以来、新指導者はこれまで公の場に姿を現したことがない。ただ、数回、イスラム革命防衛隊(IRGC)を通じてメッセ―ジを発表したが、生の声ではなかった。

ハメネイ師の告別式が4日から9日までの日程で挙行されているが、米紙の報道によると、モジタバ・ハメネイ師は公式の式典に出席する意向を明らかにしていたが、イスラム革命防衛隊(IRGC)が「安全に問題がある」として出席を諦めさせたという。真偽は不明だ。

ハメネイ師を含むイランの指導者が米イスラエル軍の空爆で殺害されただけに、米国とイラン間で現在、戦争終結に向けて交渉が継続中だとはいえ、イランの現指導者が一堂に集結する公式追悼式典が再び攻撃される危険性は排除できない。その意味でIRGC側の「安全問題」という説明は理解できる。

ただし、ハメネイ師の追悼式典には外国からの要人が参加している。そのうえ、戦争終結を誰よりも願うトランプ米大統領が果たしてイランの指導者への攻撃を容認するとは思えない。なぜならば、モジタバ・ハメネイ師を殺害したとしても、イランの聖職者支配体制がそれで崩壊することはないことを米国側も理解したはずだからだ。

モジタバ・ハメネイ師は2月28日の攻撃で負傷したとみられているが、その後の容体は不明だ。父親や他の家族の葬儀に姿を見せなかったことから、同師を巡る様々な憶測を呼んでいる。なぜ、モジタバ・ハメネイ師は姿を現さないのだろうか。

国営メディアによると、5日の礼拝は、イラン・イスラム共和国で最も影響力のある聖職者の一人である、97歳のアヤトラ・ジャファル・ソブハニ師が主導した。ハメネイ師の息子であるマスード、モスタファ、マイサムの各氏も父親や他の家族の遺体の前で祈りを捧げた。米イスラエル戦争以来、ハメネイ師の息子たちが公の場で登場したのは初めてだ。なお、ハメネイ師にはモジタバ・ハメネイ師を含み4人の息子がいる。モジタバ・ハメネイ師以外はビジネスなどの他の分野で活躍している。

国営テレビの映像によると、三権の長であるマスード・ペゼシュキアン大統領、ゴラム・ホセイン・モフセニ・エジェイ司法長官、モハンマド・バゲル・ガリバフ国会議長も最前列におり、IRGCの海外作戦を担う「コッズ部隊」のイスマイル・ガーアニー司令官の姿もあった。IRGCのトップ、アフマド・ヴァヒディ最高司令官も出席していた。一方、ハメネイ師と緊張関係にあったモハンマド・ハータミー元大統領(任期1997年~2005年)やハッサン・ローハニ元大統領(2013年から2021年)は、葬儀の式典に出席していないようだ。

テヘランで行われたハメネイ師の遺体を運ぶ葬列、2026年7月6日、IRNA通信

なお、テヘランにあるモサッラー・モスク(礼拝所)の演壇には、イラン国旗に包まれた5つの棺が安置されていた。そこには、ハメネイ師本人に加え、義理の息子、娘、息子モジタバ氏の妻、そして生後14か月の孫娘の遺体が収められていた。

ハメネイ師の遺体は6日までテヘランのモサッラー施設に安置され、その後、首都での葬列(10時間から12時間)が行われる。7日には棺がシーア派の学術都市コムへ、8日には隣国イラクにあるシーア派の聖地へと運ばれ、埋葬は9日、イラン北東部にあるハメネイ師の故郷マシュハドで行われる予定だ。同師はそこで、共に亡くなった家族の隣に埋葬されることになっている。

以上、イランのハメネイ師の追悼式典をフォローしたが、国営メディアは米イスラエル軍の空爆で亡くなった指導者たちをいずれも「殉教者」というタイトルで呼んでいる。米国とイスラエルを最大の敵とするイランのムラ―政権にとって、その戦いでの犠牲者は「殉教者」という名誉を受ける資格があるわけだ。それではムラ―政権によって今年1月、非人道的に殺害された数千、数万人のイラン国民はどう呼ばれるべきか。

イスラム教シーハ派は昔から多数派スン二派に対し少数派意識、被害者意識が常に燻っている。そして「殉教の美学」に溺れてしまう傾向がある。殉教の安売りだ。繰り返すが、シーア派の「殉教の信仰」の最大の犠牲者はイラン国民だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年7月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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