「部下は叱る? ほめる?」という議論への違和感

最近、とても感じるのは、パワハラを恐れる管理職が急増していることです。

最近の日経MJでも、こんな見出しの記事がありました。

『(日経Woman 働く女性の考現学サーチ)部下を叱れない上司が増加』
日経MJ 2026.7.15

本記事では、Job総研の調査を紹介しています。

・2023年時点で、上司から熱量高く叱られた経験がない人たちは、
→20代 75.2%、30代 53.9%、40/50代 50.3%

・「叱られたい」「どちらかと言えば、叱られたい」と言う人は
→20代 23.8%、30代 17.0%、40代 17.1%、50代 7.1%

つまり「20代は熱量高く叱られた経験がなく、他年代と比べて叱られたい人は、やや多い (1/4弱)」という結果です。

この調査結果には、納得感もあります。

私が企業のマネジメント研修などで管理職の皆様と関わってきて感じるのは、現場に近い管理職ほど、優しく部下と接する傾向が強いことです。

そして「部下を叱って、育てる」がデフォルトだった管理職が、叱るのを避け始めた結果、言うべきことが言えず、職場が「ゆるブラック化」しているのです。

ゆるブラックとは、一見長時間労働やハラスメントがなくてホワイト企業だけど、上司の指導やコミュニケーションが少ないので自分の能力を活かせず、やりがいや働きがいを感じにくい企業のことです。

ただ、こんな議論に、私はいつももやもやしたものも感じています。

それは「叱る、叱らない」「ほめる、ほめない」といった基準だけで議論していることが多いことです。

これは考えてみると、おかしいことです。

「上司は部下を叱るべきか、ほめるべきか」という議論はよく見ますが、「部下は上司を叱るべきか、ほめるべきか」という議論は見たことがありません。

最近の若者が上司に「課長、やればできるじゃないっすか」と言った、というエピソードが笑い話として語られることもあります。これは「そもそも部下って、上司をほめる立場じゃないでしょ」という暗黙の了解が、ツッコミの大前提です。

叱ったりほめたりするのは、上下関係が前提なのです。

その意味では、叱るのも、ほめるのも、コインの裏表です。

実際には、部下と上司は会社から求められている役割が違うだけで、本来は対等であるべきです。

現実には、現場で仕事をしている部下にしかわからない状況もあります。上司が部下の状況を100%把握するのは不可能です。

一方で多くの場合、上司は部下よりも多くの経験をしてきて、スキルも高いことが多いでしょう。ですから上司は部下の仕事を見て、アドバイスすることができます。

そこで私は、考え方を変えるべきだと思います。

それは「できているかどうかを、ただ、フィードバックすること」です。

私も企業研修では、これをできる限り行っています。

私は企業研修では、受講いただいてる皆様に対して、叱ったりほめたりする事がほとんどありません。

そのかわりに、課題ができているかどうかを、そのまま包み隠さずにフィードバックするように心がけています。

私は研修講師として「先生」と呼ばれることもありますが、だからといって、上の立場にいるのではありません。

受講いただいている方々は、ご自分のビジネスについては、ご本人が誰よりもプロフェッショナルとして熟知しておられます。

一方で私は「研修サービス」を提供する立場にいて、提供する研修コンテンツについてはプロフェッショナルです。

お互いにプロフェッショナルとして、立場は対等です。

そこでプロフェッショナルとして対等にフィードバックし合うことが、研修のクオリティーを上げて学びを最大化する上で、大切なことだと私は考えています。ですので私も皆様から学ばせていただいています。

大ベストセラー『嫌われる勇気』の著者である哲学者であり心理学者の岸見一郎さんも、ご著書『ほめるのをやめよう』で、このようなことを書いておられます。

・リーダーと部下は対等だ
・力で部下を率いずに、言葉で協力関係を築くことを目指すべきだ
・上司は部下を一人の人間として尊敬し信頼すべきだ
・対等な関係では、ほめることはできない
・ほめられると自分に価値があるとは思えなくなる

ちなみに冒頭の記事は、IT企業SHIFTの取り組みを紹介しています。

SHIFTでは目標を細かく決め、進捗確認や認識すり合わせを行う仕組みがあり、「できてないこと」を具体的に指摘しています。

昨今重視されてきた「ダイバーシティー」の考え方も「私たちはお互いに対等である」ということが暗黙の前提です。

まず「上司も部下も、対等」という前提で考えることで、現在の職場の様々な問題が解決していくのではないでしょうか。


編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年7月28日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。

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