
イオンモール熊本の爆発
気象庁によると、2026年7月28日16時27分頃、熊本県熊本地方の深さ16kmでマグニチュード7.1(暫定値)の地震が発生し、宇城市および氷川町で震度7を観測したとのこと。
毎日新聞によると、嘉島町にあるイオンモール熊本では、地震発生当時、約3000人の利用客がいたが、30分ほどで避難誘導を終えた後に爆発が発生。従業員も館外に逃げたが、一部の従業員は館内に戻っていた可能性があり、現在までに7人の方が亡くなり、5人の方が軽傷を負ったとのことである。
筆者は、今回被災したような大規模ショッピングモールにおけるリスク調査(海外の保険会社が保険引き受けの観点から行う調査)を国内外で数多く経験しており、なぜこのような規模の爆発が起きたのかを考察し、対策について説明する。
考えられる原因
爆発当初から専門家に指摘されているのが、LPガスの爆発である。ショッピングモール内でこれほどの規模の爆発を起こす可能性がある危険物が、ガス以外にあったとは考えにくい。
被災した現場を撮影した下の写真の左下に写っているタンクが、LPガスのタンクと思われる。地震発生後、LPガスが遮断されず、建物内にガスが充満し続けた後に着火し、このような爆発に至ったというのが、現時点で考えられるシナリオである。

熊本日日新聞の2026年7月30日の記事より
地震時のガスの遮断
筆者が国内でこういったショッピングモールのリスク調査をする際、必ず確認する最重要項目として、ガス(都市ガスあるいはLPガス)の遮断が挙げられる。
ショッピングモール内には多くの飲食店が入っており、調理にはガスが使われている。多くの場合、ガスの配管が各店舗に入るところで、マイコンメーターと呼ばれる自動遮断弁が設置されており、震度5程度で自動的に閉じるとされている。
問題は、施設(あるいは建物)にあるガス供給元から各店舗に入るまでの配管における漏洩である。要は、大元のガス供給元で遮断しないと、途中の配管からガスが漏れて建物内に充満する可能性がある。
地震時のガスの遮断について、筆者がリスク調査の際に必ず確認するのは、以下の3点である。
- 施設内(あるいは建物内)のガス供給元に自動遮断弁を設置し、大規模な地震の際に自動でガスを遮断するようになっているか。
- 自動遮断弁がある場合でも、施設管理担当者が大元の遮断弁が閉まっていることを目視で確認する手順になっているか。
- 自動遮断がない場合、大規模な地震の際に、施設管理担当者が大元の遮断弁を手動で閉める手順になっているか。
地震時のガスの自動遮断は、法律で必ずしも義務付けられていない。筆者の経験では、自動遮断の機能自体が付いていないケースもあり、また、誤作動によるガス供給停止を恐れてか、この機能を使っていないケースも散見される。
自動遮断がない場合、非常に重要なのが3の手動遮断であるが、この重要性が必ずしも認識されているとは言い難い。

自動ガス遮断弁の例
Seismic Shutoff社のウェブサイトより
ガス自動遮断の誤作動防止策
今回のようなガス漏れを恐れて自動遮断弁を設置した際に心配なのが、誤作動である。
飲食店が最もにぎわう昼時や夕方に、地震が起きていないにもかかわらず、誤作動によって自動遮断弁が閉じ、ガス供給を長時間停止してしまったらどうなるか。飲食店の営業損害に対して、ショッピングモール側が補償するという問題に発展してしまう可能性がある。
誤作動のリスクを抑えつつ、必要なときには作動させることを目的とした「2 out of 3」と呼ばれるシステムがある。これは、地震を感知する感震器を3つ設置しておき、そのうち2つが地震を感知した際に作動して、遮断弁を閉じるというシステムである。
3つの感震器のうち1つが誤作動しても遮断弁は閉まらず、3つの感震器のうち1つが故障していても、残りの2つが地震を感知すれば遮断弁は閉まるという仕組みである。
この「2 out of 3」の考え方は、石油、ガス、化学プラントなどの安全装置において広く使われている。
ガス配管の経路
もう1つ気になるのが、LPガス配管の経路である。
建物の設備設計において、通常、ガス配管は屋外に配置し、万が一漏洩した際にも、屋外で拡散するようにする。もしLPガス配管が建物内を通っていたのであれば、今回のような大惨事となるリスクが高くなる。
LPガスは空気より重く、建物内に滞留しやすいため、特に注意が必要である。これほどの爆発を起こすには、相当な量のLPガスが建物内に滞留していたと思われるが、ガス配管が建物内を通っていた可能性があるのではないか。
企業防災において必要な観点
日本では、消防法や建築基準法などの法規制を「最低限の労力」で守ることを「防災」と考えている経営者が、まだまだ多いと思われる。
本来は、何をどういう理由で守るのか、どういう方法で守るのかを合理的に追求するべきであり、その内容は企業ごとに異なり、事業所ごとに異なるはずである。多くの場合、法規制に従うだけでは十分とは言えず、そして、法規制が必ずしも正しいとは限らない。
過去にアゴラの記事で何度も指摘しているが、企業分野(工場、倉庫、ショッピングモールなど)における日本の消防法は、科学的とは言えず、国外の事情を知る立場からすると、事業者がなぜ従うのか理解不能である。
駐車場に設置されるガス消火設備や泡消火設備、高天井の建物に設置される開放型スプリンクラー設備は、それらの有効性が確認されておらず、誤作動のリスクが高いだけである。
日本では数十年にわたって消防機関と設備業界が癒着し、彼らにとって都合がよい設備を設置させ、維持管理をさせる「消防規制ビジネス」が横行してきたというのが実態である。
この癒着について、私以外の国内専門家が問題提起をせず、オールドメディアが一切報じてこなかったため、多くの国民には知られていない。また、多くの国民や企業はそういったことに興味がないため、今後も変わる気配がないのは、残念と言わざるを得ない。
保険会社のリスク調査とは?
最後に、筆者が30年近く携わってきた海外の保険会社のリスク調査について説明する。
- 建築(防火区画、可燃性断熱材の有無、屋根など)を現場で確認
- 消火設備を現場で確認し、試験を実施(可能であれば)
- 受変電設備、ボイラー、加熱炉、IT室などを現場で確認
- 危険物の貯蔵・保管状況や使用工程を現場で確認
- 可燃物が大量に保管される倉庫を現場で確認
- 消火設備の点検、試験の記録を確認
- 受変電設備やボイラーなどの点検、試験の記録を確認
- 自衛消防組織、災害対応計画、喫煙規定、火気使用作業の規定を確認
- 警備の状況を確認
これらを半日~2日程度かけて確認し、事業所側には問題点を指摘事項として挙げ、保険会社側には引き受けのための情報を提供するというものである。







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