
覚悟はしていた。していた、はずだった。
子どもに「くそばばぁ」と言われる日はいつか来る。世の親はだいたいそう思っている。今回の主人公、『子どもにくそばばぁと言われた人が読む本』の著者・毒子氏もそうだった。
『子どもにくそばばぁと言われた人が読む本』(毒蝮毒子 (著)、ぱおっち (編集) Kindle版)
なにせ本人が思春期に1度、母親に向かってその言葉を撃ち込んだ前科持ちである。結果、母、号泣。クリティカルヒット。「やばい、とんでもないことを言ってしまった」と反省し、以後2度と使わなかった。過去回想としては完璧だ。
だから身構えていた。来るとしたら、上の子からだと。
ところが。
長男、優しい。わんぱくで猪突猛進、けがも友達とのぶつかり合いも日常茶飯事。なのに母には牙を剥かない。それどころか10歳下の妹が生まれた瞬間、ミルク、ゲップ出し、オムツ替え、寝かしつけ、風呂——フル装備で参戦してくる。外出先で妹がぐずる気配を見せれば、母より先に察知して抱き上げる。索敵性能が高すぎる。母いわく「アタシにとってのスーパーマン」。ほぼ母子家庭状態だった我が家の、事実上の父親がわり。小学生が、である。
……いや、待ってほしい。それ、手放しで褒めていい話なのか。褒めるけど。あとで効いてくるやつでは。(効きます)
案の定、溺愛されて育った妹はわがまま放題のラスボスに育つ。思い通りにならなければ泣く。わめく。2〜3歳は言葉が分からないから仕方ない。3〜4歳は誰でも通る反抗期だから仕方ない。そのうち直る。そのうち、そのうち……。
兄「いつになったらコイツの反抗期終わるわけ?」
母「ほんとだね。いつまでたっても直る気配ないよね」
なだめ役だったはずの兄が、静かにキレかけている。完全にフラグである。
そして、その矢先だった。叱られた妹が言い放つ。
「うるさい! くそばばぁ!」
齢5歳。小学校にすら入っていない。兄ですら一度も使わなかった禁呪を、幼稚園児が無詠唱で撃ってきた。
母、絶句。
——で、ここからが本書の面白いところなのだが、次に来たのが怒りではなく笑いなのだ。抑えられない。だめだ、笑う。5歳が偉そうに「くそばばぁ」って。著者本人は「2人目育児の余裕」「高齢出産による母の器の大きさ」と説明している。
結果どうなったか。暴言を吐いた姫は叱られることもなく笑って許され、ふてぶてしさをレベルアップさせていく。著者はそこに「今になって気づく反省点」と一行だけ置いて、章を閉じる。
これが地味に効く。余裕があったから笑えた。だが、余裕があったから叱れなかった。同じ言葉なのに、上の子には言わせずに済み、下の子には5歳で言わせてしまった。子どもの性格の差だけではない。変わったのは、親の側だ。
育児書はたいてい「正しい対応」を教えてくれる。本書は教えてくれない。笑ってしまいました、としか書いていない。そこが、いちばん信用できる。
※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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