高市首相とメディア、それも新聞社説との全面対決という異常な政治状況が続いている。国の根幹にかかわる多くの政策選択について、ほぼ全紙の社説が猛烈な批判を浴びせる光景は、政治史上あまり見られない。
新聞の部数は減り、社説を読む読者は少数だろう。だからといって注目されていないわけではない。政界、経済界の指導者や、論壇、識者、メディアの専門家は目を通し、方向感覚を定める一助にしているはずだ。
社説の読者は確かに少数であっても、国家や社会のあり方を考える上で、存在価値は十分にあるはずだ。個別の解説、記事が記者個人の自由意思で書かれるのと違い、新聞社の考え方を示すのが社説である。

高市首相 首相官邸HPより
右寄り・左寄り、リベラル・保守も一致して高市批判
昨年秋、高市政権が発足して以来、主要な政策を巡り、社説が激烈といっていいほどの批判を続けている。新聞社にも左寄り・右寄り、リベラル・保守、政権寄り・政権批判派などがあり、論調の違いはあるのに、最近は一致して政権批判をする異様な光景である。
高市政権で目立つのは、政権寄り・政権批判、リベラル・保守と色分けがつく新聞界なのに、まるで申し合わせたように、国の基本問題で高市批判が一致していることが多い点だ。高市政権に深刻な危機感を抱いているのである。
直近の例では、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長個人に対し、トランプ政権が制裁対象に指定した問題がある。朝日、毎日はもちろん、読売、産経、さらに日経新聞も、「法の支配を守り抜くために、私は屈しない。日本政府は最大限の努力をしてほしい」との赤根氏の訴えを重視し、政府の弱腰を批判しているのである。
この件だけならともかく、7月の皇室典範の改正でも、高市政権の改正案を各紙の社説は激烈な調子で批判した。神道新聞のようになってしまっている産経は、政府に同調する主張だった。それを除くと、政権寄りとされる読売新聞が朝日新聞以上の激しい言葉で高市批判を浴びせた。
飲食物の消費税減税でも、各紙社説は「財政危機を深刻化させる」で一致していた。社会保障財源になっている消費税減税で5兆円の穴があく。選挙対策を優先して、財政を危機に陥れてはいけないという趣旨である。ほぼ全紙が一致して警鐘を鳴らしたといっていい。
安保闘争の7社共同社説を思い出す
新聞史上に残る有名な社説は、1960年安保闘争の際、新聞7社が発表した「7社共同宣言」(1960年6月17日)である。「暴力を排し、議会主義を守れ」の見出しだった。論調の違いを超えて、7社が共同の主張をしなければならないほど、国のあり方に危機感を覚えたのである。その再来のようだ。
赤根ICC所長の個人制裁、皇室典範改正、消費税減税について、各社は論調をすり合わせたのではない。結果として、政策選択の誤り、高市政権の迷走・暴走批判で一致したということだろう。
ICCの問題はトランプ政権による「国際機関・国際秩序の破壊、法の支配の破壊」に対する批判で、日本が最大の資金拠出国(30億円、15%)であり、日本人が所長をやっており、日本が真っ先に対米批判をしなければならない。高市首相は「残念だ」、「遺憾だ」、「深刻に受け止めている」との発言にとどめ、トランプ批判は回避した。
「法秩序の破壊を許すな」(朝日)、「日本政府は米国政権の暴挙を許すな」(毎日)、「米国の暴挙から国際法廷を守れ」(読売)など、高市政権の弱腰を一致して各紙は批判した。「法の支配か、力による支配か」という国際政治の根幹を米国が破壊していることに危機感を覚えたのである。
皇室典範改正(7月)では、「象徴天皇制の根幹を傷つけた。問題の多い養子制度は白紙に戻せ」(読売)、「象徴天皇制の根幹を揺るがした」(毎日)、「国民の総意に値するとは言い難い」(朝日)と、いずれも激烈な論調である。
国民に親しまれる天皇制が定着しており、さらに国民は女性・女系天皇の容認を望んでいるのに、はるか昔の旧皇族の子孫を皇室に迎えようとしている。天皇制という国の形の一部を強引に変えようとしていることに、危機感を覚えているのである。天皇は首相ら政治権力より、霞んだ存在にしておきたいと考えているとしか思えない。
消費税減税は、国家経済の基本をなす財政制度を弱体化させることになる。災害、震災も多発し、さらに防衛費の増加、国際利払い費の増加が不可避な時期に、減税をすることの間違いを各紙は一致して批判している。
国際秩序の形成、国の形、国家経済の基本で誤った選択
「国際秩序を守るのに必須の条件である法の支配」、「国の形の一角をなす天皇制」、「国家経済の基本である財政の弱体化」で、高市政権は間違った方向に走りつつある。
「世界のまん中で咲き誇る日本外交」、「日米関係の黄金時代」など、上滑りしたスローガンだけならまだしも、高市首相は国際秩序のあり方、国家の形、国家経済の基本を考える能力が本当にあるのだろうか。
高市政権は日銀の利上げをけん制し、米国からは「日米協調利上げは、日本自身の利上げ・インフレ抑制が条件」と言われているらしく、米国からの圧力がないと、日銀金利という金融の基本を決められない。恥ずかしいと思わないのだろうか。
編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2026年8月28日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。







コメント