3800万円不正受給NPO「ミネラル不足がいじめを生む」:東京都補助金審査を問う

東京都がNPO法人「再チャレンジ東京」に交付した自殺対策関連補助金をめぐり、2018~2024年度の交付決定約4894万円が取り消され、既に交付された約3779万円について返還請求が行われた。虚偽申請を見抜けなかったことは重大である。

しかし、もう一つ気になる。申請書類も実績報告もすべて正しかったとしたら、この事業に公金を投入すること自体には問題がなかったのだろうか。補助金行政が確認すべきなのは「計画通り実施したか」だけではない。「そもそも税金を投入するだけの合理的根拠があるか」ではないのか。

約3800万円の不正だけを見てはいけない

東京都は2026年8月24日、再チャレンジ東京について、2018年度から2024年度までの補助金交付決定48,939,000円を取り消したと発表した。既交付額は37,793,000円。東京都は2018~2023年度分について「偽りその他不正の手段により補助金の交付を受けたため」などとしている(東京都発表)。

当然、不正な申請を見抜けなかったことは検証されるべきだ。しかし、不正受給事件だけを追っていると、行政監督のもう一つの問題が消えてしまう。

「活動を本当にやったのか」と「その活動を税金でやる価値があったのか」は別の問いである。

前者は実施確認であり、後者は政策評価である。

公立小学校で行われていた「ミネラル」の授業

品川区の公式記録によると、2018年2月8日、区立第一日野小学校で3・4年生190人を対象に「命を守る」特別授業が行われた。品川区はこれを東京都の「自殺対策緊急強化事業」とし、再チャレンジ東京が開催したものと記録している。授業では作文や音楽に加え食生活も扱われ、掲載写真には「ミネラルをとることの大切さを説明」とある(品川区公式記録、※8月26日時点でリンク切れ)。

ここでは時系列に注意が必要だ。2018年2月は2017年度であり、今回東京都が取消対象とした2018年度以降には含まれない。したがって、「不正受給した約3800万円でこの授業を行った」とは言えない。

むしろ重要なのは、不正対象期間より前から東京都の自殺対策事業で、この団体が学校に入り、食事やミネラルを扱っていたことだ。東京都の資料では、少なくとも2015年度の若年層対策事業の実施団体一覧にも再チャレンジ東京の名が確認できる(東京都2015年度資料)。

団体自身は、さらに強い説明をしていた

現在も閲覧できる団体紹介ページでは、いじめの原因を探る中で「虐待やいじめは食、とりわけミネラル不足」であることを突き止めたと説明している。さらに、ミネラル不足によって「ストッパーの利かない人間」になるとして、京都アニメーション放火殺人事件や相模原障害者施設殺傷事件まで例示している。これは筆者の評価ではなく、団体自身の公開説明である(団体紹介ページ)。

ここで「ミネラルなんて関係ない」と笑って終わらせるのも正しくない。栄養状態が心身や行動に影響する可能性は、れっきとした研究対象だからだ。

2025年のCampbell Systematic Reviewsに掲載された、若年者への栄養介入と攻撃性・反社会的行動を検討した50研究のシステマティックレビューでは、幅広い栄養介入による改善可能性が示された。一方、バイアスリスクの高い研究を除外すると、攻撃性への効果はほぼゼロまで縮小し、著者らも確定的な結論は出せないとしている(Campbell Systematic Reviews)。

栄養と行動に何らかの関連があり得ることと、「ミネラル不足がいじめや虐待を生み、重大事件につながる」という強い因果関係を、公的教育の前提にすることは全く別である。

東京都には「審査制度」はあった

では東京都は、申請された活動を無審査で採択していたのか。そうではない。少なくとも2023年度公募要項では、事業計画や経費内訳などを提出させ、「書面、問合せ、ヒアリング等による審査」を行った上で採択すると明記している。採択後も、問い合わせや現地調査で履行状況を確認できる仕組みだった(東京都2023年度公募要項)。

つまり、チェック制度そのものが存在しなかったわけではない。だから逆に聞きたい。その審査では、いったい何を審査していたのか。

開催回数、講師謝礼、領収書の確認は必要だ。だが自殺対策事業なら、「この介入によって、なぜ自殺防止につながると考えるのか」「児童に教える健康情報にはどの程度の科学的根拠があるのか」「成果を何で測るのか」という問いも必要ではないか。

今回確認できた公開公募資料からは、健康・心理・教育上の主張について、誰がどのような専門性とエビデンス基準で実質的妥当性を評価したのかまでは分からない。

自殺対策だからこそ、単純な因果論には慎重であるべきだ

自殺対策基本法そのものが、自殺について「多様かつ複合的な原因及び背景」を有すると定めている。社会、家庭、健康、経済、教育など複数の要因が絡むからこそ、自殺対策は難しい(自殺対策基本法)。

その分野で公金を使う以上、「善意の活動だから」「子どもの命を守る活動だから」という看板だけでは足りない。善意はエビデンスではない。公益性も検証免除の理由にはならない。まして学校で児童に健康情報を伝えるなら、行政が求める確認水準はむしろ高くなるはずだ。

「金を正しく使ったか」の前に「正しいものに金を使ったか」

日本の補助金行政では、不正が発覚すると、領収書、実績報告、返還請求といった会計上の問題に議論が集中しやすい。それは必要だが、それだけでは足りない。

100回実施したと申請して、本当は50回しか実施していなければ不正である。では、100回すべて実施していたら、それだけで税金の使途として正しいのか。違うだろう。

必要なのは、いわば Evidence-Based Public Funding――根拠に基づく公金支出 である。行政は「計画通り金を使ったか」だけでなく、「その事業に税金を投入する合理的根拠があるのか」まで問わなければならない。

再チャレンジ東京事件が突きつけているのは、NPO1法人の不正だけではない。東京都の補助金審査は、帳簿と実施回数の先にある「事業そのものの妥当性」を、どこまで見ていたのか。 不正を見抜けなかったこと以上に、そこを検証すべきである。

【出典】

 

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