地下に埋葬されていた「神」が見つかった!

当方は8月5日のコラム「干ばつとマンモスの骨と『神の遺体』」の中で、歴史的な干ばつでドナウ川の水位がさらに低下すれば、水底から第1次、2次世界大戦時代のナチスの軍需品や宝ものなどが見つかるかもしれない。ひょっとしたら、フリードリヒ・ニーチェを代表とする人類に殺害された「神」の遺体も発見されるかもしれないと書いた。当方の期待に反してあまり反響はなかったが、当方の予言は100%ではないが、当たった。「神の遺体」の発見を書いた当方も驚いている。以下、猛暑の日々を過ごされている読者の皆さんに音楽の都ウィーンから「真夏の夜の夢」物語を紹介する。

トルコ南部で発見された医神「アスクレピオス」の像、オーストリア国営放送(ORF)からスクリーンショット

トルコ南部のアリャンタ県にある古代都市アスペンドス(Aspendos)の遺跡で、約1800年前(ローマ帝国時代)のギリシャ神話に登場する医神のアスクレピオスとその息子テレスフォロスの大理石像が発見された。「医療と治癒」を司る神アスクレピオスと、その傍らで「治療・回復・平癒」を象徴する子どもの神テレスフォロスの親子像だ。トルコ文化観光省のメフメト・ヌリ・エルソイ観光相の説明によると、高さ2.2メートルに及ぶ、非常に立派な大理石製の群像だ。年代は 西暦2世紀後半(ローマ帝国盛期)のものと推定されている。

遺跡内の劇場通り沿いにある東広場の西側、記念碑的な門(モニュメンタル・ゲート)の崩落した跡から出土した。トルコ政府が進める通年発掘・文化財保護プロジェクト「未来への遺産(Heritage for the Future)」の一環として発見されたものだ。

「アスクレピオスの衣服のドレープ(ひだ)や、特徴的な髪、髭の表現など、非常に精緻で優れた職人技が施されていた。病気の治療から完全な回復までを包括的に表現したこの像は、当時のローマ社会において医療や信仰がどれほど重要視されていたか、また公共の健康に対する価値観を紐解く上で、極めて貴重な発見」と考古学的価値が説明されている。

賢者は「当方氏は暑さのせいで正しく考えられなくなったのではないか。トルコで発見された『神』はギリシャ神話で登場する神であって、ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒が信じる唯一神ではない」と説教されるかもしれない。しかし、当方が期待していた「アブラハム・イサク・ヤコブの神」ではないとしても、 アスクレピオスは、ゼウスの息子の太陽神アポロンの息子だ。つまり、最高神ゼウスから見るとアスクレピオスは「孫」、テレスフォロスは「ひ孫」にあたる血縁関係だ。その像が1800年ぶり地上に再現したのだ。「神の再現」といえば少々大袈裟だが、看過できないニュースだ。「なぜ今、最高神ゼウスの孫アスクレピオスの像が発見されたのか。数年前でもなく、10年後でもなかったのか」と考えて頂きたい。

アスクレピオス神は「医療と治癒」を専門とする神だ。賢者ケイローンから医術を学び、やがて「死者をも蘇らせる」ほどの天才医師になった。ただし、死者を生き返らせたことから、世界の秩序(生と死のバランス)が崩れることを恐れた最高神ゼウスの怒りを買い、その雷を受け、命を落とした。しかし、死後、その偉業を称えられて「へびつかい座」となり、正式に神の列に加わったというのだ。世界保健機関(WHO)のロゴや、世界中の医療機関・救急車のシンボルマークとして広く使われている「1匹の蛇が巻き付いた杖」は‘アスクレピオスの杖‘と呼ばれている。

なお、医療の神が蛇をシンボルにしているのは、蛇が成長するたびに脱皮し、古い皮を脱ぎ捨てて新しい体に生まれ変わることから、再生と回復を象徴しているからだ。

ちなみに、アスクレピオスには、息子テレスフォロスのほかに娘たちがいた。例えば、 ヒュギエイア(Hygieia)は予防と衛生の女神であり、病気にならないための「清潔さ」や「健康管理」を司る女神だ。英語の 「Hygiene(ハイジーン:衛生、清潔)」 の語源になった。また、パナケイア(Panakeia)は万能薬の女神だ。あらゆる病気を治す「万能薬」や「治療薬」を司る女神だ。英語の 「Panacea(パナシア:万病の薬、万能の解決策)」 の語源、といった具合だ。最高神ゼウスの絶対的な権力の中で、アスクレピオスの一族は、医療分野で特別な地位を築いていったわけだ。

以上、ギリシャ神話の世界を紹介した。多神教の世界であり、ゼウスを頂点として様々の神々がそれぞれ特定の分野のスペシャリストとして人類にその恩恵を与えてきた。そして今日、トルコ南部で1800年前のアスクレピオス神の像が発見された。干ばつ、火事、自然災害、そして戦争と紛争が席捲する現在、私たちは痛しと治癒を最も必要としている。そのような時、「医療と治癒」の神アスクレピオスの像が見つかった。繰り返すが、戦争の神、軍神アレスの像ではなく、アスクレピオス神の像が見つかったことは人類にとって朗報だ。

独哲学者フリードリヒ・ニーチェは「神は死んだ。私たちが神を殺害したのだ」と宣言したように、「アブラハム・イサク・ヤコブの神」は人類によって殺害された。そして「医療と治癒」の神アスクレピオスは祖父ゼウスによって殺された。神はなぜか一度は殺されているのだ。幸い、後者は今回、トルコで考古学者によって発見されたという。この知らせは非常に啓示的だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年8月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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