生成AIは人間の仕事を奪うのでしょうか。この議論について、興味深い対照をなす2つの事例が、ほぼ同じ時期に明らかになりました。

Metaは「人を減らす」ことから考えた
一つはMetaです。同社はAIによって組織そのものを大幅に小さくしようとしましたが、計画は途中で軌道修正を余儀なくされました。
Reutersが報じたところによると、Metaでは2026年初め、Project OTと呼ばれる大規模な組織改革を検討していました。これはAIエージェントに従業員の日常業務の多くを担当させ、従来10~20人程度だった開発チームを3~5人程度の小さなチームに再編するものです。
一部ではチームの規模を最大60%削減するシナリオまで検討されていました。しかしMeta内部では、AI利用によるコード変更量が前年比220%増えた一方、実際にユーザーへ届けられた新機能や改善につながる変更は36%増にとどまったといいます。
つまりAIが大量の「作業」を生み出しても、それがそのまま「生産性」にはならなかったのです。さらに社員の間には「自分たちがAIを教育し、そのAIに自分たちが置き換えられるのではないか」という不安が広がり、社内の従業員意識調査で肯定的回答は74%から55%へ急落しました。
Metaは5月に10%の人員削減を実施したものの、11月に予定していた第2弾の大規模再編は中止しました。
Asanaは「仕事を」をAIにやらせた
対照的なのがAsanaです。2022年から、フロントエンドのテスト環境を古いEnzymeからReact Testing Libraryに移行する作業を続けていましたが、対象となるコードは膨大でした。何年も作業を続けても終わらず、従来のペースならさらに約5年かかると見積もられていました。 (asana.com)
そこでAsanaは、この作業をOpenAIのCodexにやらせてみました。最大4つのAIエージェントを並行して走らせ、人間のエンジニアは朝と夕方に進捗を確認し、変更内容をレビューしました。
驚くべきことに、指示文はわずか5文でした。結果、約2週間で移行が完了しました。モデル利用料は約1万1000ドル、インフラ費用は約1000ドルでした。Asanaによれば、同程度の作業を人手で行えば約600万ドル相当のエンジニアリングコストがかかったと試算しています。
AIには「明確なゴール」が必要
MetaとAsanaの最大の違いは、AIに与えた仕事の粒度にあります。AsanaがAIに渡した仕事には、明確なゴールがありました。Enzymeをすべてなくす。終わったかどうかが機械的に判定できます。さらに型チェック、lint、テスト、CIといった仕組みによって、AIが間違えればすぐに検出できます。
Asana自身も、今回成功した理由として「明確に検証可能な完了条件」と「高速なフィードバックループ」を挙げています。これは生成AIを仕事で使ううえで重要なポイントです。
「新商品を成功させてください」とか「顧客満足度を上げてください」とか「会社を成長させてください」といった曖昧な仕事をAIに丸投げするのは困難です。
一方で「この1000本のテストを新しい形式に書き換えて」とか「この契約書から特定の条項を抽出して」とか「このデータとこのデータを照合して矛盾を一覧表にして」といった仕事であれば、AIは迅速に処理できます。重要なのは仕事をAIが処理できる形に分解する能力なのです。
「人をAIに置き換える」は順番が逆
AI時代になると、経営者はどうしても何人減らせるかを考えます。しかし組織には意思決定、調整、例外処理など、明確に数値化できない仕事が大量にあります。こうした仕事まで一括してAIで代替しようとすると、Metaのような問題が起きます。
順番は逆なのです。まず仕事を細かく分解します。その中からゴールが明確で、結果を検証でき、失敗しても人間が修正できる仕事をAIに渡します。そこで本当に工数が10分の1になったのであれば、その時点で初めて組織や人員配置を変えればよいのです。
AIの設計は「仕事」を中心に
Asanaは「社員の代わりになるAI」を作ろうとしたのではありません。社員が抱えていた面倒な仕事をAIにやらせました。結果として、人間なら何年もかかった仕事が数週間で終わりました。
AI革命の本質は「人間をAIに置き換えること」ではなく、人間がやらなくてよい仕事を、どこまでAIに渡せるかです。企業間の生産性格差を決めるのは、最新モデルを導入したかどうかではなく、この仕事の切り分け方になっていくのではないでしょうか。







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