ミュンヘンで知った、「美味しい」の正体

出口里佐です。

旅に出ると、その土地で評判のレストランを訪れるのも楽しみの一つです。しかし、私が求めているのは「美味しい店を制覇すること」ではありません。

その店で食事をすることで、自分自身の味覚を知ること。

トラムの停車駅を降りてすぐ、Les Deuxの建物が見えてきます。
17時半の予約なので、この時はまだお客さんは数組でした。

今回、ミュンヘンで再訪したフレンチレストラン&ブラッセリー「Les Deux」で、そのことを改めて実感しました。

昨年訪れたときにも好印象だったこの店を、今回も予約しました。その日の午後になって「バイエルン国立歌劇場のノルマの当日券を取って、オペラに行こうか、それともこのままゆっくり食事を楽しもうか」と少し迷いましたが、結局、レストランで過ごす時間を選びました。

その選択は、正解でした。

今回もレストランではなく、少しリーズナブルなブラッセリーに予約。テラス席に案内されました。飲み物はノンアルコールカクテルのブラックカラントのを勧められたので、それをお願いしました。

ブラックベリー、パイナップル、ブラックカラントのノンアルコールカクテル。
酸味と甘みのバランスがあり、料理に合いました。自家製フォカッチャとドライトマトのピュレ付き。

最初にいただいたのは、マグロのタルタルです。

マグロのタルタル。ほんのりとお醤油と生姜、ちょこんとアイオリソース。ジャガイモの超薄切りをミルフィーユ風に重ねて、揚げているよう。
冷たいマグロと、揚げたて熱々ほくほくフリット。

ほんの少し醤油を思わせる旨味が添えられ、クラシックなフランス料理に、さりげなくアジアの要素が溶け込んでいます。

そういえば昨年いただいた前菜にも、タイハーブを思わせる香りがありました。

その瞬間、私は「だからこの店が好きなのだ」と気付きました。

フランス料理の技法を大切にしながら、アジアのエッセンスを自然に取り入れることで、料理全体が軽やかに感じられるのです。2週間の旅も終わりに近づくと、特に軽いものを食べたくなります。

一方で、メインに選んだリードボーは、少し違う印象でした。

リードボー(仔牛の胸腺肉)のソテー、そら豆、塩漬けレモン、トマト、アンチョビ。

そら豆、塩レモン、トマト、アンチョビ。

どれも魅力的な素材ですが、それぞれの個性が前に出ていて、私はリードボーそのものに集中することができませんでした。

もちろん、この複雑さを「楽しい」と感じる方もいらっしゃるでしょう。

しかし私は、パリのビストロ「レザンファンルージュ」で、年に数回いただくリードボーが大好きです(「レザンファンルージュ」を紹介した2024年12月の記事)。

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塩、胡椒、そしてバターで丁寧にアロゼするだけ。余計な演出はありません。だからこそ、リードボーそのものの香り、甘み、食感を存分に味わうことができます。その一皿が、いつの間にか私の中で「リードボーとはこういう料理」という基準になっていたのです。

今回のLes Deuxの一皿は、その基準があったからこそ、「私はもっとシンプルな仕立てが好きなのだ」と教えてくれました。つまり、Les Deuxの料理が悪かったのではありません。他の店で同じ食材を味わうことで、自分自身の好みが見えてきたのです。

デザートの「Exotik im Glas」は、また違った魅力がありました。

Exotic Im Glas(グラスの中のエグゾティック)と名付けられたデザート。
ココナツクリーム、バジルソルベ、ピーナッツのディスク。底のほうには、パイナップルキューブ。
パイナップルとココナッツでピナコラーダの組み合わせ。南国を思わせる、まさにエキゾチックです。

ココナッツ、バジル、ピーナッツを組み合わせた一皿は、南国を思わせる軽やかな余韻が印象的です。

食後にはカモミールティーをお願いしました。

昼間は暑かったミュンヘンも、夕暮れになると空気がひんやりと変わり、持ってきた薄いジャケットがちょうど良い季節になっていました。温かなハーブティーを飲みながら、その心地よい寒暖差まで味わうことができました。

Les Deux、19時45分。テラス席は、ほぼ満席です。
ミシュラン一つ星ということもあり、海外からのお客さんも多い気がしました。

店を出ると、隣には可愛らしい子ども服と家具のお店がありました。

Les Deuxのお隣の子供服と家具のお店のショーウインドー。
ロバの頭の肘掛けの可愛らしい椅子に目が釘付け。目が合いました!

思わずショーウィンドウを眺め、「もし子どもがいたら、こんな服を着せてみたい」とちょっと想像しました。オペラを観なかったからこそ、こうした予定にない小さなほっこりした楽しい出会いもありました。街の空気、人とのやり取り、偶然見つけたショーウィンドウ。それらが一日を豊かなものにしてくれました。

今回のミュンヘンで、私は一つのことに気づきました。食べ歩きとは、お店を比較することではなく、他のお店で食べてみるからこそ、自分はなぜこれを美味しいと思うかがわかることもあります。旅先で出会う料理は、自分の味覚を映す鏡なのかもしれません。

Les Deuxから徒歩5分ほどのマリエン広場、20時20分頃。
12月にはここがクリスマスマーケットの会場でした。

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