「アメリカがアメリカの地位を維持できる最大の理由はドルを発行する国家であるからである」こう言い切っても試験解答で✖となることはないでしょう。あれだけの巨額の財政赤字を抱える国でありながら日本をはじめ、英国やカナダはその国債を喜んで購入しています。その間隙を縫って中国はしっかり売り抜いています。
中国のアメリカ国債の保有残高は2013年11月にピークの1兆3167億㌦をつけますが、その後、ほぼ一貫して売り続け、25年12月末の残高が6835億㌦、26年4月には6511億㌦まで下がっています。ピークからはちょうど半分になったわけですが、今の中国の対米戦略からすれば更に売り続けるだろうとみています。よってその分を誰かが買わない限りアメリカ国債の価値は遺棄してしまいます。しかしながら日本政府はアメリカ国債の様な巨大な取引市場がないと日本政府の買い付け額のような規模をこなせる市場規模がない、と言うのは確かに一理あります。(ただ、そこまでしてアメリカ国債を買う理由も私には明白な意味合いを感じないのですが。)
中国がアメリカ国債を売る理由の一つは中国が国際社会における調整役として自信をつけてきたから、という試験解答を書いてもこれは✖にならないはずです。中国のことを全くバイアスなくみると私にはいくつかのエレメントがあるとみています。
- 現時点でアメリカと並ぶ国家規模と国力を保有
- 共産党主導ゆえの議論をはさむ余地のない決定力と行動の早さ
- 世界の中で中国とディールする国は相当数に及ぶこと
- 中国は歴史的に中国を中心とする天動説的な考えがあり、世界にその影響力を及ぼすことに意味を持たせていること
これらのポイントについて細かい意見はあるかもしれませんが、概ね外していないはずです。我々は中国国内の経済状況や不動産事情といった問題ある部分に目を向けがちですが、それはごく一部の事象に過ぎず、彼らは実にしたたかに生きていく人種であります。

2026年5月14日米中首脳会談 トランプ大統領と習近平国家主席 ホワイトハウスXより
その中で中国にとって米ドルは米中覇権競争における一つの切り崩しのためのターゲットであることは確実で、このような話は少なくとも10年、15年単位で話題にありました。ただ、ドル覇権主義において中国元は管理相場として通貨の国際化という点で今一つ信用がおけないという見方が強く、国際決済手段になかなかなれなかったのが歴史でした。
ところがトランプ氏がイラン戦争をしてくれたために中国元の決済が飛躍的に増え、中国はまさに漁夫の利となったのです。戦争中はイラン産原油について中国元建ての決済をすることを条件にホルムズ海峡の通行を許可しています。また、中国が開発したアメリカの決済システムSWIFTの対抗馬、CIPSの利用が急増したのです。これはアメリカがイランに対する経済制裁をしたために海外との資金決済手段としてCIPSに頼らざるを得なかったのです。つまりアメリカがどこかの国家を経済制裁なり、戦争などで苛めれば苛めるほど中国はホクホクになるという仕組みが存在するのです。
中国が決済手段CIPSの次に進めており、実用間近なのがmBridgeというデジタル決済手段であります。これは中国政府が主導し、香港に本部決済機能を持たせ、タイ、UAE、サウジアラビアなどが初期の参加国になっている中央銀行と商業銀行同士を結ぶフィンテックであります。これによりSWIFTと比べ費用は半分、決済は数秒という「早い、安い」を実現します。24年に実用レベルまでの技術的確立がなされ、現在一種の試験運用が続けられています。
この最大の特徴は米ドルを絡ませないという点にあります。仮にこれが普及すれば世界で流通する米ドルが減少することが見込まれ、冒頭の「アメリカがアメリカである理由」の試験問題は将来、正解とは言えなくなる時代が来るのかもしれません。
これは私のたわごとなのですが、フィンテックの興隆はドル一辺倒になる必要が全くない技術革新であります。米ドルがローカルカレンシーの1つになり下がれば借金だらけのアメリカの国債を買う意味は無くなります。もちろん、現時点では例えばステーブルコインを見ると世界で流通する99%は米ドル資産を担保にしたものであり、米ドル圧勝の感は強いのです。ただ、私にはこれは一時的現象であり、あと5-10年もすればどの国も自国の国債などを担保にしたステーブルコインを発行することになり、選択肢は確実に増え、今の様な米ドル一強はあり得ないと考えています。
国際決済機能という点では技術の進歩、及び中国の覇権的動きにより世界の常識は崩れる日が私が生きているうちに起きるはずです。その場合、日本ができることはe-JPYを早く作り上げることだと考えています。円の国際化は80年代に話題になった後、もはや死語のようになってしまいましたが、チャンスは再び廻って来たとも言えるのです。中国にできて日本にできないはずはないのです。そしてe-JPYがe-USDとどうリンクさせるか、そのあたりを構築することで世界の通貨覇権競争に臨むべき準備をすべきでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年7月16日の記事より転載させていただきました。







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