高市政権が、飲食料品の消費税率を2027年4月から2年間、8%から1%に引き下げる方針を表明した直後、外為市場で日米協調介入がおこなわれた。米国が円を買い支えるのは極めて異例である。
この協調介入は「高市政権はバラマキをやめ、日銀は利上げしろ」というシグナルだが、政権はジレンマに陥った。円安を止めるために米国の力を借りながら、円安と金利上昇を招きかねない消費減税を進めようとしているからだ。

米国まで円を買った異例の介入
ベッセント米財務長官は、日米の協調介入について「円の無秩序な動きを抑えた」と評価し、必要なら追加介入にも参加すると表明した。さらに、日本が保有する米国債を市場で売却せず、担保にしてドルを調達できるFIMAレポ制度の拡充まで提案している。
日本は約1兆1400億ドルの米国債を保有する最大の外国保有国である。日本が円買い資金を得るために米国債を大量に売れば、米国債価格が下落し、米国の長期金利がさらに上昇する恐れがある。米国が円を支えた背景には、同盟国への友情だけでなく、自国の国債市場を守るという切実な事情もある。(Reuters)
つまり今回の協調介入は、円相場だけを対象にしたものではない。日本国債の下落、米国債金利の上昇、円キャリートレードの巻き戻しが連鎖することを防ぐ、国際的な金融危機対策だったと考えるべきだ。
消費減税は介入の効果を打ち消す
ところが高市首相は、飲食料品の消費税率を8%から1%に引き下げる方針を変えていない。「赤字国債には頼らない」「2年後には責任を持って8%に戻す」と説明しているが、市場は額面通りには受け取っていない。
減税方針が表明された7月30日、10年物国債の利回りは一時2.8%まで上昇した。財源が明確でない以上、いずれ国債発行の増加につながると投資家が判断したためだ。2026年度予算の約4分の1はすでに国債で賄われ、消費税は税収の約22%を占める重要な財源である。(Reuters)
消費減税は、物価高対策としても効率が悪い。大和総研の試算では、飲食料品の消費税をゼロにすれば年間約5兆円の歳入が失われる一方、GDPの押し上げ効果は約0.3兆円にとどまる。高所得者ほど消費額が大きいため、減税の恩恵も大きくなり、本当に困っている世帯への支援としては焦点がぼやける。(ディレクトリ)
さらに、需要を刺激する減税はインフレ圧力を強める。インフレ率が上がれば日銀は利上げを迫られ、国債費と住宅ローン金利が上昇する。財政への不安が強まれば日本国債が売られ、円も再び売られる。
政府が一方で円を買い、他方で円安の原因となる政策を実施するのでは、穴の開いたバケツに水を注ぐようなものだ。
「減税をやめろ」という事実上の外圧
もちろん、ベッセント長官が公の場で「消費減税をやめろ」と発言したわけではない。それどころか、高市政権について「アベノミクスの新たな段階に入った」と評価している。(Reuters)
しかし、外交では公の発言よりも、政策の構造を見る必要がある。米国は自国の資金と信用を使って円を買い支えた。追加介入にも応じるという以上、日本側にも円の安定を損なわない財政・金融政策を求めるのは当然である。日本が大規模な減税と歳出拡大を続け、その結果として円安が再燃するなら、米国は何度でも日本の失政を救済することになる。それを米国内の議会や納税者に説明することは難しい。
国際通貨基金(IMF)も2026年の対日審査で、日本政府は消費税の減税を避けるべきだと明記した。支援策は脆弱な世帯に対象を絞り、一時的かつ財政中立的に行うべきだというのが国際機関の勧告である。(IMF)
米国もIMFも、表現こそ違うが、日本に求めていることは同じだ。物価高対策を名目に財政を拡張し、円安とインフレを悪化させるな、ということである。これが高市政権にかかり始めた「外圧」の正体だ。
選挙公約と国際金融の板挟み
高市首相にとって、消費減税は総選挙で掲げた看板政策である。撤回すれば「公約違反」と批判され、強行すれば円安・金利上昇を招き、日米協調介入の効果を打ち消す。この板挟みは、高市政権が自らつくり出したものだ。
円安による物価高を消費減税で補おうとすれば、財政悪化への懸念からさらに円安になる。その円安を止めるために為替介入を行い、介入のために米国の協力を求める。米国から財政規律を求められると、今度は減税を実施できなくなる。
完全な政策の自己矛盾である。高市政権が取るべき道は、消費減税を撤回し、低所得者への給付付き税額控除など対象を絞った支援に切り替えることだ。同時に、社会保障費の効率化や歳出改革によって恒久財源を確保しなければならない。
日米協調介入は、高市政権を救済したように見える。しかし実際には、「円安を止めたいなら、円安を生み出す財政政策をやめろ」という強い警告でもある。高市首相が困惑しているとすれば、それは外圧が理不尽だからではない。自らの公約と経済政策が両立しないという現実を、米国と市場から突きつけられたからである。







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