概算要求の「強く豊かな日本」投資枠はクールジャパン機構の拡大版

2027年度予算の概算要求が出そろった。総額143兆円だが、今回の目玉は、高市政権が新設した「強く豊かな日本」投資枠である。この投資枠には要求上限、いわゆるシーリングがない。金額を示さない「事項要求」も認められている。

各省庁の要求を集計した報道によると、この投資枠だけで主要省庁の公表額を積み上げれば13兆円前後になる。しかも事項要求は別である。

リターンの不明な政府の「投資」

「投資枠」と聞いて思い出すのが、いま廃止・統合まで議論されているクールジャパン機構だ。クールジャパン機構の現在の出資金は1513億円で、そのうち政府出資は1406億円だが、2026年3月期の累積損失は540億円に達した。これに比べると、今回の「強く豊かな日本」投資枠はざっと90倍である。

もちろん両者は単純に比較できない。クールジャパン機構は株式会社なので、売却益や配当という形で直接的な投資回収を求められるが、「強く豊かな日本」投資枠には、道路、防災、研究開発、半導体、AI、エネルギー、医療などの政府支出も含まれる。政府が払った10兆円が、そのまま現金で戻ってくるわけではない。

だからこそ問題なのだ。政府はこれを成長投資と呼んでいるが、それならば投資にはリターンの計算が必要だ。13兆円投入したら民間投資はいくら増えるのか。

クールジャパンも「成長投資」だった

クールジャパン機構も、最初から「税金を540億円ドブに捨てよう」と思って始めたわけではない。日本の食、ファッション、コンテンツを世界へ売り込み、新しい需要を開拓し、ファンドとしてリターンを上げる予定だった。

しかし官僚には、民間の投資家のような強いインセンティブがない。投資が失敗しても自分の財産が減るわけではなく、成功しても巨額の報酬が入るわけでもない。結果として、赤字が膨らんでから何度も計画を修正し、最後になって統廃合することになった。

これはクールジャパンだけの特殊な失敗だろうか。AI、半導体、GX、宇宙、創薬――名前を変えれば、同じ問題は何度でも起こりうる。

むしろ危険なのは「成長投資だからシーリングを外す」という発想だ。通常予算なら財務省から「削れ」と言われる事業でも、成長投資という看板を掲げれば青天井で要求できるので、各省庁に何でも成長投資と呼ぶインセンティブを与える。

13兆円使って何兆円の価値を生むのか

財政支出そのものが悪いわけではない。防衛など政府しかできない支出もあり、原子力のように民間でリスクの負いきれない分野もあるが、半導体やAIは民間が巨額の投資をしている。

投資の対象を選別する上で政府が民間より「目きき」ではないことは、クールジャパン機構を初めとする経産省の産業政策で十分証明された。それを90倍に拡大した投資枠は、どれだけのリターンを上げるのか――民間企業なら当然問われる業績評価指標(KPI)である。

13兆円使ってGDPを20兆円増やすなら投資だが、国債を発行して金利が上がると、クラウディングアウトで民間投資を減らすだけで、日本経済としてはプラスマイナスゼロである。その事業がクールジャパンのように損失を出したらマイナスだ。

この投資で「潜在成長率」は何%上がるのか

高市首相は潜在成長率という言葉がお好きなようなので、まずこの投資枠13兆円で潜在成長率が何%上がるのか、それは何年続くのか、そのリターンは投入された国費に見合うのかをKPIとして出してほしい。

潜在成長率を上げるには単に政府支出を増やすだけではなく、資本効率と労働生産性を高めなければならない。そのために必要なのは、M&Aを活性化する資本市場改革や解雇ルールを法制化する労働市場改革などの規制改革である。政府支出はほとんど必要ない。

他方、インフレの中で政府が総需要を追加することは、インフレと金利上昇をもたらす。政府が日銀の利上げを妨害すると、円安の暴走が起こるリスクもある。これについてはベッセント財務長官も「アベノミクスは卒業しろ」と警告した。

日本は中国のような発展途上国ではない。高齢化して人口が減少し、資本過剰で企業は貯蓄を持て余している。そんな状況で政府が「成長投資」を追加しても、成長できないのだ。

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