赤い羽根募金はこれからどうすればいいのか永江案を提示する

今年6月、北海道共同募金会で衝撃的な事件が発覚した。赤い羽根共同募金などで集めた寄付金のうち1億8,000万円が使途不明となり、会計責任者の事務局長(58)による着服が疑われている。通帳と印鑑はこの事務局長が1人で管理し、2020年ごろから無断で現金を引き出し、借り入れで穴埋めして発覚を免れていた。発覚のきっかけは内部監査ではなく、札幌国税局による本人の所得税法違反の強制調査だった。年間6〜7億円を扱う法人で、通帳と印鑑を1人が握っていたのである。

「もう赤い羽根には募金しない」という声がSNSに溢れた。だが自分が引っかかったのはそこではない。この団体、そもそもなぜまだ存在しているのか。寄付市場全体が過去最高を更新し続けるなかで、なぜ赤い羽根だけが30年間縮み続けているのか。データを掘ってみたら、想像以上に面白い構造が見えてきたので共有したい。

不正は北海道だけではない
まず事件の系譜を押さえておく。
北海道の1.8億円は突出しているが、静岡県小山町社協で約300万円、岩手県宮古市で約255万円、青森県田舎館村で約20万円、宮城県岩沼市で約500万円と、赤い羽根・社協まわりの着服は全国で散発している。共通するのは「1人管理体制」「発覚の遅れ」だ。1953年にも横領事件が起きており、半世紀以上にわたり同じ構図が繰り返されている。中央共同募金会はガバナンス強化を呼びかけているが、根本的には変わっていない。ゆるゆるのガバナンスだ。
数字で見る「一人負け」

赤い羽根の募金総額は1995年度の約265.8億円がピークで、以降ほぼ一貫して前年比3〜4%ずつ減り続け、令和6年度は165.2億円。ピーク比で38%減だ。
これを「寄付離れ」で説明することはできない。寄付白書2025によれば、2024年の個人寄付総額は2兆261億円で過去最高。ふるさと納税を除いても7,533億円に拡大し、寄付者率は44.5%と2009年から10.5ポイント上昇している。ふるさと納税は令和6年度に1兆2,728億円で5年連続過去最高。市場全体が伸びるなかで、赤い羽根だけがきれいに右肩下がりなのである。
そこで働いているのは誰か——見えない人件費
「職員は全国で何人いるのか」を調べると、面白いことに統計が存在しない。中央共同募金会の決算書を見ると人件費は年約1.5億円で、専任職員は数十人規模の小所帯。47都道府県の募金会事務局も各数人〜十数人程度。
では165億円を誰が集めているのか。厚労省資料によれば、市町村ごとの支会・分会は自前の組織を持たず、90%以上が社会福祉協議会に業務を依頼している。実働は社協職員の兼務と、全国200万人規模とされる「奉仕者」——つまり町内会役員や民生委員の無償労働だ。帳簿上の職員は数百人でも、実態としてのマンパワーは社協と町内会に外部化されている。この「見えない人件費」構造が、後で述べる試算の鍵になる。
経費を引いて実際に届くのは83%——実はふるさと納税より効率的という皮肉

令和6年度の年次報告書によると、募金総額165.2億円に対し助成総額は137.9億円。83.4%が現場に届き、約17%が経費・災害準備金等だ。内訳は、昭和42年の厚生省通知で「概ね10%を限度」とされる募金経費と、赤い羽根募金の3%を積み立てる災害等準備金など。参考までに日本ユニセフ協会は85%を本部拠出としており、「83%」は寄付団体として異常な水準ではない。無償で働かされる町内会などのボランティアが多いからですな。
ここで強烈な皮肉がある。資金が殺到しているふるさと納税は、返礼品費用3,208億円、事務費等1,676億円など総経費5,901億円で受入額の約46%が費用に消える。「社会に届く率」で比べれば赤い羽根83% vs ふるさと納税54%。効率では赤い羽根の圧勝なのに、資金は効率の悪い方へ流れている。日本の寄付市場は「効率」ではなく「手軽さ・見返り・使途の物語性」で動いている、ということだ。しかも寄付白書は、ふるさと納税のうち返礼品目的でない「寄付的な」利用は9.2%にすぎないと指摘している。成長しているのは寄付ではなく、2,000円で返礼品が買える節税ショッピングなのである。
なぜ赤い羽根だけが縮むのか——4つの構造要因
① 集金チャネルが「衰退するインフラ」に固定されている
令和6年度も戸別募金が全体の66.6%(110億円)を占める。収入の3分の2が「町内会役員が各戸を回る」方式に依存しており、赤い羽根の減少カーブは寄付意欲ではなく地縁組織の解体速度をそのまま写している。
② 見返り競争に構造上参加できない
競合は羽根一本 vs 和牛・米・家電+税額控除。勝負にならない。むしろふるさと納税が家計の「寄付・控除枠」を吸い上げるクラウディングアウトが起きていると見るべきだ。
③ 使途を選べない・見えない
赤い羽根は配分委員会が助成先を決める「計画募金」で、寄付者から金の行き先はブラックボックスだ。寄付白書では「寄付がきちんと使われているか不安」と感じる人が74.1%。寄付市場の成長ドライバーが「使途の指定と可視化」だとすれば、赤い羽根はその真逆の設計になっている。
④ 信頼毀損が非対称に効く
使途を選べない募金は「組織への信頼」だけが担保だ。だからColabo問題や北海道の着服事件は、使途指定型の寄付よりはるかに深く効く。信頼で成り立つ商品ほど、不祥事の限界費用が高い。
政治献金はあるのか——「ない」が、もっと深い接続がある
「政治献金で守られているのでは」と疑う人も多いだろう。調べた限り、共同募金会から政党・政治家への献金は確認できない。そもそも社会福祉法が寄付金の使途を「社会福祉を目的とする事業を経営する者への配分」に限定しており、献金に回す経理的経路が存在しない。
だが、金が流れていないことと癒着がないことは別問題だ。この団体の通貨は献金ではなく人事と制度である。

■ 人事:中央共同募金会の会長は近年、元慶應義塾長の清家篤氏、元厚生労働事務次官の村木厚子氏。さらに役員報酬規程には、常務理事の報酬基準として「一般職の職員の給与に関する法律」と人事院規則を準用し、俸給表は「行政職(一)」を使うと明記されている。民間の募金団体が役員報酬を国家公務員俸給表で決めている——組織の自己認識が「役所の延長」であることを規程自身が語っている。

■ 制度:募金期間は厚生労働大臣の告示で決まり、毎年9月30日には厚生労働大臣室で「赤い羽根空の第一便」伝達式、10月1日のキックオフには大臣が参加する。国が広告塔を務める民間募金は他にない。

つまり「献金で政治を買う」のではなく、最初から行政と一体だから買う必要がない、という構図だ。
国が後押しする意味はまだあるのか——社会福祉法122条という時限爆弾
1947年の設計には合理性があった。小さな福祉施設が個別に募金しても住民に知られておらず不利なので、第三者の募金会が一括で集めて配分する。その代償として社会福祉法122条は「配分を受けた者は、その後1年間、事業経営に必要な資金を得るための寄附金を募集してはならない」と定めた。
情報流通コストが高かった時代、これは弱小団体の保護だった。だが誰でもクラファンで直接寄付を募れる現在、この条文は真逆に作用する。助成を受けた団体は、自力でファンドレイジングする権利を1年間法律で奪われるのだ。赤い羽根に依存する団体ほど直接寄付市場で育つ機会を失い、募金会への依存が再生産される。中間組織の存在理由だった条文が、中間組織の延命装置に転化している。
国が降りられない本当の理由は、政策的必要性というより、配分の約6割が社協に流れるこの仕組みが社協・民生委員・町内会という厚労行政の末端ネットワークを支える民間資金パイプだからだろう。赤い羽根が消えれば社協の活動費に穴が開き、その穴は公費要求として自治体と厚労省に返ってくる。赤い羽根とは「国民の善意を財源化した社協の準公費」なのである。
試算:QRコードでスマホ寄付にすれば解決するのか
ここで多くの人が考えるのが「スマホでQR決済にして中間マージンを削れば、もっと集まるのでは」という案だ。実際、中央共同募金会は令和6年10月からPayPay寄付を導入済みで、ネット募金は増加している。そこで単純化した試算をしてみた。

シナリオ 前提 募金総額 現場に届く額
現状(令和6年度実績) 経費等16.6% 165億円 138億円
A:完全デジタル化・募金額維持 経費を決済手数料3%+最小運営費5%に圧縮 165億円 152億円(+14億円)
B:同調圧力の蒸発 戸別募金110億円が半減。デジタル効率適用 110億円 101億円(▲37億円)
C:QRキャンペーン成功 B+成人の1割(約1,000万人)が年500円QR寄付=50億円上乗せ。経費8% 122億円 112億円(▲26億円)
シナリオAだけ見れば「中抜き削減で+14億円」と景気がいい。だが問題はBだ。赤い羽根の収入の3分の2は、町内会役員が玄関先まで「お願い」に来るから払われている金である。その証拠に、通りすがりに自発的に入れる街頭募金は全体のわずか1.7%(2.8億円)しかない。QRで「いつでも払える」ようにするとは、「今この場で断りにくい」状況をなくすことと同義だ。手軽にした瞬間、払わない自由も手軽になる。
シナリオCはかなり楽観的な前提を置いた。成人の1割・1,000万人が毎年500円をQRで寄付する——これはふるさと納税の控除適用者数(1,080万人)に匹敵する参加率で、返礼品なしでこれを実現できたら日本の寄付史に残る快挙だ。それでも上乗せは50億円で、戸別募金半減の損失を埋め切れない。
結論はこうだ。中抜き削減効果(最大+14億円)より、「断りにくさ」という見えない収益源の消失リスク(▲数十億円)の方が大きい。赤い羽根の本当の収益源は善意ではなく同調圧力であり、UX改善はこの構造の延命策にすらならない。むしろデジタル化は、この募金が同調圧力なしには成立しないことを証明してしまうだろう。
まとめ:これは腐敗ではなく制度の老衰である
整理する。赤い羽根共同募金は、
(1)1947年の集金UX(町内会経由の戸別訪問)のまま2020年代を迎え、
(2)法と税制で守られているがゆえに再設計の圧力が働かず、
(3)実働を社協と町内会の無償労働に外部化し、
(4)配分の6割を実働主体でもある社協に還流させ、
(5)122条で助成先の自立を法的に妨げている
——「悪意の利権」というより、制度疲労した準公的インフラだ。

だからこそ処方箋は「潰せ」ではない。高齢者サロンや豪雪地帯の除雪ボランティアのような、クラファンでは絶対に資金が付かない「映えない」小口活動165億円分を、直接寄付市場は代替できない。やるべきは、

①122条を廃止して助成先の自主ファンドレイジングを解禁する
②寄付者が使途(分野・地域・団体)を指定できるオープンな配分に転換する
③戸別募金の「目安額」提示をやめて任意性を明確化する

——つまり直接寄付市場と同じルールで競争させることだ。それで縮むなら、それが本来のサイズだったというだけの話である。

参考資料・引用元
・中央共同募金会「令和6年度年次報告書」:https://www.akaihane.or.jp/wp/wp-content/uploads/annual-report-2024.pdf
・中央共同募金会「令和6年度 共同募金運動の募金額について」:https://www.akaihane.or.jp/news/bokin/41042/
・中央共同募金会 統計データ(募金編):https://www.akaihane.or.jp/bokin/history/bokin-data-2/
・中央共同募金会 令和3年度会計決算書:https://akaihane.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021financial_statements.pdf
・中央共同募金会 役員及び評議員の報酬並びに費用に関する規程:https://www.akaihane.or.jp/assets/doc/chuo/2017hosyu_hiyou_kitei
・共同通信「赤い羽根、1億8千万円使途不明」(Yahoo!ニュース):https://news.yahoo.co.jp/articles/7afcba8efa0cc09c55ade9df0fd10b1a1acee100
・HBC「赤い羽根募金1億8000万円使途不明 北海道共同募金会が謝罪」:https://news.yahoo.co.jp/articles/fad080dabfefbfa89ca784a9e07e71acaea9f688
・coki「北海道赤い羽根共同募金1億円使途不明」:https://coki.jp/article/column/84977/
・岩手県共同募金会「共同募金に係る不適正事案への対応について」:https://www.akaihane-iwate.or.jp/info/20250929.html
・厚生労働省「共同募金」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/kyoudoubokin/index.html
・厚生労働省 社会・援護局「共同募金について」(2007):https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/12/dl/s1214-11e.pdf
・厚生省通達「共同募金の実施について」(昭和42年):https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta8261&dataType=1&pageNo=1
・総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和7年度実施)」(解説:ゴールドオンライン):https://gentosha-go.com/articles/-/71143
・日本ファンドレイジング協会「寄付白書2025」:https://jfra.jp/research
・日本ユニセフ協会 収支報告概要:https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_report.html
・Wikipedia「共同募金」:https://ja.wikipedia.org/wiki/共同募金
・桜井市社会福祉協議会「共同募金」(市町村レベルの経費実例):https://www.sakuraisyakyo.jp/?page_id=123
試算の前提(透明性のための注記)
・シナリオA:経費16.6%を「決済手数料3%+最小限の運営・審査費5%」の計8%に圧縮できたと仮定(災害準備金3%は運営費内に含む簡略計算)。165.2億円×92%≒152億円。
・シナリオB:戸別募金110.0億円が任意化により半減(▲55億円)、他の募金方法は維持と仮定。総額110.2億円×92%≒101億円。街頭募金が総額の1.7%しかない事実を、外部からの働きかけなしの自発的寄付率の代理変数とした。
・シナリオC:シナリオBに加え、成人人口の約1割(1,000万人)が年500円をQR寄付する楽観ケース(+50億円)。参加率はふるさと納税控除適用者1,080万人に匹敵する水準。
・いずれも単年・静学的な概算であり、実際の弾力性は地域・年齢構成で大きく異なる。反証・再計算歓迎。


編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年7月15日の記事より転載させていただきました。

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