今年6月、北海道共同募金会で衝撃的な事件が発覚した。赤い羽根共同募金などで集めた寄付金のうち1億8,000万円が使途不明となり、会計責任者の事務局長(58)による着服が疑われている。通帳と印鑑はこの事務局長が1人で管理し、2020年ごろから無断で現金を引き出し、借り入れで穴埋めして発覚を免れていた。発覚のきっかけは内部監査ではなく、札幌国税局による本人の所得税法違反の強制調査だった。年間6〜7億円を扱う法人で、通帳と印鑑を1人が握っていたのである。

北海道の1.8億円は突出しているが、静岡県小山町社協で約300万円、岩手県宮古市で約255万円、青森県田舎館村で約20万円、宮城県岩沼市で約500万円と、赤い羽根・社協まわりの着服は全国で散発している。共通するのは「1人管理体制」と「発覚の遅れ」だ。1953年にも横領事件が起きており、半世紀以上にわたり同じ構図が繰り返されている。中央共同募金会はガバナンス強化を呼びかけているが、根本的には変わっていない。ゆるゆるのガバナンスだ。


■ 人事:中央共同募金会の会長は近年、元慶應義塾長の清家篤氏、元厚生労働事務次官の村木厚子氏。さらに役員報酬規程には、常務理事の報酬基準として「一般職の職員の給与に関する法律」と人事院規則を準用し、俸給表は「行政職(一)」を使うと明記されている。民間の募金団体が役員報酬を国家公務員俸給表で決めている——組織の自己認識が「役所の延長」であることを規程自身が語っている。
■ 制度:募金期間は厚生労働大臣の告示で決まり、毎年9月30日には厚生労働大臣室で「赤い羽根空の第一便」伝達式、10月1日のキックオフには大臣が参加する。国が広告塔を務める民間募金は他にない。

| シナリオ | 前提 | 募金総額 | 現場に届く額 |
|---|---|---|---|
| 現状(令和6年度実績) | 経費等16.6% | 165億円 | 138億円 |
| A:完全デジタル化・募金額維持 | 経費を決済手数料3%+最小運営費5%に圧縮 | 165億円 | 152億円(+14億円) |
| B:同調圧力の蒸発 | 戸別募金110億円が半減。デジタル効率適用 | 110億円 | 101億円(▲37億円) |
| C:QRキャンペーン成功 | B+成人の1割(約1,000万人)が年500円QR寄付=50億円上乗せ。経費8% | 122億円 | 112億円(▲26億円) |
(1)1947年の集金UX(町内会経由の戸別訪問)のまま2020年代を迎え、
(2)法と税制で守られているがゆえに再設計の圧力が働かず、
(3)実働を社協と町内会の無償労働に外部化し、
(4)配分の6割を実働主体でもある社協に還流させ、
(5)122条で助成先の自立を法的に妨げている
——「悪意の利権」というより、制度疲労した準公的インフラだ。
だからこそ処方箋は「潰せ」ではない。高齢者サロンや豪雪地帯の除雪ボランティアのような、クラファンでは絶対に資金が付かない「映えない」小口活動165億円分を、直接寄付市場は代替できない。やるべきは、
①122条を廃止して助成先の自主ファンドレイジングを解禁する
②寄付者が使途(分野・地域・団体)を指定できるオープンな配分に転換する
③戸別募金の「目安額」提示をやめて任意性を明確化する
——つまり直接寄付市場と同じルールで競争させることだ。それで縮むなら、それが本来のサイズだったというだけの話である。
・中央共同募金会「令和6年度 共同募金運動の募金額について」:https://www.akaihane.or.jp/news/bokin/41042/
・中央共同募金会 統計データ(募金編):https://www.akaihane.or.jp/bokin/history/bokin-data-2/
・中央共同募金会 令和3年度会計決算書:https://akaihane.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021financial_statements.pdf
・中央共同募金会 役員及び評議員の報酬並びに費用に関する規程:https://www.akaihane.or.jp/assets/doc/chuo/2017hosyu_hiyou_kitei
・共同通信「赤い羽根、1億8千万円使途不明」(Yahoo!ニュース):https://news.yahoo.co.jp/articles/7afcba8efa0cc09c55ade9df0fd10b1a1acee100
・HBC「赤い羽根募金1億8000万円使途不明 北海道共同募金会が謝罪」:https://news.yahoo.co.jp/articles/fad080dabfefbfa89ca784a9e07e71acaea9f688
・coki「北海道赤い羽根共同募金1億円使途不明」:https://coki.jp/article/column/84977/
・岩手県共同募金会「共同募金に係る不適正事案への対応について」:https://www.akaihane-iwate.or.jp/info/20250929.html
・厚生労働省「共同募金」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/kyoudoubokin/index.html
・厚生労働省 社会・援護局「共同募金について」(2007):https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/12/dl/s1214-11e.pdf
・厚生省通達「共同募金の実施について」(昭和42年):https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta8261&dataType=1&pageNo=1
・総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和7年度実施)」(解説:ゴールドオンライン):https://gentosha-go.com/articles/-/71143
・日本ファンドレイジング協会「寄付白書2025」:https://jfra.jp/research
・日本ユニセフ協会 収支報告概要:https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_report.html
・Wikipedia「共同募金」:https://ja.wikipedia.org/wiki/共同募金
・桜井市社会福祉協議会「共同募金」(市町村レベルの経費実例):https://www.sakuraisyakyo.jp/?page_id=123
・シナリオA:経費16.6%を「決済手数料3%+最小限の運営・審査費5%」の計8%に圧縮できたと仮定(災害準備金3%は運営費内に含む簡略計算)。165.2億円×92%≒152億円。
・シナリオB:戸別募金110.0億円が任意化により半減(▲55億円)、他の募金方法は維持と仮定。総額110.2億円×92%≒101億円。街頭募金が総額の1.7%しかない事実を、外部からの働きかけなしの自発的寄付率の代理変数とした。
・シナリオC:シナリオBに加え、成人人口の約1割(1,000万人)が年500円をQR寄付する楽観ケース(+50億円)。参加率はふるさと納税控除適用者1,080万人に匹敵する水準。
・いずれも単年・静学的な概算であり、実際の弾力性は地域・年齢構成で大きく異なる。反証・再計算歓迎。
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年7月15日の記事より転載させていただきました。







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