【前編】Claude CodeもHTMLも使わずに、ツールは作れる

2026年7月24日、WAVE出版主催のセミナー「あなたの文章、AIに添削させてみた ~コラムニストが見せるClaude文章術~」で、自作のツールを実演した。「文体の万華鏡」という。使い方は単純だ。テーマを1つ入力して、ボタンを押す。それだけである。

操作に説明はいらない。入力欄が1つ、「一斉に書かせる」と書かれたボタンが1つ。あとはお題の例がいくつか添えてあるだけだ。ツールの価値は機能の多さではなく、迷わせないことにあると考えたからだ。多機能な道具は、使う前に学習を要求する。学習を要求する道具は、忙しい人の机の上では埃をかぶる。だから削った。残ったのが、この素っ気ない画面である。

4つの文体で設計可能

すると同じ題材が4つの文体で一斉に立ち上がる。新聞コラム調、週刊誌の煽り見出し調、学術論文調、そして私自身の文体。当日は「シャインマスカットを欲しがる理由」など、数パターンの実演をした。

新聞コラム調は、日常の小さな贅沢への静かな渇望として書いた。週刊誌調は「たかがブドウと思うなら大間違いだ」と読者を挑発した。学術論文調は、希少性がもたらす象徴的消費行動として説明した。私の文体は「正直に言う。値札を見て一度は棚に戻した」という告白から始まった。

同じ題材でここまで変わるのかという反応が、いちばんの狙いだった。内容を変えずに、届き方だけを変える。それが文体の仕事である。ふだん私たちは内容の優劣ばかりを議論するが、実際に読者の手前で門番をしているのは、内容ではなく文体のほうだ。門番と相性が悪ければ、中身がどれほど良くても扉は開かない。

比較は同時性があって初めて成立する

4つを並べる形式にしたのには理由がある。1つずつ順番に見せたのでは、文体の差は記憶の中でしか比較できない。人間の記憶は都合よく丸めるから、差は小さく見積もられる。同じ画面に同時に置けば、丸める余地がない。冒頭の一文の温度差、語尾の硬さ、読者との距離の取り方。その違いが、視線を横に動かすだけで確認できる。これは長年、書評を書き続けてきた経験から得た確信でもある。

文体を切り替える力は、実務でそのまま効く。同じ企画を、上司に出すのか、取引先に出すのか、SNSに流すのかで、通る書き方は変わる。頭では分かっていても、いざ書き直すとなると腰が重い。4つ並べて選ぶ形にしてしまえば、迷う時間そのものが消える。

書き直しが億劫なのは、能力の問題ではない。白紙から別の構えを立ち上げる心理的な負荷の問題だ。たたき台が4つ並んでいれば、人は選んで直すだけでよい。ゼロから書く作業と、選んで整える作業とでは、消耗の度合いがまるで違う。ツールが肩代わりしているのは執筆ではなく、この立ち上げの負荷である。

素材は同じである。違うのは書き手の構えだけだ。それが4つ並んだ瞬間、文体とは装飾ではなく態度であることが、説明抜きで見えてしまう。文章術を言葉で語るより、この画面を一度見せたほうが早い。

その実演の様子は、WAVE出版がYouTubeで公開している。この記事で私がどれほど言葉を尽くすより、実際に4つの文体が同じ画面に立ち上がる瞬間を見ていただくのが早いだろう。文体が態度であるという話は、目で見れば数秒で伝わる。

「あなたの文章、AIに添削させてみた ~コラムニストが見せるClaude文章術~」実演映像

では、このツールはどうやって作ったのか。実は、そこにこそ本題がある。後編では、その裏側を明かす。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

日本初のClaude実用書です。発売即重版しました。

3時間で身につくClaude活用術』(WAVE出版

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