日銀が金利を上げ始めた頃、報道では「金利がある世界」という表現を一斉に使っていました。私のように35年も日本を離れている者からすれば金利がない世界とは時間軸に対する貨幣価値を否定しているようにしか思えなかったのです。つまり金利があるからこそ、いま消費をしなくてはいけないという発想が生まれるわけで金利がなければ何年たっても価格は変わらないのだから必要以上のものを買う必要がないことになります。
つまり日銀は金利をゼロに下げることにより「借り入れコストが安いんだからお金借りるよね」という期待だったのですが、私から見れば「それ、今買う?」ということになってしまうのです。真逆の発想ですが、今思い返してみても絶対的に正しいと思われた低金利=消費促進は必ずしも学説通りではなかったと思います。
たしか10年ぐらい前にこのブログで「低金利にもほどがある。ある一定以上下げればそれより下は刺激という点ではほぼ無意味であり、日銀はよりテクニカルな自己満足の世界に浸っている」という趣旨のことを書いたことあります。黒田氏の政策批判だと思っていただいて結構です。
ところが黒田氏も頑固なので自分の学術的な理論構成を全然変えられないわけです。よって黒田氏在任中は何も変わらないと諦め、ようやく変わった植田氏の手腕に期待したわけです。なんやかんや言われていますが、景気も崩れずに金利を1%まで上げてきており、今の見込みからすれば更に0.5%から0.75%引き上げるとみられています。
金利をどこまで上げるのか、という議論があります。基本的には景気をふかしすぎも冷やしすぎもしない中立金利程度まで上げるという話は昨年12月4日の本稿で述べており、日銀のいう中立金利は当時1.0%から2.5%、私の肌感覚は1.5%から2.5%と意見しました。最新の報道では日銀は当面1.75%程度を目指すのではないか、とされます。そこに到達する時期は来年の春ぐらいと予想されています。タイミングは秋に1回、年末から年始に1回、来春に1回の利上げです。
さて、金利が上がると困る業種の代表格が不動産事業です。理由は買い手がローン組みにくくなるからであります。カナダで金利上昇局面において住宅販売がどう推移したかと言えば個人の購入予算額が圧迫され、その結果、より郊外の安いところに居住地を移すという流れが生まれました。予算額とは購入できる住宅の最大金額です。大雑把に言えば低金利の時は8000万円ぐらいと思っていたものが政策金利が1.0%を超えてさらに上昇見込みとなれば変動にしろ、固定金利にしろ連れ高しますから予算は7000万円にしようか、ということになります。当然ながら予算減となればより遠くに行かないと夢のマイホームはゲットできないわけで住宅市況には大きな影響が出るわけです。
ただ、ここに最近もう1つ面白いトレンドが生まれる可能性が出てきています。それは日本の金利が上がればアメリカ国債の利回りが上昇するという「風が吹けば桶屋が儲かる」的な展開です。
これは日本の超長期国債の利回りが4%台に突入していることが理由です。例えば30年物国債のチャートを見るとこの5年間見事に右肩上がり。ここまで上がってくるとアメリカの国債を買わずに日本の国債を買ってもよいな、と思い始めているのが財務省であります。つまり今までせっせとアメリカ国債を買い続け、その保有高は世界一となり、ベッセント氏にとってみれば「片山さまは神様です」のはずでした。
ところが為替介入で国債を20兆円売却し、今後もその穴埋めではなく「アメリカ国債より日本の国債を買うわ」となればアメリカの超長期国債は「誰が買うねん」という流れになるのです。アメリカの超長期国債の利回りは2007年来の高水準とされますが、超長期国債の買い手は国力を見るわけですから、5年後、10年後のアメリカをどう思う、と想像すればよいのです。今、それを聞けば、「イランとの戦争であれだけ武器を使っちゃったから今後も国防費は高水準のレベルだよね」と答えるでしょう。またトランプ氏の移民抑制政策で「アメリカ人の年齢分布も移民の絞り込みで平均年齢の高齢化が起きるから社会保障の問題も顕著になってくるよね」であります。「ならばアメリカも没落とまではいわないまでも欧州と同じような冴えない構造的問題を抱えることになるんじゃない?」という誰でもわかるストーリーラインが生まれてしまうのです。
今日あたりのアメリカの金融報道ではベッセント氏の打ち出す政策に批判的というか懐疑的な目が広がってきています。中には「ベッセント氏はcry uncle (降参)!」という辛辣な記事もあります。ベッセント氏はアメリカ国債を売り歩くことを仕事としていると明言している中、最近の利回り上昇=アメリカ国債の不人気振りに焦っているともみられています。

ベッセント米財務長官による表敬を受ける高市首相 2026年5月12日 首相官邸HPより
ところで日本の株価について年末予想が7万円台で並びます。一部には9万円という声もあるようですが、それは現時点では希望的観測で理論的に説明しにくいと思います。いずれにせよ、年末までに金利が最大2回上がるかもしれないということは住宅関連が雨模様、消費関連に若干の陰りが見えてくるはずです。銀行株もピークを迎えるでしょう。あとは産業ごとの海外需要の動向次第ですが、アメリカは中間選挙の結果にかかわらず、経済がへたってくる公算があります。その最大の理由は産業テーマが欠如してからです。AIは食傷気味なのです。
ここで経済の理論が戻ってくるのです。金利が高い⇒吹かし過ぎの経済を抑制する⇒消費減退⇒業績の踊り場⇒将来を買う株価は頭打ち、であります。日経平均の超長期チャート見ると安倍氏が第2期目の首相を始めた時から株価の上昇トレンドを描き、今、明らかに宴の絶頂期になっており、常識的に見て株価指数は上昇しすぎとみるほうが正しいと思います。まぁ私の予想が外れることを祈りますが、私が仮に日本に在住していても日本株は買いにくい環境に見えます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年8月21日の記事より転載させていただきました。







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