高市首相が日銀の国債買い入れを増やして金利を下げる「金融抑圧」

  • 高市首相が日銀に国債購入の拡大を求めたことは、金融政策への政治介入であり、市場の正常化を妨げる「金融抑圧」と受け取られかねない。
  • 国債買い入れによる金利抑制は、財政負担を軽くする一方、円安とインフレを通じて国民の預金や実質所得を目減りさせる「見えない税」となる。
  • 短期的には政府債務比率を下げられても、円への信認が失われれば金利急騰や通貨危機を招き、アジア全体へ波及するおそれもある。

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特に驚いたのは「官邸サイドは5月の会談終了後、首相の発言概要をメモにして植田和男日銀総裁に渡し、報道陣の前で読み上げるよう求めた」という部分だ。まさに絵に描いたような金融抑圧(Financial Repression)である。

さすがに植田氏はメモを読み上げたりしなかったが、日銀は2027年4月で国債購入の減額を止め、毎月2兆円の購入を続けることになった。

金融政策の正常化を望まない高市政権

この問題は単に首相の一発言ではすまされない。日本が30年近く続けてきた超金融緩和からようやく正常化へ向かおうとしている時期に、政治が再び日銀を財政運営の道具として利用しようとしているのではないかという疑念を市場に抱かせたからである。

高市政権が懸念しているのは長期金利の上昇だ。政府が大型の財政支出を続ければ国債発行は増える。市場が財政悪化を懸念すれば、より高い利回りを要求するため長期金利は上昇する。これは市場経済ではごく自然な反応である。

ところが日本では、長年にわたり「金利が上がれば日銀が国債を買う」という構図が続いてきた。黒田東彦総裁時代には異次元緩和とイールドカーブ・コントロール(YCC)で長期金利がほぼゼロ近辺に固定された結果、国債市場は流動性を失い、市場価格が形成されない異常な状態になった。

植田総裁はこのゆがみを修正するため国債買い入れを減額し、市場に価格形成を委ねる方向へ政策を転換した。その最中に首相が「国債をもっと買え」と求めたことは、市場に「政府は正常化を望んでいない」というメッセージとして受け取られた。

金融抑圧とは何か

金融抑圧という言葉は1970年代に経済学者ロナルド・マッキノンやエドワード・ショーの提唱した概念である。政府が市場金利を人為的に低く抑え、中央銀行や金融機関を利用して国債を消化させ、インフレで借金を目減りさせる政策を意味する。

第二次世界大戦後、多くの先進国はこの方法で膨張した政府債務を処理した。名目金利を低く維持しながらインフレ率を金利より高くすれば、預金者や年金生活者は実質的に資産を失う一方、政府債務は実質的に減少する。金融抑圧とは、国民の金融資産から政府への見えない所得移転なのである。

日本でもアベノミクスの「異次元緩和」は、世界最大規模の金融抑圧だった。日銀は500兆円を超える国債を保有し、日本国債市場の最大の買い手となった。その結果、

  • 財政赤字が拡大しても金利はほとんど上がらなかった
  • 円安が進み輸入インフレが加速した
  • 家計の実質所得は減少した

異次元緩和にはデフレ脱却という目的があったが、今は物価上昇率が2%を超え、当時と状況は大きく異なる。それにもかかわらず、再び国債買い入れを拡大するのは、それは危機対応ではなく財政支援になってしまう。

国債のマネタイゼーションが大インフレ・円安をまねく

日銀の国債買い入れはマネタイゼーションと呼ばれる。国債を日銀券に替え、政府の債務負担を減らすからだ。しかしこれによって市中にはマネタリーベースがあふれ、市場は「財政赤字の歯止めなき拡大を恐れて高いリスクプレミアム(金利)を要求する。

皮肉なことに、金利を抑えようとして行った政治的介入が、かえって金利上昇を招く可能性もある。これは英国で2022年にトラス政権が大型減税を打ち出した際に起きた「トラス・ショック」と同じ構図である。

マネタイゼーションは税金を上げずに国民負担を増やせるため、政治的には魅力的だが、その負担はインフレという形で国民全体に広く薄く転嫁されるのだ。

インフレ税は通貨危機をまねくおそれがある

高市首相のインフレ税には、一定の合理性がある。政府債務の名目GDP比を下げる早道は、インフレで分母の名目GDPを上げることだ。普通はインフレになると金利も上がるが、日本では実質マイナス金利が20年以上続いている。

このように預金者が金利に無関心で貸しっぱなしにしているときは、預金を原資にして金融村がゼロ金利の国債を買い、政府は借りっぱなしにできる。もしこの状態が今後も続くなら、金融抑圧で金利を抑えれば政府債務比率は劇的に減る。

しかしインフレ税には、大幅な円安を招くリスクがある。いまアジアでは通貨安が拡大し、1998年の通貨危機に似た状況になっている。アジア通貨をアンカーしてきた円が崩壊すると、危機がアジアに波及するおそれもある。それがまさに今回、ベッセントが恐れたことだ。

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