またEVが話題になっている。いつものように「中国のEVが世界を制覇するので日本も参戦しろ」とあおるのが猪瀬直樹氏で、それ以外の人はほとんど賛成しないという構図だ。
なぜかEVについて書くと乗ったこともなくろくに知らないくせに、わーッと否定の叫び声が溢れる。戦前の反米がいまの反中国なのだろう。中国のEVは激しい技術競争のなかで淘汰され進化している。内燃機関に関わる部品メーカーのしがらみがなく更地からスタートしたので一気に未来へ踏み込んでおり、自動… https://t.co/4EBedifRiB
— 猪瀬直樹 【作家・参議院議員、日本維新の会 参議院幹事長】 (@inosenaoki) August 25, 2026
チャッピーに論評してもらった
『昭和16年夏の敗戦』で猪瀬氏が描いたのは、日米開戦前に総力戦研究所が行ったシミュレーションである。若手官僚や軍人、民間人らが戦力を分析した結果、導き出された結論は「日本必敗」だったが、日本は開戦へ突き進んだ。
重要なのは、当時の指導者がアメリカの強さを知らなかったわけではないことだ。むしろ時間がたてばもっと不利になるから「今やるしかない」という精神論が、冷静な計算を押し流した。その構図は、今回のEV論とどこか似ていないだろうか。
中国EVは過剰生産で「レッドオーシャン」
中国EVが急成長していることは事実だ。IEAによると、2025年には世界で2000万台を超えるEVが販売され、新車販売の約4分の1を占めた。中国では1300万台以上が売れ、世界のEV販売の約6割を占める。世界のEV生産の約75%が中国で行われている。

中国では2025年に約1600万台のEVを生産したが、国内需要を約20%上回った。国内の激しい価格競争で利益率が圧迫され、中国メーカーは余剰生産能力を海外へ振り向けている。EV輸出は250万台を超え、前年比で倍増した。
つまり中国EV市場は「未来産業だから誰でも儲かる」のではない。莫大な設備投資の結果として過剰生産が発生し、企業が値下げ競争を繰り広げるレッドオーシャンなのだ。その市場へ日本メーカーが「中国に遅れるな」と一斉に突入するのは危険である。
補助金を打ち切った米国では、EVの販売は激減した
EV販売が世界で伸びていることも事実だが、それを内燃機関の敗北と解釈することはできない。IEAによれば、2025年の欧州ではEV販売が30%以上増えたが、その背景にはEUの巨額の補助金と自動車CO2規制の強化がある。これによって自動車メーカーの採算は悪化し、EVに全振りしたフォルクスワーゲンは10万人をレイオフする予定だ。
米国ではトランプ政権がEV補助金を打ち切った2025年に、EV販売が落ち込んだ。特に第4四半期は36%も落ちた。EVに100%コミットする経営方針だったホンダは、その誤りを認めてEVから撤退した。EVは補助金なしで持続できない商品だからである。

米国のEV販売台数(東電エナジーパートナー)
今後もEVは世界の自動車の少数派
猪瀬氏は日本メーカーがHVで時間を稼いでいるという。この表現には最初から「EVが唯一のゴールである」という結論が埋め込まれているが、そうだろうか。
IEAがEVと呼んでいる車にはBEVだけでなくPHEVも含まれている。世界市場ではBEVが600万台まで上昇したが、HEVは200万台、PHEVは350万台で、合計するとEVとほぼ同じだ。これを全部あわせて「電動車」としても、内燃機関(ICE)より少ない。
欧州の脱炭素化マフィアのエージェントとして悪評高いIEAのシナリオでも、2035年の世界新車販売に占める(広義の)EVは約50%である。急速なEV普及を想定しても、世界の新車がすべてBEVになる日は来ない。
中国はEVをつくりすぎてダンピング輸出
中国市場もバラ色というわけではない。むしろ20%の供給過剰である。EVを国家的な成長産業として育成した結果、多数のメーカーが乱立し、激しい値下げ競争が発生した。中国ではこれを内巻(過当競争)と呼んでいる。その利益率は、膨大な補助金をもらっても公称1.5%である。
そのため中国メーカーは余剰生産能力を海外市場に振り向け、BYDをはじめとする中国メーカーが東南アジア、中南米、中東、欧州へダンピング輸出している。中国以外の新興国では、中国からの輸入車が2025年のEV販売の55%を占めた。EVはもはや環境商品というより、中国が世界市場へ輸出する巨大な工業製品になりつつある。
中国政府の補助金は巨額である。BYDには2018~22年だけでも直接補助で5000億円、土地提供など間接補助を含めると2兆円以上の補助がおこなわれている。明らかにWTO違反の輸出補助金だが、中国政府は「環境整備だ」とごまかしている。
中国のダンピングには報復すべきだ
こういう客観的データを無視して「世界に乗り遅れるな」というのは、東條英機と同じ精神論である。負けるとわかっている戦争に突っ込んだことが『昭和16年夏の敗戦』の原因だった。その著者である猪瀬氏が「EV戦争に参戦しろ」と呼号しているのは皮肉である。
これは貿易ではなく、中国が国家ぐるみでしかけてきた経済戦争である。日本政府はこれに対抗して、BYDの補助金を1台15万円に下げた(国産メーカーやテスラは110~130万円)。まず中国車の補助金をすべて打ち切り、WTOに提訴して輸出補助金をやめさせ、それでもだめなら一時的に中国車だけに100%の関税をかけてもいい。
中国のダンピングは、いつまでも続けられない。特に日本のドライバーはEVに冷淡なので、日本では業務用車両の一部に導入される程度だろう。EVを否定する必要はないが、棲み分ければいい。EVは猪瀬氏のいうような「パラダイムチェンジ」ではなく、自動車の多様化にすぎない。







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