不動産を売るべき時とは:売却判断のフレームワーク

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(CREが変える経営財務 ⑦)

企業が保有する不動産を「売るべきか、持ち続けるべきか」——この問いは、経営判断の中でも特に先送りされやすい。

土地や本社、工場、社宅には、先代から引き継いだ歴史や感情があり、数字だけでは測れない重みを持つ。加えて不動産は、一度売却すれば容易には買い戻せない資産でもある。だからこそ「将来使うかもしれない」「地価が上がるまで待った方がよい」「売ると会社が弱く見える」という発想が、判断を先延ばしにする。

こうした考え方は必ずしも間違いではない。しかし、不動産を持ち続けることにもコストとリスクがある。前回は、こうして遊休不動産が生まれる構造を論じた。今回はその先にある問い、企業はどのような時に不動産を売るべきかを考えたい。

不動産売却には、いまだに「後ろ向きの処分」という印象がつきまとう。資金繰りに窮した結果として、あるいは事業が悪化し縮小している証として語られることが多い。

しかし実際には、収益を生まない不動産を売却して本業投資に振り向ける、老朽化した建物を手放して財務負担を軽くする、遊休地を処分して借入金を返済する、事業承継に備えて資産構造をあらかじめ整理するといった、前向きな資本の再配置としての売却も少なくない。売却を敗北とみなす発想そのものが、企業から判断の機会を奪っている可能性がある。

売却の是非は、単一の基準では決まらない。重要なのは、価格だけでなく、その不動産が企業価値にどう貢献しているかを複数の角度から確認することである。

第一に問うべきは、その不動産が現在および将来の事業に必要かという事業適合性である。立地は現在の事業戦略に合っているか、規模は過大ではないか、将来の事業計画と整合しているか、保有ではなく賃借でも機能を維持できないか。かつて必要だった倉庫が、物流体制の変更によって過大になっている例、営業所の統廃合により旧拠点が実質的に使われなくなっている例は珍しくない。

第二に、収益性である。賃料収入があっても、大規模修繕、建替え、固定資産税、管理費、空室リスクを差し引けば、固定化された資本に対して十分なリターンを生んでいない不動産は多い。仮に売却資金を本業投資や借入返済に回せるとすれば、現状の不動産収益とどちらが企業価値向上に貢献するのか、この比較を避けてはならない。

第三に、財務負荷である。不動産は保有する限り固定資産税や維持管理費、保険料といったコストを発生させ続け、しかも流動性が低いため、資金繰りの柔軟性を奪う要因にもなる。

第四に、事業承継やM&Aへの影響である。含み益の大きい不動産は評価方式によって自社株評価を押し上げ、後継者の税負担を重くする可能性がある。買い手にとっても、本業と関係の薄い不動産を多く抱えた会社は買収価格の算定や買収後の資産整理が難しくなる。

これら四つの基準は、独立したチェック項目ではない。事業・収益・財務・承継という経営の異なる断面から、同一の不動産を照らし出しているにすぎない。ある不動産が事業適合性を欠いていれば、多くの場合、収益性も財務負荷も同時に悪化する。一つの兆候は、他の兆候と連動して現れると考えるべきである。

ただし、売却それ自体は目的ではない。現金化した資金の使途——借入返済か、本業への設備投資か、人材採用か、新規事業か、事業承継対策か——が明確でなければ、経営判断としては未完成である。

「高く売れるから売る」という発想では、売却後に企業価値が高まる保証はない。得た資金をどこに再投資するかまで設計して初めて、売却は資本配分の判断としての意味を持つ。不動産売却とは、資産を減らすことではない。資本の置き場所を、より重要な場所へ移すこと、すなわち資本配分戦略である。

企業が不動産を売るべき時とは、単に価格が高い時ではない。その不動産が事業に必要なくなった時、十分な収益を生まなくなった時、財務を重くしている時、事業承継やM&Aの障害となっている時、そして売却資金をより重要な経営課題に振り向けられる時である。

もちろん、すべての不動産を手放せばよいわけではない。本業を支える拠点、収益を生む資産、将来の成長に不可欠な土地は、保有し続ける意味がある。重要なのは、不動産ごとにその役割を見極めることだ。

売却か保有かは、価格だけでは決まらない。事業、収益、財務、承継、資本配分を総合して考えることこそ、企業不動産戦略の本質である。不動産を売るべき時とは、企業価値向上のために、その資本を別の場所へ移すべき時なのである。

次回は、その対極にある問い——「不動産を持ち続けるべき時とは」を考えてみたい。

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